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第25話 商談でござる

 忘れ去られたイエロードラゴンこと、タワシちゃんが孵化(うか)してから数日後。


「今日の議題は他でもない。あのシュリケン薬局の事だ」


 ダンジョンと共に発展した王都アイングラード。

 その上級民区画にある会員制の酒場に、この街の有力者が秘密裏に会合を開いていた。


「例の薬局のせいで教会の献金が日に日に減っておる。高レベル帯の冒険者が大きな怪我をしなくなった」


 と、黒いローブに身を包むのは教会の大司教である。禿頭で柔和な目をしているが、左右には妖艶な美女たちを侍らせている。


「錬金術師ギルドも苦情が耐えない。あそこの薬師はよく効く薬を出すのに、ギルド所属の薬師はどうなっているのかと。ヤツは会費も払わない上に、ジャネット博士が肩入れしてるとも聞いた。これではウチは空中分解してしまう」


 頭を抱えるのは伝統的な三角コーンの帽子を被る老齢のノームである。リリパット族のように背格好は小さいが、体の中の魔力は高く、ドワーフのように手先の器用な種族だ。彼は錬金術ギルドの長だった。


「いやはやシュリケン薬局。ニンジャくずれが経営する薬局と聞いた時は噴飯(ふんぱん)物でしたがモノはいい。商会ギルドもどう噛んでいくか品定めをしていましたが――」


 そう言うのはエルフの男だった。細い目に丸メガネ。手には常に分厚い手帳を持つ彼は商会ギルドの長であった。


「錬金の。貴様らが仕掛けたゲイザー、簡単に倒されてしまったではないか」

「大司教。流石にそれは我々のミスではないぞ。ゲイザーを一撃で倒すヤツがどれだけいると思う?」

「ぬぅ」

「それ以外にもリザードマンへ呪詛毒を教えたのも併せて相当なリスクを負っている。そのどちらもがあのアルザなる者にやられたということが問題。違うか」

「そうですよ大司教様。こちらも教会製品の便宜(べんぎ)の礼にリスクを背負っています。それは貴方さまのマッチポンプ、失礼、神の試練を与える事に()()があったからのことです」


 錬金術ギルドの長と商会ギルドの長がそう言うと、大司教はフンと言いながら美女を抱き寄せていた。


「神は試練をお与えになるは当然のことだ」

「ええ、ええ。ですが眺めているだけでは勿体無いと。そうお声をかけて頂いたのは商会ギルドにとって光栄なことでございます」

「商会ギルド。ならばはよう手を打たぬか。商売敵なら、嫌がらせの一つや二つ長けておろう?」

「それが簡単にもいかないのです。搦手(からめて)をしようも冒険者ギルドは我々をボッタクリと敵視しています。彼と懇意(こんい)のドワーフたちは完全に彼を家族と位置付けて不審な輩を排除しようとします」

「ならば同盟関係にある双角鉄剣団オーガー・ソードマンズからはどうだ? 金を握らせて隙を作れば――」

「あのクランはとにかく固い。実績から王宮にも信を置かれている。ジャネット博士にしてもそうです。あの男はこの短期間で、この街に太い根を降ろしたことになります」

「ならばやる事は一つであろう?」


 嫌がらせもコネも賄賂も効かないとあれば、もう直接やるしかない。

 だが商会ギルドの長は首を振る。


「――既にアサシン教会に頼みました」

「おお!」

「しかし失敗しました。これを見てください」


 そう言って、商会ギルドの長はテーブルにコトリと黒い何かを置く。それは手裏剣だった。


 

『誰かは知らんが放っておいてくれ。静かに暮らしたいだけだ』


 

 とメッセージが彫られていた。

 そして商会ギルドの長がひっくり返すとーー



『家族と友人に手を出したら、相応の報いを受けてもらう』



 シンプルで力強く、これ以上ない警告だった。

 

「ニンジャよりも人間の暗殺に特化したアサシンギルド。そこの手練れ三人が、簡単に追い返されました。尻に大量の手裏剣が刺さっていたのは、もう一周回って笑ってしまいましたね」

「バカな。アサシンを簡単に……(かた)りではないだろうな」

「銭に誓って」


 大司教は冷や汗を流す。商会ギルドが神ではなく金に誓うというのなら本当なのだろう。

 嫌がらせも直接的な武力も効かない。

 コレではまるで本当に神と対峙しているようではないか。


「さらには」

「まだあるのか!」

「ええ大司教。あの店に五大元素龍の卵があったそうです。違法錬金術師の置き土産だったとか。ジャネット博士が孵化させたそうです」


 そう言うと錬金術ギルドの長は頭を抱えた。

 違法錬金術師は錬金術ギルドにとって永遠の課題である。

 探究心から違法なものや世の理に触れようとする錬金術師があとをたたず、発覚の度に錬金術ギルドが締め上げられる。払いたくない金も払い、しょうもないルールが肥大してチェック機構のコストばかりかかるのだ。

 しかもよりにもよって王宮から直々にホムンクルスの研究を指示されているジャネット博士が発見した。「自分だけお上と付き合いよって何やねんあいつ」と邪険にしたのがここでおもっくそ返ってきてしまった。因果応報である。


「案ずるな錬金の。ドラゴンならばすぐに店は壊滅だ」

「店員がドラゴンテイマーのようで。今や看板娘ならぬ看板龍だとか」

「ドラゴンテイマーだと!?」

「近いうちに王宮の者が来るか、もう少し知名度を上げたなら冒険者ギルドから黄金の表彰盾(ゴールド・シールド)が贈られるでしょう。そうしたらもう我々の手には負えません」


