幼馴染が王子だった少女の話
ねえ、考えられる?
昨日まで兄妹のように遊んでいた幼馴染が、誰もが憧れる王子様だったなんて。
まるでおとぎ話みたいだ。
妖精がでてきて金色に輝く魔法の粉をふりまいて、空だって飛べそうなくらい。
……それくらい、ありえないってこと。
いや、わかってはいたけれど。
幼馴染のその男の子はとても可愛いらしかった。
青い瞳に金色の髪、そして彼の笑顔はどんな人間も虜にするくらい魅力的。いや、かっこいいとか色気があるとかじゃなくて、親しみやすくて、思わずこちらも微笑み返さずにはいられないような笑顔を彼はするのだった。
そんな彼がこの国の王子様だって、母に聞いたときはびっくりした。
確かに良い服を着ているし、子供の割にはとても高価なものを身に着けていた。
でも、ただ特別裕福な貴族の子供だと思っていたのだ。
貴族といってもうちのように母が働きにでなきゃいけないような貧乏貴族の家もあるわけで。
貴族といえどもピンキリなのだ。
だから、彼がこの国の王子様だって聞いたときはとてもじゃないけど、信じられなかった。
思わず今日が嘘をついてもいい日かどうか確認した。
もちろん、母が嘘をつくときのくせでこっそり指をクロスさせたりしていないか見ずにはいられなかった。
だけれど、母は大真面目だった。
「もう子供じゃないんだから、失礼のないようになさい」
母に命じられて、私はしぶしぶ頷いた。
だけれど、別に彼への態度を変えるつもりはなかった。
だって、ずっと小さなころから一緒だったんだもの。
親友であり姉弟のような関係の私たちは、大人の前ではちゃんとする必要はあっても心まで変わる必要がないと思っていたんだ。
私たちは変わらない。ずっと、ずっと大切な親友だ。
だけれど、そんな思いは誰にも伝わっていなかった。
周囲の大人たちは私が王太子である幼馴染するのをいい顔をしなかった。
「子供のくせに色目をつかっている」なんて、私に聞こえるようにいう大人はたくさんいた。
最初は気にしていなかった。
だって、そうじゃないということは自分が一番よく分かっているから。
だけれど、母が困った顔をするから前ほど彼には話しかけにくくなっていった。
彼は理由をつけて私を気にかけてくれた。
「めずらしい果物が手に入ったから、乳母に届けてほしい」とか「王宮に美しい花が咲いたからその花の名前を教えてほしい」とか、とにかく理由をつけて私と話す機会を作ってくれていた。
嬉しかった。でも、同時に気づいたのだ。
私が彼に抱いているこの感情は本当に親友や兄弟に対するような親愛の情なのだろうか。
周囲が言うように私は彼のことを女として好きになっているのではないだろうか。
成長とともに、周囲が私を批難する声は大きくなっていった。
幼いころから色目を使って王太子をたらしこんだふしだらな女。
まだ、デビュタントも迎える前だった幼い私に襲い掛かるそんな言葉たちは、刃物よりも的確に私を傷つけた。
そんなんじゃない!
そうやって主張したかった。
私と王太子の間にはやましいことは何一つ起こっていない。
……だけれど、この彼を思ったときに鼓動がはやくなるこの感覚……私はこの感情を偽ることができそうになかった。
そんな自分が穢らわしくて、王太子のそばにいるのは相応しくないと思い、次第に彼を避けるようになっていた。




