悪役令嬢は占いがお好き1
「どういうことっ!? 私たちは騙されたということ?」
一人の生徒の声が廊下に響いた。
昼休みのにぎやかな食堂はその声によって、一瞬、静まった。
いつもならば、すぐにざわめきをとりもどすのだがどういうわけだがその日に限って生徒たちは自らのお喋りに夢中になることがなく、その声の主に注目した。
「だまされたとは言ってません。ただ、その宝石を鑑定にだしたら、宝飾品としての値段はつけられないと言われただけです」
「それが、だまされた以外のなにになるの?」
赤毛の女子生徒はもう一人の背の小さな生徒を責めるようにみつめた。
「そんなこと私に言われても……ただ、うちに出入りしている宝石商に確認したから確かです」
小さなほうの女子生徒も弱々しいながら「うちの」というところは強調した。どうやら実家の稼業についてはよほどの自信があるらしい。
「もうっ、いいわ。だますつもりとかそんなのは関係なく事実、私たちは価値に釣り合わないものに高価な代金を払ってしまったのだもの。とんだ間抜けよ。ああ、願いがかなわないどころか、お父様に叱られてしまう」
そう言って、気が強そうだった赤毛の方は癇癪を起し、食堂から去っていった。
ときどき、あのように感情をあらわにする女子生徒はいるけれど、あれが成長すると社交界でほほ笑みをたたえ取り乱さない貴族の女性ができあがるというのはどうも不思議な感じがするとアーノルド・バセットは思った。
もしかしたら、多くの令嬢はデビュタント前に魂でも抜き取られる儀式でもあるのだろうか。
そして、自分の姉、レティシア・バセットのことを思い出すと彼女は本当に完璧な令嬢だったのだなと思いなおす。
銀色の髪はつややかに流れ、乱れることなくいつも行儀よく結われていた。
他の兄妹たちは野山を駆け回り頭に鳥の巣のような絡まりをつくるのに、レティシアの髪だけは常に完璧な状態を保っていた。
感情をあらわにすることも少ない。もちろん、喜びや感謝などは社交界できまった通りの範囲で表すけれど、驚きや苛立ちを彼女が表にだしているところを弟であるアーノルド・バセットはみたことがなかった。
そんな姉とあとは成熟した淑女しかみてこなかったので、妹がある程度成長するまでアーノルド・バセットは貴族の女性は生まれながら上品なものだと思っていた。
学園に入学してから、自らに恋心を寄せた令嬢たちが、赤面したり、泣き出したり、怒りだしたりするのを見てアーノルド・バセットは非常に動揺した。
それ以来、アーノルドは令嬢とは距離を置くことにしていた。
「何の騒ぎだ?」
幼馴染の王太子がこちらに聞く。
知ったこっちゃない。
さっきまで一緒にいたのだから、この状況における情報量は変らない。
なのに自分に聞くのはお門違いである。
そう王太子に文句をいってやりたかった。
この金色の髪をした男は子供の頃から知っているけれどさ、気に入らないところがある。少々お人よしすぎるのだ。
そんなに純粋無垢では一国の王は務まらない。
そう思っていたが、ふと二人の女子生徒が去ったあとのざわめきのあとに、
「やはり、レティシア・バセットは悪女だ。すべてあいつのせいだ」
そんな声が聞こえた。
実の姉のレティシアはこの学園で悪役令嬢と言われている。
完璧な姉はとある理由で周囲から大きな誤解を受けているのだ。
レティシアはその誤解を利用している部分もあるが、アーノルドは姉のレティシアが周囲から悪く言われることを許せなかった。
――王太子に言われたからではない。姉にいわれのない罪が被せられるのを防ぐためだ。
アーノルド・バセットは自らにそう言い聞かせるようにつぶやいて、先ほどの言い争うをしていた女子生徒たちについて調べることにした。




