第03話 仕事がないのでござる
「ようこそ王都アイングラードへ! 冒険者登録はこちらです。ステータスは計測しますので――は、はい? レベル8!? 勇者の二つ下!? ……計器が故障してますね。すいませんここに手書きで……え? ホントに8? またまた〜!」
「斥候枠ですか。え〜っと。今の募集はありませんね。貴方は実績もありませんし。その馬鹿げたレベルのギルド証も怪しいもんです。あと、目が怖いですね」
「投擲スキルがレベル10? いやいや冗談言うな。ニンジャでもないのに。弓とかボウガンは……え、石礫の方が強い? あっはっは! あんた冗談が上手いな! 目が怖いくせによ!」
「調合スキルがレベル6ねえ。はいはい、そう言うことにしておきましょう。でもさ、薬学が得意っていっても錬金ギルドの証書もらってるわけじゃ無いんでしょう? 我流はちょっとね。あとその目。正直に言いなさい。貴方ヤバい薬作ってるでしょ」
「回復役の申し出は嬉しいですけれど、私たちのパーティーには教会の聖職者がいまして……そ、その。ご、ごめんなさい! 目が怖いです!」
――数日後。とある酒場。
就活真っ最中のアルザだが、再び心が折れようとしていた。
王都アイングラード。数百年前に現れたダンジョンを囲むようにして発展した、典型的なダンジョン都市であり、高い壁が特徴の円形城塞都市である。
ここに来れば何とか食えていけるだろう――そう思っていたのが甘かった。全く就職できなかった。
「ニンジャじゃないってだけで、こんなにも違うだなんて」
アルザは酒場で麦種を片手に机へ突っ伏していた。
以前はニンジャというだけで冒険者ギルドではチヤホヤされて、ニンジャギルドを通さず高額な契約金を提示されたのは一度や二度ではない。
だが今、彼はニンジャの肩書きを捨て、一眼でそれとわかるニンジャアーマーを着ていない。
斥候らしく暗い色のシャツ。その上から厚革のベストを羽織り、足は動きやすくタイトなオリーブグリーンのロングパンツ。手甲脚甲の類は動くのに邪魔だからつけていない。代わりに手には、十代の男の子が好きそうな指抜き革手袋をはめていた。
一見すると「あら坊や、ダンジョンは初めて?」と言われんばかりの最初期装備。
本人としてはこれが自分の最大限の力を引き出せる服装なのだが、はたから見れば頼りなさそうである。
「人間族の斥候は厳しいかぁ」
斥候は冒険者パーティーの中でも重要な職業である。
罠解除に警戒、宝箱の安全な解錠などパーティーに大きく貢献する職業だ。
だが残念なことに雇われる種族がほぼ決まっている。
基本的に斥候に適しているのは器用で耳が良く、勘のいいリリパット族。次いで魔法を感じ取るエルフや鼻の効く獣人族。そして最後にオールラウンダー、あるいは全て中途半端な人間族という順番になる。
同じ斥候なら適した種族。
そうなるとアルザは残る側。
その上目が怖いからヤダときた。
オマケにステータス詐称だと罵られまくる。
控えめに言って、詰みである。
「誰か、俺を買ってくれないのか……この際安くてもいいから、さぁ」
「おいてめェ。冒険者の酒場で客を取るんじゃねえよ。失せやがれ!」
アルザの呟きを男娼のボヤきだと勘違いした冒険者が睨んできた。
アルザは「ち、違うんだって!」と言うも段々と向けられる白い目も増えてくる。いたたまれなくなったアルザは小銭を放ると、そそくさと酒場をあとにした。
「あんまりだ。俺が何したってんだよう」
いつの間にか外は黄昏時。整備された美しい石畳の小道を、アルザは泣きながら歩いていた。
これでも元中忍。何度も死線をくぐり抜けてきた――主にお師匠様の訓練ではあるが。
それでも世間の厳しさはそれ以上だなと、アルザは思う。
「――お師匠様は、何で俺を置いてったのかなぁ」
アルザの師ライラ=イザヨイは彼女は一年前、ある日突然自分に名を継がせて、
「ほんじゃ、アタシは自由にするわ」
と言っていきなり消えた。突然だった。
去り際に行かないでと食い下がっても、
「るっせー! お前はもう十分だっつーの! 後は自分で考えろ! 好きにやれ!」
と捨て台詞めいた言葉をはかれた。
「いくら英雄だからって自由すぎるだろ!」
