↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

55/61

55

 しんと静まり返った会場の中、俺はまた国王の前へと進み出る。リザベルを(おとし)めた連中は次々と断罪されて、今その元凶も舞台を降ろされた。この断罪劇は王太子殿下から国王への進言から始まった。ならば終わりもそれに倣うように、また国王の前へと(ひざまず)く。

「このような場を不埒(ふらち)(やから)によるお目汚しで乱したこと、深くお詫び申し上げます。それも含め、私、フィルマ・セクルグが全ての責を負いましょう」

 始まりと同じ姿勢、同じ声のトーンで。最初に国王と共に決めた約束を宣言する。

「私は、噂を鵜呑みにされても仕方のないような曖昧な立ち居振る舞いをし、民へ混乱を招きました。私が最初からリザベル嬢以外を(めと)らぬと、ただ一言でも(いさ)めていればここまでの事態にはならなかったかもしれません。婚約者の居る身でありながら、他者に心を許したかのような言動をしてしまいました。過ぎたことを言っても仕方ありませんが、その過去の責は現在の私が負うのが道理でしょう。この身は、国の頂を得るに相応しくありません」

 一呼吸置いて、前を向く。この場に居ない弟は既にその旨を承諾し、その上で私に激励をくれた。



「私は、フィルマ・セクルグの第一王位継承権の返上、並びにイーテル・セクルグ第二王子を王位継承権の第一位に据えることを、進言致します」



 他人事のように告げる。臣下として、これが最適だと告げる。どっち道、王族はここまで臣下の好き勝手を許したツケを払わなければならない。ならば何の罪も関与もない弟達や、未だ引き継ぎの足りない父よりも、当事者であるフィルマが最適である。それは残った貴族も国王も理解しており、苦々しく頷いた。


「半分、聞き入れよう。これより先は、イーテル・セクルグを第一王位継承者として扱う」


 それは親の情ではない。為政者として必要な判断だ。


「同時にフィルマ・セクルグの王位継承権は、返上ではなく繰り下げとして扱い、第三位とする。民への責を、除籍という形で投げ出させはしない」


 国王教育に必要とされたものは、基礎的な学問や戦闘技能だけでなく、代々受け継がれて来た王家の秘匿されし真実も含まれる。それを既に知っている者を野に放すことは出来ず、処刑するには罪が足りない。作り出した罪による絞首は、一度行えば王家の威信を揺るがし後世に影を残す。王家の責を投げ出さず、かといって完全に自由となることも許されない立ち位置として、平たく言えば飼い殺しとなる未来を選んだことで、この結末に辿り着くことが出来たのだ。

「王の深い慈悲に、感謝致します」

 頷く国王が、そのまま言葉を続けた。

「同時に、今回の件で多くの害を被ったリザベル嬢は、国による保護を命ずる。以降彼女への加害は王家への反旗と受け取り、相応の報いを受けることを肝に銘じておくように」

 公に、リザベルの扱いが決まった。恐らくカービネナ家は取り潰しになることを考えても、後日叙爵くらいは行われるだろう。それまでは今と同じように王宮で暮らしてもらうことになる。皆まで説明する必要はないため、それだけ周知すればここでの仕事は終わりだ。

「今宵はめでたい席であるにも関わらず、このような話をする場になってすまなかった。時間が許す限り、この後も楽しんでくれ」

 王の言葉を最後に、また楽団が動き出す。お開きにするにはあまりにも出来事が塗り潰されてしまったので、せめてもの償いにいつもより長く城を開放することにした。

 全てを終え、下がった俺はすぐにリザベルの元へ寄る。彼女も注目を浴び、そして知りたくない事実を多く知ってしまった。その心身を労う意味も込めて、近くの部屋へエスコートし休ませる。彼女の侍女も呼んで、柔らかいソファへと座らせた。その前に跪き、彼女の目を真っ直ぐに見て微笑む。何を言おうかと迷って、素直な言葉が零れ落ちた。



「ずっと支えてくれて、頑張ってくれてありがとう」



 その言葉を口火にし、これからのことを少しだけ話しておく。

「君は、これから自由だ。王家に守られ、慈しまれる。本来のあるべき状態に戻る。だから改めてはっきりと言っておこう。君の未来は、君が決めて良いんだ」

 きっとこれが最後。彼女を対等に扱える、本当の最後。だからこそ、今まで伝えるべきであったのに伝えられていなかったことを、きちんと言葉にする。

「決められないのなら、決めるまで王宮で考え続けていい。それも自由だ。君の、リザベルの自由だ」

 ずっと言うべきだった。その言葉が必要だった。あの不思議な過去への遡りで知った事実を悔やんでも、過去は変えられない。だから今を、これからを、幸せであるように。




「リザベルは、どうしたい?」




 これから臣下と下るフィルマは、帰る家を失ったリザベルにそう問い掛けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。