妖怪えんぴつかじり
学校で使うえんぴつの先が、やたらと割れるなあ、とは思ってた。
一日に一度は、ピンピンにしてきたはずのえんぴつの先が、二本線を引いてしまうのだ。
塾ならシャーペンを使えるけど、うちの学校はえんぴつしか許可してない。せっかく家でえんぴつをピンピンにしてきても、すぐ太い線が出るようになってしまうから、ちょっと困ってる。
まさかその原因が、えんぴつの芯を食べる妖怪のせいだったなんて。
そいつは、えんぴつキャップくらいのちっちゃな体をしていた。消しカスを丸めたやつと見まちがえそうな黒い毛なみ、点々みたいな目。
ペンケースの中身を、うっかり机の上にぶちまけてしまったある日、その生き物と初めて出会った。それはわたしのえんぴつに抱きつき、ふるえていた。
ちょうどかじりつく瞬間だったらしい。ハムスターみたいな前歯が、えんぴつの先をしっかりくわえていた。
「もしかして、えんぴつの芯がよく割れてるの、きみのしわざ?」
話しかけてみると、その生き物はうなずいた。そして蚊のなくような声で、しゃべりだした。
「許してください。ぼくは、妖怪えんぴつかじりと呼ばれるものです。えんぴつの芯を食べないと、死んじゃいます」
そんな妖怪がいたなんて。プルプルふるえて、点々みたいな目をうるませる姿を見ていると、かわいそうになってしまう。
「許してあげたいけど、えんぴつの先がいつも割れてるのは、困っちゃう」
「そんなあ。ぼくらがだれかのふでばこにたどり着くの、生まれたてのウミガメが生き残るのと同じくらい、大変なんですよう。ちょびっとでいいから、ここでえんぴつの芯をわけてください。お願い!」
まあ、この妖怪のせいでえんぴつがすごい勢いで減っていく、というわけじゃない。がまんしてあげようかどうしようか、あれこれ考えたとき、いいことを思いついた。
数日後、学校用のペンケースにも、シャーペンが一本くわわった。
そこに入っているのは、塾でシャーペンを使っているとき、短くなって交換しないといけなくなったシャー芯だ。いつもだったら捨てているシャー芯の残りを、妖怪えんぴつかじりが食べてもいいように、シャーペンに入れて持ち運ぶことにしたんだ。
ときおり、わたしのペンケースから、カチカチ、とシャー芯を押し出す音がきこえることがある。
えんぴつの芯が割れることは、今はもうない。