4-4.雪辱を晴らすための戦い
突然の出来事に考えあぐねていたルイスだが、ドミニャスからしたら動きの無いルイスは己の要求に応えるつもりがないのだとの判断を下す。
「出てこないのであれば炙り出すまでっ!」
青褪めた騎士が慌てて手綱を取り白馬と共に退避したと同時、ミネルバを守るために展開された薄虹色の膜が突き入れられたジュディオを止めてみせた。
「っっ!!」
最強クラスの攻撃力を誇る魔法剣。それを更に昇華し、何者にも負けぬ自信を手に入れていたドミニャス。
名のある魔攻機装ならいざ知らず、加減したとはいえ、たかが住居一体型自動車如きに己の一撃が止められるなどとは夢にも思っていなかったのだ。
信じられない光景を目の当たりにしながら己と、己の相棒を信じるドミニャスは、阻止されたと知ると同時に握りしめるもう一方のジュディオから伸びる緑色の光を交点を目掛けて正確に突き入れる。
だが熱くなり過ぎた彼は忘れている。普通の住居一体型自動車が魔力障壁などという大それたモノを展開出来ないということを。
「ばかな!!」
びくともしない常時魔力障壁を他所に反動でたたらを踏んだのは攻撃を加えた側のドミニャス。
悪夢のような結果に思考が停止するものの、飛び出してきたルイスが目に入れば嫌な気分も怒りで上塗りされてしまう。
「再戦するのは構わないけど、町中で魔攻機装を使うなんて非常識だ。場所を変えよう」
「そんなのは俺の知ったことではないっ!」
これで死ぬのならその程度の男だったということ。殺すつもりで突き入れた緑色の刃は、ルイスの目の前に現れた虹色の膜により動きを止められてしまう。それは再び展開されたミネルバの常時魔力障壁。
二本同時でも通らないのかと舌打ちしながら後退するドミニャス。それを追って白い光に包まれながらも地を蹴ったルイスは、アンジェラスを纏うと同時に手にする槍を突き入れる。
「なにっ!?」
燃費の悪さが弱点ではあるものの、高密度の魔力で出来たジュディオの刃はあらゆる物を斬り裂く。それは数多の魔攻機装が張る魔力障壁を砕いてきた経験則であり、ミネルバの展開した虹膜に弾かれたことに動揺するのも頷けるというもの。
それに輪をかけるのはルイスの槍が斬れなかったという事実。魔力の刃に晒されれば強固な金属とて切断されるはずなのである。
この事象から導き出される答えはルイスの槍が魔力を帯びているということ。
コロシアムで相対したときには戦うための必需品である武器すら持っておらず、魔法のみで戦うのかと思いきや戦いぶりからしても素人だと伺えたルイスは魔力ですら操るような素振りがなかった。
そんなルイスが武器を持ったのは下手なギミックを取り付けるより安価である上に取り扱いも簡単だからだろうと予測するドミニャス。それがたった数ヶ月で武器に魔力を纏わせるなど常識外の成長速度である。
実際にはアンジェラスの能力が解放されて赤い魔石が腕輪に現れたのが二日前。つまり、まともに魔力を使えるようになったのがその時からだということ。
貸し出されたギミックの助けを得て【ヤラガスタ鉱山】で行った魔力の扱いの練習が効いているとはいえ、たった二日で魔力付与を成功させるあたり、流石は “神に選ばれし者” と言ったところか。
「剣を納めてくれ」
「その割には積極的に攻めて来てるのはお前の方だろう?」
「戦闘の意思丸出しでどの口がっ!」
「ハッ!良く分かってるじゃないか。 数ヶ月待ったんだ、これ以上我慢した上でお前を取り逃したとあってはこの町を壊しちまうかもしれないぞ?」
「たった一人で国に勝てるとでも思ってるのか!?」
「俺ならばヤレる!それほどの鍛錬を積んできたんだっ!お前を倒して雪辱を晴らすためだけにな!!」
