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短編集  作者: ほんじじ
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はさまる

 ゆき江はよく挟まる子だった。


 幼稚園のころは自動ドア。

 小学校では教室の引き戸。

 中学では電車のドアにリュックを。

 高校ではアルバイト先の冷蔵庫に指を。


「また?」と周囲は笑う。


 本人は笑えない。地味に痛い。


 社会人になっても変わらなかった。

 会議室のドア、エレベーター、コピー機のトレイ、なぜか絶妙なタイミングで挟まる。


「人生いろいろ挟まってるよね」


 友人にそう言われたことがある。

 仕事と恋愛のあいだ。

 期待と現実のあいだ。

 やりたいこととできることのあいだ。


 たしかに、ゆき江はいつも何かの“あいだ”にいた。


 あるとき港で船を見た。

 博多と佐世保を結ぶ高速船――博佐丸。


 白い船体が光っている。


「はくさまる、かあ」


 違うよ、と港の職員が笑った。


「地元じゃ“はさ丸”って呼ぶんだ」


 ゆき江は一瞬固まった。


 はさ丸。


 なんだか運命みたいだと思った。


 それから十年。


 海技士の資格を取り、現場で揉まれ、嵐にも偏見にも何度も“挟まれ”ながらゆき江は立っている。


 博多港の朝。桟橋の向こうに白い船体。


 博佐丸。通称はさ丸。


「出港準備、完了しました」


 その声はよく通る。


 女性初の船長として紹介されるたび、ゆき江は少しだけ笑う。

 挟まるのは悪いことばかりじゃない。


 人と人のあいだに立つこと。

 街と街のあいだを結ぶこと。

 海と空のあいだを進むこと。


“はさまる”ことはつなぐことだったのだ。


 汽笛が鳴る。


 自動ドアにはもう挟まらない。

 でも人生にはこれからもきっと挟まるだろう。


 そのたびにゆき江は前を向く。

 なにしろ私は“はさ丸”の船長なのだから。




 終


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