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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

遠距離恋愛したら裏切られた

作者: 夜道に桜
掲載日:2025/11/02

「美紅って、変わってるね」と言ったとき、

彼女はちょっと困ったように笑っていた。


「よく言われる。でも、自分じゃ分からないなあ……」


控えめで、言葉少なで、でも誰かを否定したことが一度もない。

誰よりも優しくて、繊細な人だった。


そんな彼女が、俺を好きになってくれたのが、ずっと不思議だった。



大学三年の秋。

合コンで偶然隣になった美紅は、地元企業で働き始めたばかりの社会人だった。


その日、俺は完全に場違いで、ずっとお茶を飲んで黙っていた。


「疲れてる?」


そう声をかけてくれたのが、美紅だった。

俺のような“冴えない学生”にも、まっすぐに接してくれた。


“起業したい”なんて話も、笑わずに聞いてくれた。


「すごいね。……私、そういうの、応援したくなるタイプかも」


それだけで、胸が軽くなった。


意外にも告白はすんなり通って、

そこから、少しぎこちない遠距離恋愛が始まった。


彼女は東北、俺は東京。


毎日のLINEと、夜の電話。


「今日も湊くんと話せて良かった」


そう言ってくれる事が、俺のモチベーションだった。



アプリが伸びたのは、大学四年の冬。

SNSで話題になり、少しだけ名前が知られるようになった。


投資も入り始めて、会社は忙しくなった。

LINEは返せないことも増え、電話を後回しにする日も増えた。


それでも、美紅は変わらなかった。


「……返事遅くても大丈夫だよ」

「でも、ちゃんと寝てね」


俺の忙しさを受け止めようとしてくれていた。


けれど、その優しさに、俺は甘えすぎてしまった。



ある日、美紅から、慎重な口調で連絡が来た。


《ごめんね。……今、ちょっとパソコンが壊れてて。買い替えないと仕事にならなくて》


《……無理だったら、断ってね》


そう書かれたLINEに、俺は即答した。


《大丈夫。すぐ送る》


彼女は、それに対してすぐに「ありがとう」と返してきた。


それが、俺と彼女の“ちいさなズレ”の始まりだった。



「これ……美紅、じゃない?」


大学時代の友人が送ってきた動画。

暗い店内、ソファに座って、顔を赤くして笑っている女の子。


髪型、表情──美紅だった。


けれど、彼女は騒いでもいなかった。

男の肩に少し寄りかかって、頬を火照らせて、ただ座っていた。


それでも──


その姿に、心臓が凍った。


俺はLINEで訊ねた。


《この動画……本当に、美紅?》


数分後、既読がついて、そして一言。


「ごめんなさい」


それ以降、彼女からの連絡は途絶えた。



傷ついたとか、怒ったとか、そういう感情よりも先に、

ただ、穴が空いたような感覚だった。


何を信じていいか分からないまま、

だけど仕事だけは手を止めずに、気づけば数年が経っていた。


俺は若手経営者として、名前だけはそれなりに知られるようになっていた。


そんなある日、取引先の会食で訪れたラウンジで

再会した。


「本日ご案内するのは、No.1の美紅です」


紹介された名前に、息が止まった。


彼女が、俺の前に立っていた。


真っ白なドレスを着ていたけど、目の奥はあの頃と変わっていなかった。


「……湊くん?」


小さな声。あの日と同じように、静かで、まっすぐな声だった。



その夜、俺たちはふたりで話した。


最初は何も言わず、ただ静かに酒を飲んでいた。


やがて、美紅がぽつりと言った。


「……あの動画。見たんだよね」


「うん」


しばらくの沈黙のあと、美紅が話し始めた。


「ほんとは、あの日……ただ、少しだけ外に出たくなっただけだったの」


「仕事がうまくいってなかった。なんか、全部がダメな気がして。……一人で夜の街を、歩いてた」


「そしたら、男の人に声をかけられて。優しくされて、断れなかった。……パーティーがあるって言われて、流されてしまった」


「場所に着いてから、怖くなったけど……周りは初対面の人ばかりで、うまく逃げられなかった」


「飲んで、頭がぼーっとして。気づいたら、あの動画が出回ってた。……自分でも、何が起きたのか分からなかった」


彼女は、俯いたまま言った。


「湊くんに、どう言えばよかったのか分からなかった。……怒られるのも、嫌われるのも、怖かった」


「でも、本当は、ちゃんと話すべきだった。ごめんなさい」


声は震えていたけど、言葉はまっすぐだった。


その言葉が、ずっと聞きたかった。


「……今さらだけど、もう一度、やり直せたらって……思ってる」


彼女は、そう言って、黙った。


俺は、しばらく何も言わずにいた。


それから、言った。


「……一緒に、また暮らしてみるか」


美紅は驚いたように顔を上げた。


「……いいの?」


「……俺も、ちゃんと向き合えてなかった。やり直そう‥」


「‥‥うん」





それだけだった。


それで、よかった。


今、俺たちは一緒に暮らしている。


昔のようにLINEばかりじゃなくて、

目を見て「おはよう」と言える生活。


今最高に幸せだ。



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