「ほとんど粛清対象の抜け忍だかんな!」
「本部に何て言えばいいんだ!? 弟子は何やってんだ!」
……と何故かアルザが上忍たちにしこたま怒られた。もうトラウマである。
徹頭徹尾いい加減な師ではあったが、それでも節目節目では適当なことをする人では無かったはず。だから突然消えた時はこれも試練なのかと思ったが、今となってはやはり適当だったのかなとも思えてくる。
そもそも何故このハンパ者に名を与えたのか。
レベルは確かに高いかもしれない。
このアイングラードの冒険者の平均レベルは3だ。ニンジャは中忍で大体5。対してアルザは8である。これは上忍とほぼ同じだ。
しかしこれは師が無茶な修行を課して奇跡的に、あるいは師の手助けにより災害級のモンスターを倒したからだとアルザは思っている。
レベルは高いかもだが、精神が成長に追いついていない。気分は永遠のレベル1。
よってアルザは自分のことをただただレベルが高いだけの凡人だと決めつけていた。
「――まあ、しょげてても仕方ない。今はもっと安い宿探さないと。ここらへん物価高すぎるんだよ……ん?」
不意に顔を上げるアルザ。感じたのは僅かな邪気。
よくよく見ると、アルザは街外れにあるダンジョンの前に立っていた。
そこは円形に建てられた石造の遺跡のような場所だった。
街道は背後の王都から入り口まで敷かれていて、ダンジョンの入り口も妙に小綺麗にされている。篝火は何個も焚かれ、夜にもかかわらずダンジョンは煌々と照らされていた。これではもはや、ダンジョンというよりも何かの娯楽施設のようである。
「うっそ!? 俺そんなに歩いたの!?」
歩いていたというのはちょっと違う。
というのも、彼はうーんと考えながら無意識のうちに壁を蹴って屋根に登ると、ピョーンと大跳躍して屋根から屋根に飛んでいたのだ。
そうやって人目につくこともなく空を飛び、色々と考えていたらいつの間にかここに来ていたというわけである。
「やっば。空駆けの術を使ってたか。夢を見ていても空を飛べとかお師匠様が言うから、癖がついちゃったじゃないか」
空駆けの術。ニンジャスキルのうち、遁走術とよばれる系統のもの。
一般的な魔法体系で説明したならば、内包する魔力を足や手に滲ませて、身体能力を底上げする補助魔法といえば良いだろうか。展開すると思わず「イヤッフゥゥ!」と叫んでしまうような大ジャンプができる。
ニンジャスキルは火遁、水遁、土遁と魔法と錬金術を組み合わせたようなスキルから手裏剣、器械武術、剣術に至るまで豊富に揃っているのだが、アルザは何故か身体強化系の遁走術を叩き込まれていた。
「ダンジョンか。何回か入ったことはあるけど、低層はいつも通り過ぎるだけなんだよな」
入り口をじっと見ると、何人か冒険者たちが出たり入ったりしている。
パーティーもあれば、ソロで大きなカバンに小さな武器と明らかに採集目的の者もいた。
「……やる事も無いし、予習がてら低層で稼いでみるかな」
アルザは道の端でカバンの中身を取り出す。その時に胸元から銅製の小筒を取り出すと、黒い丸薬をポイッと口の中に入れてボリボリと咀嚼。ふぅ~と落ち着いてアイテムを確認し始める。
「手裏剣よし、吹き矢よし、煙玉よし。剣は……」
背中に手を回して小太刀を鞘ごと抜く。
鍔のない朱鞘。三本白帯の模様が美しいそれから現れたのは、肉厚の刀身。
銘、典雅丸。
レア度はSR。東の国では珍しき宝と書いて『珍宝』と呼ばれる位のワザモノである。
師から受け継いだ時、
「炎龍の鱗で作られた激レアモノだ。売るなよ」
と念を押された。ワザモノだけあってなるほどよく切れるしスコスコと鞘走りも良い。抜きざまに敵を倒す居合スキルに適している。
あとは薬だがこれが心もとない。出てくる時に工房が封鎖され、せっかく集めた素材も没収されてしまった。
「せめて実験薬とか毒の処理はさせて欲しかったなぁ。まあ、あのギルドの連中なら簡単に処置できるだろうけど」
と、アルザはそう言うが。
一方その頃、ニンジャギルドは阿鼻叫喚の地獄絵図であった。
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