とある男性の息子
Aのコンサートが終わった。
昔を思い出す。先生、先生。そう周りの人から呼ばれている親はすごい人なのだと思った。
そして、家に増えていく盾やトロフィーを見てやはり親はすごい人なのだと思った。
家の庭で行われるパーティーにはいつもたくさんの人がやってきた。その人たちが口々に言うのだ『お父さんはすごい人だよ』と。
うちにきた数々の人々がそう言うのだ、父さんはすごい人なのだと思った。父さんがどんな賞をもらって、どうして盾やトロフィーをもらってくるのかわからないが、とりあえずすごい人なのだと実感した。そして『すごい人』である父さんが誇らしかった。
中学生の頃からだろうか、周囲の特に女子からヒソヒソ遠巻きにされることが増えたらしい。女子に何かしたのかと友人に聞かれたが心当たりがなかったのでに気にならなかった。遠巻きにされている自覚もその時はなかった。しかし、高校に進学してから遠巻きにされている、嫌われているとわかる出来事が起こる。
共学の高校に進学したが女子と絡むことはほぼなかった。付き合いも男子ばかりだったので気にならなかった。
だが、高校2年生の時だった気になる女子ができた。
一緒に帰ろうと誘ったら断られた。
「キモ」
たった一言だった。
荒れた。なんであんな暴言で断られるんだ、なに様なんだ。前まで気になる女子だったがもう憎悪の対象でしかなかった。
「仕方ないよ」
同じ中学のクラスメイトが慰めてくれる。仕方ないって慰めの言葉か?とは思ったが優しさは受け取っておく。
「あいつ、お前の父親に特にいろいろ言われてたから」
え?一瞬時間が止まったように感じた。
「あー、あの時は吹奏楽部にまでちょっかいかけてたからすごかったよな」
どういうこと?日本語を話しているはずなのにわけがわからず二人の顔をみる。
「え、もしかして知らなかった?」
二人ともあからさまに顔にやばいと書いてあった。どういうことだ!叫びながら聞き出した。二人はぼそぼそ小さな声で言いにくそうに教えてくれた。
なんでも同じ中学の連中には有名な話らしい。合唱部に指導しにきてセクハラ的言動を繰り返していたらしい。が、団結して流していた合唱部に飽きたのか次は近くで練習していた吹奏楽部にちょっかいを出していたらしい。中学の時吹奏楽部であった彼女はその被害をモロに受けていたらしい。そしてこ時彼らから聞いて知ったのだが僕の父親は、裏でセクハラジジイと言われていたらしい。
それを知ってしまい、もう父親を素直に尊敬できなくなってしまった。家に来る人たちは、先生、先生。すごい、すごい。そう口々に言うけれど、女子生徒にセクハラまがいのことをする人なのに?なんて考えてしまうようになった。
そんなことを繰り返していたせいなのかどうかはわからないが、県内の合唱部のある学校には講師として呼ばれることはなくなった。それから、社会人の合唱団等の指導をするようになったようだった。
それも、2・3年でいろんな団体をフラフラしていた。何か問題を起こしたのだろう、とは思ったが特に尋ねはしなかった。
月日がたち、僕が独立したら父も家から出て行った。なぜだろうか。母に聞いたら昔からの愛人のところに行ったとのことだった。驚いた、愛人がいるなんて思ってもみなかったから。
母にしてみれば僕がよそよそしくなったのは愛人の存在を知ったからだと思っていたらしい。違うよ、学校のセクハラ三昧を知ってしまったからだ。母はそれを知らなかったらしい。
それ以来家にも戻らず、連絡もつかないので母は家を売ったお金と貯金でサービス付き高齢者住宅に入所した。早過ぎやしないかと思ったが善は急げだということらしい。どこら辺が善なんだろうか。日本語は難しい。
どこでなにをしているのかと考えもしなかったが知人からチケットをもらい、まだ音楽をしているんだと驚いた。ちなみに知人はAと僕の関係を知らない。
Aのことは音楽性においては素晴らしいと思うが、人間的には尊敬できなかった。
Aの演奏を聞いてこの人は音楽で生きてきたんだとも感じた。そして血のつながりはあるものの、きっとこれからAとは関わることはないだろう。そう確信めいたものを持って帰る人の波に乗って家路についた。
なんか書いてたらこの人は結構長くなってしまいました。(当社比)
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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