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第18話 助太刀でござる

「元ニンジャの……薬師?」

「そう。忍薬作りが趣味だったから、商売にしたんだ」


 ようやく落ち着いた隊長が不思議そうにそう言った。

 現在第二回層入り口のベースキャンプ地には双角鉄剣団オーガー・ソードマンズの陣幕が張られている。

 

「貴殿は不思議な人だ。その目は死を招く者(デスブリンガー)のようなのに……技は上級聖職者(ハイ・プリースト)に匹敵するとは」

 

 すっかり元通りになった隊長は鎧を着直し、折りたたみの椅子に座っていた。陣幕には椅子の他テーブルも用意されている。アルザとリンネはせめてもの礼と、高い紅茶と茶菓子を用意されていた。

 相対して座り、改めて見ると本当に美しい女性だとアルザは思う。顔を晒せば十人中十人が老若男女問わず振り向くだろう美貌。それでいてどこか気品もあり、このままドレスでも着たならば王族か貴族と間違えそうである。


「すごい別嬪(ベッピン)さんアヘらせましたね旦那様」

「言わないで。不可抗力だ」

「……うぅ、あ、アレは忘れてくれ」


 思い出したのか再び涙目になる隊長。その度に周囲の部下たち、主に女性のクランメンバーたちが寄り添っては彼女を慰めている。ちょっとボディータッチが多いのは気のせいだろうか。

 士気の低下に繋がったらヤだなとアルザだったが、蓋を開けてみれば士気どころか結束が高くなっていた。

 特に陣幕の外に控えている男性クランメンバーたちなど、先程の一件から「隊長、この身に代えてでも命をお守りいたします」的な確固たる誓いがみなぎっていた。

 この現象、強いて言うのならば、いつも美しく精強な隊長があられもない姿を~的なギャップ萌え。つまり愛の力である。知らんけど。


「しかし、どんな形であれ命を助けてくれた。改めて礼を言う。私はフレデリカ。フレデリカ=アマツ。レベルは5。双角鉄剣団オーガー・ソードマンズの部隊長だ」


 ここでリンネがフレデリカの事を「デリ嬢」と略して言いそうになったのを察知して、アルザはバシッと口を塞ぐ。リンネは「何故にわかったのか」と驚いた目をしていた。

 しかし部隊とはと、アルザはこころの中で唸る。見たところ小隊規模で全員が重剣士(ヘビー・ソードマン)だ。しっかりとお揃いの鎧で固めて、背負う大剣(クレイモア)も全て業物(レア)以上。


「俺はアルザ。こっちはリンネ。二人で薬局を始めたばかりだ」

「アルザ……まさか、ゲイザーを一撃で仕留めたあのアルザか!? 我らにもその名は伝わっているぞ!」


 途端に興奮し始めるフレデリカ。彼女は東の国周辺のオーガー族を祖とするオニ族である。強い人と見るなり目が変わるのは特性とも言っていい。


「底しれぬ実力を持ちながら報酬も程々に、静かに街へと消えていった益荒男。ギルドも即日に銀の表彰楯(シルバー・シールド)を贈ったとも。そんな貴殿が何故薬師など」

「ま、色々あって。それよりも……あんな呪詛毒にかかるだなんて。第二階層ってそんなに危険だったか?」

「いや。たかだかレベル2のリザードマンがあんなのを使うなんて聞いた事もない。我々は先のゲイザー騒ぎで駆り出されたただの調査隊だからな」

「そう、か……なら、アレは自然発生とかそういう感じか」

「不測の事態だ。一旦切り上げて、ギルドに報告したのち部隊を再編成する」


 その言葉にほう、とアルザもリンネも驚いた。不測の事態ならばさっさと逃げて養生したとしても誰も文句は言わないのに、ケリは自分たちでつけるとそう言わんばかりだ。

 王国騎士団でも、ましてや自治を任されているわけでもないのに一度請け負った義理を果たそうとする。これがトップクランたらしめるものなのだろうなとアルザは思った。


「アルザ殿。その後で是非ともクラン本部へ来てほしい。助けて頂いた礼を尽くさねば」

「堅苦しいのは結構だ。薬師として当然の事をしたまでだから」

「しかし……」

「それよりも個人的にはリザードマンを今すぐ討伐するべきだと思う。なんなら手伝うけれども」

「何故だ? 呪詛毒自体はそう珍しいものでもない。リザードマンが使っているのは驚いたが」

「毒そのものが問題なんだ。あれは呪詛毒の中でもとびっきり危険な『人糊(ひとのり)』というものだ。その製法は――」


 チラリとリンネを見る。言うか言わまいか迷うアルザだが、「大人ですが? 遠慮しないでどうぞ」とジト目で逆に叱られる。

 

