あとがき
ハロウィンに便乗してモンスター物を書こうと考えた、猟闇師シリーズ第五弾。
初めに謝っておきます。
色々と試行錯誤した結果、今回はバトル、アクションなどといった属性が皆無の作品になりました。
冒頭にフランケンシュタインからの引用を載せておきながら、知能の低い人造人間が暴れ回るような要素は微塵もありません。
どちらかと言えば、スティーブン・キング氏の小説、ペットセマタリー(映画版はペットセメタリー)に受けた影響の方が強いです。
また、警察が登場する頻度が今まで以上に高いですが、彼らがまったく役に立っていません。
推理物として書くつもりもなかったので、黒幕当てるだけなら素人でもできます。
恐らく、冒頭部分を読んだだけで、殺人事件の犯人には目星がついてしまうのではないかと思います。
バトルでもアクションでも推理でもない。
では、本作でやりたかったことは何なのか。
それは……ズバリ、何気ない日常の突然の崩壊です。
サスペンス・ホラーの好きな方であれば、『ひぐらしのなく頃に』というサウンドノベルを御存じの方は多いと思われます。
もともとは単なる同人ゲームの一つでしかなかった作品のようですが、今では様々な媒体で作品が販売され、映画化やアニメ化もされました。
単なる同人ゲームでしかなかった作品が、なぜここまで大きな反響を生んだのか。
過激なグロ描写が多いこと。
その裏に秘められた、絆というテーマが人々に感動を与えたこと。
理由は様々なものが挙げられていますが、私はあえて、何気ない日常が徐々に狂った方向に崩壊して行く様を描いたことを挙げます。
ホラーゲームの多くは、既に事件が発生している状態から始まります。
お化け屋敷に侵入したり、合宿所に到着したその日に殺人が起きたり、訪れた町が既にゾンビの巣窟になっていたり……。
しかし、ひぐらしは冒頭部分だけ見れば、単なるギャルゲーにしか思えないような展開しかありません。
漫画的な演出や、随所に挿入されたオタク的なネタなど、ホラーの要素は欠片もないのです。
それが、中盤辺りから一気に雲行きが怪しくなり、最後はとんでもない惨劇へと発展してしまう。
こうした日常の崩壊過程を細かく描いたことが、プレイヤーに親近感を持たせたのではないかと考えています。
話の内容を知らないオタクな人が、「萌アニメだと思って見たら酷い目に遭った……」などと言っていることが、作者の思惑通りに事が運んでいる証拠ではないかと……。
第五弾である魄繋ぎでは、無謀にもそれらの演出と同じ効果を狙った描写が多々あります。
あまりにも馬鹿馬鹿しい、九条照瑠達の日常シーン。
警察無線をいともたやすく傍受してしまう、漫画的な演出(本当は、傍受しても暗号化されているため、トランク一個分に納まる機械で翻訳までするなんて無理です)。
ともすればリアリティを損ないかねない程に、和むような場面や突拍子もない描写を随所に挿入しています。
それもこれも、全ては終盤の鬱展開を引き立てるため。
今まで何気なく過ごしていた日常が、一度に音を立てて崩れさる恐怖。
そんな物を書いてみたいと思い、今までの作風を無視するようなこともしました。
本当はフランケンシュタイン物を書くつもりだったのに、気がつけば前作同様のバッドエンド展開。
なんだか、悪い意味で読者の皆様を裏切ってしまったような気もしないではないですが……これも新しい挑戦の一つと受け止めていただければ幸いです。
また、最後に登場した謎の青年と猫娘のコンビ。
この二人に関しても、後々の作品の中で徐々に正体を明かして行くつもりです。
闇を用いて闇を喰らう、闇の死揮者。
紅と照瑠の二人とは別の、邪悪で危険な魅力を持たせて行ければと思っています。
2010年 11月 5日 雷紋寺 音弥