 商会ギルドは肩をすくめる。

 そうなったなら確かにこれはもうお手上げだ。

 脅しも効かず暴力もそれを上回り、いつの間にか人脈を築き上げる。

 大司教はチラリと商会ギルドの長を見る。

 微笑みは絶やさないが、どっちが得かと算盤を弾いているようにも見えた。

 マッチポンプで金を得る。

 ダンジョンの変異を意図的に引き起こして、献金を巻き上げる。

 下賎(げせん)な冒険者が神の御名の元に救われて、信仰心もガッポリいただく。

 悪いのはいつもダンジョンのせいにすればヘイトもしっかり回避できる。

 そう聞けば単純な策で、子供が考えたとも思えるだろう。

 だが単純な策を強大な者たちが行使すると、驚くほど簡単にいく。

 そうやって天罰を()()()()、蔑ろにされがちな教会の威を示すつもりが――たった一人の男に崩されそうになるとは。


「どうする大司教。このまま放置すると事が露見しかねんぞ」

「落ち着け錬金の。現状はよくわかった。このままでは商会ギルドが寝返りそうなこともな」

「お(たわむれ)を、大司教様」


 と言いながらニヤニヤ笑っている。

 こいつぜってーやる。間違いねー。

 しかし獅子身中の虫を飼ってこそ人の上に立つ者というもの。

 大司教は自分の野望のためなら彼のような者をそばに置くことを躊躇(ためら)わない。

 それどころかーー


「ふむ。ならば仕方ない。我の方で用意した対策をするしかないな」


 大司教が左右にいた美女を席から外させる。

 するといつの間にか、背後に老人が立っていた。


「だ、誰だ!?」

「ニンジャ……ですかね?」

「その通り。しかも上忍だ」

「上忍と懇意(こんい)であるとは。流石は大司教様」

「この者は最近になって我の前に現れてな。ギルドを抜けたアルザを追っているという。是非ともやらせて欲しいとな」

「アカヘビと申す」


 アカヘビはニッと笑う。一見すると大司教以上に柔和見える。

 禿頭で髭の長い朗らかな老爺。

 公園のベンチにいたならば、子供が寄ってきそうな、そんな優しい顔だ。

 しかし佇まいは強者のそれ。

 ニンジャだというのに赤いローブに身を包んでいるのは、忍ばざるとも相手を(ほうむ)ると、そう言っているのだろうか。


「これよりは我らにおまかせあれ。きゃっつめはニンジャギルドを抜けた大罪人。故にニンジャが誅するのが筋でしょう」

「これは心強い味方だ大司教」

「目には目を。ニンジャにはニンジャというわけだ」

「……少しよろしいでしょうか」


 早くも勝利の雰囲気に包まれる中で、商会ギルドの長はスッと手を上げる。その顔は先ほどの柔和な顔ではなく、真剣な商人の顔になっていた。

 

「なんだ商会ギルド?」

「いくらですか?」

「? 何が言いたいのだ商会ギルド」

「我々が困っている。アカヘビ様は解決できる手段があると()()()()。これはもう商売だ。売り物を提示されたなら、料金を聞かねばなりません」

 

 そもそもアルザを誅すると言うならば、勝手にやればいいだけの話。

 それが出来ると大司教に申し出たと言うことは、商談に持っていきたかったということに他ならない。

 喉が出るほどほしい商品だけ提示されて値札が隠されているというのは、買う側にとって気持ち悪い話だ。

 

「流石は商会ギルドを束ねる長。話が早い」

「裏の裏まで覗ける目が無いと、この商談を設けられない。貴方は怖い人だ」

()()もまたニンジャの技にて――そうですなぁ、この()()に駄賃を頂けるなら」

「頂けるなら?」

「この王都に新たなるニンジャギルドを。皆様方のお力で我らアカヘビ衆に(ひさし)を貸していただきとうござる」


 つまり、この王都で独立したいとそう言うのだ。

 当然ながらこれは本部が聞いたら大激怒だろう。

 ニンジャの力は強大故に権力に寄り添うと悲惨な事になる。

 だからこそ人の近寄らない山奥にギルドを置くのだ。

 しかし王都アイングラードの大司教という()()()()()()()()()()()の口添えがあると言うならば話が変わってくる。

 つまりは「儲けようとしてないよ、公益のためだよ」というお墨付きである。

 加えて罪人としてアルザの首を掲げて、ある事ない事をでっち上げれば王都進出の十分な理由にもなりえる。

 仮にニンジャギルド本部が


「それマ? 嘘ちゃうん? 儲けようとしてへん? てか勝手に認めるとかどういうこと?」


 というニュアンスで聞いてしまったら最後、


「おどりゃ神の代弁者にナシつけようってか! ワシらがええっていうんじゃ何が問題なんじゃコラ。ワシらの言葉ァ疑うって事は神様(オヤジ)疑うってことやぞ。信者(構成員)ぜーんぶ敵に回すってことやぞ。おどれらにその覚悟はあんのか、ああん?」


 というニュアンスで返ってくるのは間違いない。

 その先は、血みどろの仁義なき戦いである。

 流石は地方ギルドとはいえ筆頭上忍アカヘビである。

 転んでもタダでは起きない。

 むしろ事態が好転したと、内心笑いが止まらなかった。

 

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