「――人を拷問して、恐怖に染まった血を毒へ染み込ませる。拷問した者の悲鳴が呪詛を象って、魔力の脈をも破壊する猛毒に転化するんだ。倫理をかなぐり捨てれば、これほど簡単に作れる呪詛毒は他にない」


 そう言うとフレデリカほか騎士団はざわついた。


「そんな毒を、リザードマンが!?」

「方法が方法だ、自分たちで偶然見つけたというのも考えられなくはない。ただどちらにせよ原料が……」

「みなまで言わずともわかるぞアルザ殿。ここに来る冒険者たちを(さら)えばいくらでも、という事だな?」


 もしかして今しがた使われた呪詛毒も、被害にあった冒険者の絶望によって作られたのか。

 ゾッとするようなイメージが、フレデリカ達の脳裏に駆け巡る。

 人の恐怖を糊のように固めるが故に『人糊』とはよくいったものである。


「この前は深層のゲイザーに、今回は呪詛毒。これじゃ治す前に死ぬ冒険者が増える――」


 アルザが言い終えようとした、その時だった。

 アルザはふと、森の方に顔を向ける。

 向いた方向には幕が張られて、その奥は見えない。

 だが彼はその先を見通すかのように、じっと見つめている。


「リンネ、今聞こえたかい?」

「へ? 何も?」

「隊長さんは?」

「フレデリカでいい――いや特には。森は静かなものだが」

「今、枝を踏む音が聞こえた。体重は百キロ前後、背が丸くて尻尾がある。右足に体重が寄ってるな。槍を持ってるぞ」

「音だけでそこまで!?」

「まずいな。少し遅かったみたいだ」


 アルザが胸元から手裏剣を取り出したと思うと、ヒュッと風切音が響く。アルザが座ったまま、天井に向かって手裏剣を投げた。


「ギエエエ!」


 手裏剣が軌道を変え急降下した先は森。手裏剣が消えたかと思ったその刹那(せつな)、悲鳴が響いた。


「リザードマン!?」

「やはり。今のは物見だ。もうすぐにでも攻撃をしかけてくるぞ」

「っ! 総員戦闘態勢! 防陣を敷け!」


 フレデリカの号令に、陣幕から隊員たちが飛び出る。皆背中のクレイモアを構えて並んでいた。

 二〇、三〇、四〇……草木の間から見える爬虫類の瞳がドンドンと増え続けている。リザードマンの群れが、ベースキャンプを取り囲んでいた。


「いつの間に! 俺たちはしっかり森を見ていたのに!」

「隊長! この数は我々では太刀打ちできません! 撤退のご命令を!」

「……撤退はできん。もし我々が逃げたら、こいつらがどこに向かうと思う!?」


 フレデリカが言わんとする事はその場にいる全員が理解していた。このまま逃げたなら、初心者冒険者の多い第一階層にリザードマン達がなだれ込む。下手をするとそのまま外に出てしまうという事態も考えられる。

 しかもこいつらは、人を拷問した上で毒を精製する呪詛毒を知っている。つまりは人を優先的に狙い、生け捕りにして、拷問する。被害拡大は避けられないだろう。


「総員、迎撃用意。わたしがアルザ殿と出会い復活したのは女神の思召――おそらくこの為だ! 今こそ双角鉄剣団オーガー・ソードマンズの意地を見せる時だぞ!」


 応! と隊員たち。

 先ほどの一件で、フレデリカに対する士気は最高潮。

 隊長(ラブ)の力は民を守る騎士の誓いへと昇華した。

 リンネの言う双角鉄剣団オーガー・ソードマンズとは頑固で脳筋で融通がきかず、変な正義を振りかざすという、ある意味冒険者たちから嫌がられるクランだった。

 しかしこう見てみれば、彼ら彼女らは信念に従って戦いを選択している。

 誰に頼まれたわけでもなく、愚直に冒険者ギルドへ義理を果たそうとする。

 そんな彼らを見て、アルザは――


「アルザ殿!? そこは危険です! 我らの後ろへ」


 リザードマンと彼らの前に割り込むように立つのはアルザだった。


「流石に元ニンジャでも、リザードマンの群れは無理だ! 我らの背後へ!」

「いやいや、それがね。師の教えって奴でそうもいかない」

「師、だって?」

「そう。お師匠様曰く『義を見てせざるは勇無きなり』ってね。この数は貴方たちでも無理がある。そうだろう?」

「しかし、やらねばならぬのです。力あるものは必ず弱きものを助けなければならない! そうあれかしと父上が作ったのがこのクランなのだから!」

「手を貸すよ」

「え?」

「義によって助太刀致す――そう言ったんだ。呪詛毒を使ったのは高く付くと、あのトカゲたちに教えてやらないとね」

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