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影武者秘書と天災魔王  作者: 気儘瑠末
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第一話『カリスマ魔王爆誕!』

#####################################



ここは魔王城。『王の間』


それはそれは長い歴史が紡がれた魔の国『ルルイエ』


上級貴族のみが入城することが許される魔王城、更にその中でも、限られた最高権力者だけが入ることの出来る『王の間』で、永訣の時が流れていた。


「ゴホッ!うぐっ」


「魔王様が危篤状態だ!エビーネ!今すぐ薬を!」


「はい!今すぐに!」


15代目魔王──ルルイエ・アザナースは今その何百年という長い生涯を終えようとしていた。

傍で見守るのは、魔の国の最高権力者の一人であり、魔王の15代目側近兼秘書のリリベル・トルフ。


「魔王様!死なせない!何としてもだ!」


「トルフよ...私は...もうだめだ。永き時の天寿を全うできた事に、感謝せねばならん...」


「そんな...魔王様!諦めないでください!私が、私が貴方を救います!」


そう言って、トルフはアザナースの胸に手をかざす。

王国の中でも、数少ない貴重な治癒魔法の使い手であるトルフは、今までこうして何人もの貴族の傷を治し、救ってきたのだ。しかし、それではダメだった。


「トルフよ、これは傷病ではない、老衰なのだ。貴重な魔力を...私のような、老人に使うでない...トルフよ、この国の未来、任せたぞ...」


「そんなっ...!」


トルフは頭の中では分かっていた。治癒魔法は、傷は治せても体の不調や単純な体調不良、それにもちろん老衰も治せない。そもそも治すものではない、ということだって、理解していた。


「ルフ兄様!薬持ってきましたよ!」


そこに『人類』の叡智である薬を持って、エビーネが到着する。


──リリベル・エビーネは、トルフの実の妹である。現在はトルフのもとで、秘書になる為に必要な知識を学んでいる途中だ。


「魔王様!こちら薬です。ゆっくりで大丈夫ですから、お飲みください!」


「ありがとう、エビーネ。だが...もう良いんだ。私は私の人生をやり遂げた。エビーネよ、孫を、フィニリアを頼む...どうか健やかなれ...それが!私の最期の願いだ!」


「魔王様、アザナース様ぁぁ!!」


魔王らしく力強い、まさに『賢王』に相応しい最期の力を振り絞った一言だった。


「ルフ兄様...」


エビーネは、涙を流す兄を見て呟いた。

ここで私まで泣くわけにはいかない、兄を支えなければ。

なんせ、次の秘書は私だ。


覚悟を決めなければ。


この物語の主人公は誓う。どんなことがあっても、新しい魔王を全力で支え、魔の国ルルイエを繁栄させると。


======


それから、10年の時が流れた。

魔族には些細だが、人間にとっては人生の8分の1。

そんな違いがあれど、誰であろうと成長はするものである。


「聴け!魔の国ルルイエの民達よ!我が次なる魔王、否!魔女王まじょうおうルルイエ・フィリニアである!」


力強い演説が民衆の心を掴み、歓声が街中に響き渡る。


魔王城3階。

煌びやかな宝石が埋め込まれた大理石に、美学的模様に囲まれた美しいバルコニーは、魔の国の都市『ドリーミン』を一望出来る。

そんな城下町で、新魔王生誕祭が執り行われていた。


「我はこの国の6000年の歴史と、我が祖父が残した崇高なる志を受け継ぎ!この国が国民の生涯に渡り、安泰の繁栄が続くよう尽力することを誓う!」


心を奪われる、とはまさにこの事だ。民衆達の目はフィリニアに釘付けになり、その言葉に賑やかな都心が一時の静寂に包まれる。


「あの年で胆力のある発言、張りと力強さがあるが同時に儚さと博識さを併せ持つ声...流石あの方の子だ」


バルコニー後方、民衆から見えない位置でトルフが呟く。

もしフィリニアが一介の村娘なら、誰もが簡単に連れ去ることが出来ると考えるだろう。

150cm弱の華奢な体つきに、空色の透き通った髪、魔王の証である腕の紋様と頭の2本のツノ、加えて煌びやかで美しさを保ちながら少女の可憐さを際立たせる装飾の数々、紫と黒を基調としたミステリアスなドレス。極め付けは、ガラスのような儚さを感じさせる青色の瞳。

しかし、現実はそんな事を微塵も思わせない。


「本来であれば、次期魔王は我の兄上が受け持つはずだっただろう、しかしみな知っての通り!我の兄上は200年前の人魔決戦で戦死した!この国を守るべき偉大なるルルイエの血筋は、今我しか居ないのである!

国民達よ今!我について来る事を誓って欲しい!」


フィリニアは演説を終え、バルコニーから去っていった。そして、完全に彼女の姿が見えなくなる、と同時に──


「うぉぉぉぉぉお!!!」


民衆が湧き立つ。数十年に一度の大盛り上がりだ。

今ここに、「子供っぽいけどほんとに魔王なんてできるのか?」などと愚問も問いかけるものなど一人も居ない。


──16代目魔女王が、今ここに堂々と誕生した。



======



今にも飛び出しそうな心臓の動悸と、こんな時にも今後の事を考えてしまう自分自身の脳を恨む。

脇汗と冷や汗が止まらない。


「やってしまった...」


彼女は向かっていた部屋の前で、それはそれは深いため息を吐きながら扉を開ける。


「ぎゃははははは!!マジこのアニメおもろいわぁ、はよ続編こんかなぁ、って!エビーネじゃん!あれ終わったの?おつぅー、あ、そうだ。プリン持ってきて!あとそこら辺の服片付けといてぇ、げぷ」


ポテトチップスを贅沢に3袋同時に開け、人間が作った映像を映す機械なるものを見ながら頬張っている。


そこら中に散らかった服と読み物はみるも無惨に扱われ、ベットシーツはぐちゃぐちゃのシワまみれだ。

その光景を見て、姿を瞬時に変えたエビーネがもう一度深い、深いため息を吐く。



「フィリニア様...いい加減に、してください」



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