尾の巻 第1話 ギランとファブリック
俺の名はギラン。レベル38の探検家だ。以前は傭兵をやっていたので剣の扱いには自信がある。
西域の難関ダンジョンのひとつ『慣わしの墓』に挑戦することになった。自分のレベルでは攻略など到底無理な話だが、今回は凄腕の戦士がいると聞いて参加を快諾した。
伝説の戦士『七剣王のブーガン』だ。百人の騎士でもかなわなかったというレベル82の魔獣『スフィンクス』をたった一人で倒したとか、死霊王レベル76の『ヌラナ公爵』の軍勢を退けたなど唸るような手柄を幾つもたてている。
共に参加することになった女戦士ファブリックのことも動機のひとつだ。彼女とはもう長い付き合いで、何度も冒険のパーティを組んできた。向こうも好意を持ってくれていることは話をしていてわかっている。だが俺にはこれといって誇れるような手柄はたてていない。彼女の気持ちに応えられる男になりたかった。この攻略不可能と云われるダンジョンを制覇すれば俺は自信を持って彼女にプロポーズできる。今回の冒険には俺の、いや俺たち二人の未来もかかっているのだ。だから必要以上に力が入る!
俺たち以外に参加したのは、レベル29の傭兵ミックとレベル31の浪人ローン。どちらもダンジョン攻略では名を馳せているベテランだ。
『慣わしの墓』は地下に広がる広大な迷宮で、最深部まで辿り着いた者はいないとされている。生息するモンスターはレベル20〜60がぞろぞろいるらしい。最下層にはマスタークラスでも歯が立たない未知のモンスターが蠢いているとも聞いている。ラスボスはキングクラスまたは神魔クラスで、言い伝えでは『聖覇の太刀』という幻の剣を携えているらしい。
目的はあくまでラスボス撃破、このダンジョンの制覇にあると最初にブーガンに言われた。話に聞いていた通りに凄まじいオーラを発している男でその威圧感に圧倒された。
実際にダンジョン内でその剣さばきを間近に目にして鳥肌がたった。ここまで速く柔らかな剣を見たことがない。自分と彼との力量の差が皆目見当がつかないほどである。
しかし彼は必要以上に俺たちとは距離を縮めてこない。時折話す内容は信じられないほど横柄である。そしてファブリックを見る時の目つき…汚らわしくおぞましい眼光。皆が彼のことを嫌いになるまでそう時間はかからなかった。