秘められた想い
「こんにちは」
そう言いながら僕が扉を開いたのは、お洒落な外見のアクセサリーショップだった。
とても男性向けとは言えないこの店。僕だって普段だったら立ち寄ろうともしないだろう。……そこに、彼女がいなければ。
「いらっしゃい」
優しげな笑みで僕を迎えてくれたのは、一人でこの店を経営している女性だった。いや、彼女の見た目や雰囲気は、”女性”より”少女”と言ったほうが正しく思える。
僕の幼馴染である彼女の店で、お茶を飲みながら他愛のない話をする。いつの間にか、それが僕の日課になっていた。
「さぁ、どうぞ。……って、少し散らかってるんだけど」
彼女は少し恥ずかしそうに笑うと、テーブルの上にあった物を片付け始めた。
「何か作ってたの?」
「うん……でも、使うビーズを失くしちゃって」
彼女はそういうと、作りかけのアクセサリーを僕に見せてくれた。
シンプルではあるが、品の良い雰囲気がある。作った人のセンスの良さをよく表していると思った。
「ほら、ここに天然石の大きめなビーズを通せば完成なんだけど……店の中で落としちゃったみたいで」
ふふ、と情けなさそうに笑う彼女の顔は、どこか悲しそうだった。そんな顔を見た僕は、すぐに言った。
「店の中? なら、手伝うよ」
「え、本当に!?」
パッと花が咲くように彼女の顔は明るくなった。僕は頷くと、その笑顔につられるように笑った。
「どこらへんで落としたの?」
「わからない……テーブルの近くだとは思うんだけど」
テーブル付近の床を、二人でくまなく探す。
大きめなビーズと聞いたのですぐ見つかると思ったが、それは甘い考えだったようだ。
ため息をつきながら商品棚の下に手を突っ込む。と、小さな丸いものが手に当たった。
「あ……っ、あった!」
棚の下から手を出し、そっと握っていた手を開くと、そこには白く輝くものがあった。
「よかった……! 本当にありがとう」
彼女は心底ほっとしたような顔で僕の元へ駆け寄ってきた。
「これ……真珠?」
「うん。でも変わった形をしてるでしょう? これ、ドロップパールって言うの」
「ふーん……」
特に宝石の知識がない僕でも惹きつけられる美しさだった。彼女は僕の手からドロップ型の真珠をそっと受け取ると、「ちょっと待ってて」と言ってパタパタと駆けていった。
しばらく経つと彼女は戻ってきた。右手には何かを持っている。
「はい、これ」
「え?」
渡されたのは先ほどのアクセサリーだった。真ん中にはさっき見つけたドロップパールがついている。
「いつも遊びに来てくれるお礼……かな?」
彼女ははにかむように笑った。少しだけ、恥ずかしそうに。
「え……でもいいの? 僕が貰っちゃって」
「うん。というか、私が君にあげたかっただけだから。気に入らなかったら捨てちゃってもいいし」
「いや! その……ありがとう、大切にするよ」
やっとのことでそう口にすると、彼女は嬉しそうに笑った。何だか妙に照れくさくなって、顔を見合わせて笑う。
ふと腕時計を見ると、もうかなりの時間が過ぎていた。
「あ、ごめん。そろそろ時間だし帰るよ」
「そっか。何かごめんね、探し物手伝わせるだけで」
彼女は申し訳なさそうに言った。
僕は持ってきたお茶菓子を彼女に手渡してから、微笑む。
「また来るよ」
お茶を飲みながら他愛のない話をするために。
君に、会うために。
そして彼女は言葉を紡ぐ。”次”が来ると信じて疑わない、幼いころから変わらない笑顔で。
「またね」