尾の巻 第2話 殺意
『慣わしの墓』に侵入して3日後、俺の愛しきファブリックは、ブーガンに犯された。必死に堪えようとする彼女の嗚咽と、獣のようなあの男の呻き声。
俺はそのことに気が付いたとき剣に手をかけていた。仲間の二人に止められなければ確実に斬りかかっていたはず。そして簡単にブーガンにあしらわれ、返り討ちにあっていたはずだ。
俺は耐えた。
闇の向こうから二人の荒々しい息づかいが聞こえてくる中を、俺は耐えた。涙が溢れて止まらない。あの男への憎しみが募り、同時に己の不甲斐なさを呪った。
俺の中で、ブーガンへの殺意が芽生えた。
だが、背後から襲おうが、寝込みを襲おうが敵わないことは明白である。あの男と俺には天と地ほどのレベルの差があるからだ。それでも俺は立ち向かわなければならない。この手であの首を斬り落とさなければ気が済まない。
筋を通すべく仲間の二人にも相談した。このパーティの目的はあくまでダンジョンの攻略。道半ばで雇い主を殺害したとあっては報酬は貰えないのだ。手元に残るのは前金で頂戴したわずかな分だけ。
予想に反して仲間もブーガンを討つことに賛成してくれた。あの男の言動がそれだけ反感をかっていたということだ。規定の報酬はおじゃんになるが、代わりにやつの刀剣が手に入る。レア物7本。このダンジョン攻略以上の価値がある。この見返りが仲間たちにも魅力だったのだろう。積極的に作戦を練り始める。
3人がかりでも傷ひとつ残せまい。
王宮魔術師12人総がかりでも赤子の手を捻るかのようにあしらわられたと聞いた。正攻法では無理だ。
卑怯だが、ここはだまし討ちしか手はない。
俺たちはあの男の荷物持ちもやらされている。食糧への細工も容易にできる。さっき倒したモンスターから猛毒の液体も手にしている。味や臭いにさえ気をつければ気がつかれることもないだろう。