輸出大国モアザンピークの首都とあってアメイジアのメインストリートは二機が暴れられるほどに広かった。
瞬く間に作られた人垣の間で激しくぶつかり合う純白と緑白の魔攻機装。
突き出された槍を去なす緑刃。出来た隙を突くようもう一方が振られるものの、反転させた石突がそれを打ち落とす。
すぐさま迫る緑刃に槍先を合わせ、続いてやってくる緑刃には反動を利用しつつ一歩退くことで距離を合わせる。
かと思いきや更にその反動を利用しつつ、退がった一歩を再び踏み込むことで素早く突き入れられる槍。
身を捩りつつ振り上げた緑刃が槍を跳ね上げ、半円を描きながら戻ってくる槍先の腹に緑刃を当てがい、そのまま滑らせながら相手との距離を詰めて行く。
しかしそうはさせじと、迫り来る緑刃を支点に反転させた槍、目の前に迫るもう一方の緑刃へと石突で対応。
そこで止まらないルイスは腰を落としつつ重心を低くし、身体ごと槍を更に回転させると渾身の力を込めて薙いだ。
目で追うのが困難なほどに加速した槍ではあるが、相手の身体全体をよく見れば軌道は読める。軽やかに飛び上がりそれを回避したドミニャス、目指す先は晒されたルイスの背中。落下の勢いに加わわり全身のバネがしなる。
「うおおおおっ!」
空へと向けられた両刃が残像を残しつつルイスを目指す。しかし、ルイスとて大振りが隙を生むことなど百も承知。
空ぶることを前提とした一撃から一転、散々指摘を受けた脇を締め、回転半径を短くして合理的に加速。槍に纏う赤い魔力光が美しい軌跡を描く。
先程より更に速い横薙ぎの一閃は迫り来るドミニャスの緑刃とかち合い激しい金属音と共に赤緑の粒子が宙を舞う。
押し返されたドミニャスは着いた両足で土埃を上げ、対するルイスもまた勢いに押されて一歩後退る。
攻めては弾かれ、弾いては攻める。一進一退の互角の攻防にドミニャスの口角が吊り上がる。これこそ己が再戦を望んだ相手だ、と。
「まさかこれほどの技量を持っているとは、正直驚いたぜ。なぜあの時は力を隠した?」
率直に感じたのはルイスの強さ。例え未知の魔攻機装であったとて、一度打ち合えばある程度の技量は予測できる。
しかしコロシアムでのルイスは素人そのものであり、今のような攻防をしてこれば侮ることなどなかったと思えてしまったのだ。あれも作戦であったのならますます許せぬと、自分の人生を変える敗北を生んだルイスに対して更なる怒りが込み上げて来る。
「隠すも何も、今もそうだが俺は常に全力を尽くしている!」
「全力、だと?」
「当然だ! 俺は操者となって半年ぐらいなんだ。お前みたいな熟練者に余裕を持てるはずがない!」
逆算すればコロシアムでのルイスは操者となってまだ一、二ヶ月の頃。そんな相手に負けたのかとの苛立ちが怒りとなれば、力ある言葉が自然と漏れ出る。
【風の弾丸】
向けられた切っ先から溢れ出る緑色の弾。慌てて後退しつつ槍を振るうルイスだが、それだけのことで対処しきれるほど生優しい数ではなかった。
「お前!町中だって本当に分かってるのか!?」
それでも半数近くは叩き落とすことができた。だが背後にはメインストリートを彩る数々の商店。捌ききれないからと避けるわけにもいかず、残りの全てを魔力障壁で受け止めるしか選択肢がなかった。
「分かってるさっ。ここがお前の墓場となる場所だってなぁ!」
口にするなり掲げられた両腕。切っ先だけが交差した緑刃からはドミニャスの身体へと緑色の雷が迸ったかのように見えた。
『来る!』
直感で悟ったルイスは腰を落とし、己の槍を握りしめる。
その闘志は赤い魔力となって表れ、来る脅威に立ち向かわんとばかりに鋭くなった眼光がドミニャスの挙動を捉えて離さない。




