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魔攻機装  作者: 野良ねこ
第三章 紡がれた詩
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3-28.危険信号をキャッチしました!

 唖然というよりは呆然とする面々。目の前にある事実が俄には信じられず、誰しもが言葉を発せられないままソレを見つめて固まっている。


「そんな……そんな筈はない……」


 願うように漏れ出た言葉を合図にゆっくりとしゃがみ、腕に居たレーンとディアナを床へと丁寧に降ろしたシェリル。淡い光に包まれ生身となった彼女は、フラフラとした足取りながらもソレを見つめたままに一歩一歩、近寄って行く。


 四人が見つめる先にあるのは薄い水色の液体が満たされた二メートルの円柱水槽。その中で眠るのは誰の目から見てもニナでしかない。



──それはつまり、ニナの死を意味する



 だがしかし、つい先日メレキヤに居る彼女から連絡があったのだ。それがニナであるはずがないと頭では否定しながらも、己の目が捉えているその人物はニナで間違いないと結論を出している。



──古代遺跡の中でニナが眠っているはずがない



 ニナである筈がないのにニナである。繰り返す矛盾がぐるぐると頭を巡る中、真実を求めて歩みを進めるシェリルの視界に別の水槽が入ってきた。


「こ、これは……一体、なんなのだ?」


 進めば進むほど増えていく水槽。一列に並ぶその数は全部で七つにも登る。

 その内の六つには薄水色の液体が満たされており、そこには漏れなく金髪のエルフが眠っている。しかもそのいずれもが瓜二つであり、全てが全てニナとしか思えない容姿。そんなモノを見てしまえば勇気あるシェリルの歩みが止まってしまうのも無理はない。


「ニナっちが分身しとる!?」

「──っ!!」

「こりゃ……どういうことだ?」


 シェリルに続いたノルンも、それと共に来たカーヤも、カーヤの肩を借りるレーンですら理解できない状況に困惑を隠せない。

 それもそうだろう。同じ人物が二人どころか六人もいるのだから……。




【No.1 感情を発現する有機シグナルが感知できない為このままではただの肉人形である。アルフサントラストを増やして要経過観察、これで駄目なら打つ手なし】




 モヤモヤとしたものを抱えつつも多少なりとも落ち着き、目の前の現実を事実として受け止められかけた矢先にレーンが皆を呼ぶ。


 彼が座る机には研究に使っていただろう日誌が開かれている。そこに書かれていた文字にようやくここが古の時代に使われていただろう研究所だと思い出すに至った。


「ってことはなに?この娘は全部、造られた存在だってことなのか?」

「確かに水槽の上にナンバープレートがありますわね」

「見た感じぃ、全部ニナっちにしか見えないんですけどぉ?」




【No.2 魔力が発生していない。このままではせっかくの臓器が台無しになる。ドモリンアストラデウスを投入してみるが原因不明なため絶望的だ。後は運を天に任せる】




 【NINAプロジェクト】と題されたノートに描き記された実験の経過。それはレーン達には理解し難いものではあったのだが、何をやろうとしていたのかは想像に難しくない。


「古代の奴らは人の手で人を創ろうとした、これはおそらく事実なのだろう。でも、変だと思わないか?」


「何がだ?」


「これは何処からどう見てもニナそのもの。この認識は四人の総意で間違いないな?」


「はい、その通りです。ですがそれの何処が……あっ!」


「ニナが連れ去られたのは今から五十年前、そのニナとまったく同じ容姿をしたコイツらがここに居るのは時系列からして矛盾してないのか?」




【No.3 細胞の異常活性が止まらなくなった。不活性薬を投入したが手遅れのようだ、気が付くのが遅かった。ここまで成長させたが仕方がない、廃棄するより他に手立てが見つからない】




「ここが古代の研究所であるならばニナの誕生の方が先……お祖父様達は記憶のすり替えがされている?」


「それも一つの仮説だろう。人の記憶を改竄するなんざお伽噺でもなければ身の毛もよだつ恐ろしい技術ではあるがシェリル、その仮定が正しいとすればそんな恐ろしいことを平気でしでかす古代人が現在の人の世に闊歩してるってことになるぞ?」


「ヤバイよ!ヤバイよっ!その古代人はここに戻ってくるかもってことだよね!?」


 わたわたと慌て始めたノルンが「早く逃げよう!」と皆を急かす。


 しかし疑問を残したままここから逃げ出したとなれば、心はこの場所に繋ぎ止められまたやってくる羽目となる。そうなれば再びあの巨ゴリラと向かい合わなくてはならぬ可能性があり『取り敢えず逃げる』という悪手はなるべくなら打ちたくなかった。




【No.4 何故かこの子は肉体が不安定だ。細胞同士の繋がりが悪い?他の子と何が違うというのだ、全くもって理解ができない。ミリミリウスベータを投入後、多少安定して見た目は保てている。だが恐らく外には出せないだろう】




「シェリルの考える仮説よりも、もう少し現実味のあることも考えられる」

「そ、それはなんですの?」

「なに、単純なことさ。五十年前にエルフの都から連れ去られたニナはここに連れてこられてたって事だよ」

「本物のニナっちを元にして複製しようとしたってことぉ?」




【No.5 あのまま順調に行けば覚醒まで行けたものを!何故だ!何故脳が焼き切れるなんて事になるんだ!】




「理由なんぞ想像でしかない。それよりも重要なのは古代人、もしくはその超科学技術を理解できちまった現代人がいるってことだろ」

「その者が何らかの理由でニナを攫い、ここで複製体を作成している、と?」

「記憶のすり替えなんて夢見たいな技術より、その方がよっぽど信憑性がありゃしないか?」




【No.6 まさかの凡ミス、六度目にして初歩の初歩で躓くとは……全ては私の注意力のなさによるものだ、すまない。生きようと足掻いた君の努力は決して無駄にはしない】




「ね、ねぇ……聞いても良いかなぁ?」

「何だ?ノルン。ニナにチン◯は生えないぞ?」

「いやぁ〜それは残念……じゃなくて!」

「なんだ違うのか。んで?」

「ここにニナっちの複製体がいるってことわぁ、持ち主が居るってことだよねぇ?」

「さあな?そうかも知れんし、そうじゃないかも知れん。何でそんなことが気になる?」




【No.7 これまでの研究は無駄ではなかった!安定した脳波、安定した脈拍、魔力の循環も申し分ない。このままを維持し、もう少しだけ成熟させよう。そうすれば念願の彼女が……いや、要らぬフラグは立てない。結果は次にこの子に会う時まで楽しみに取っておこう。

 次の再会は……六月九日だ。それまではゆっくりとお休み、愛しい私のニナ】




「こっ、これ見てよぉ。もし、持ち主がいるとしたらさぁ……結果を見にやって来るよねぇ?当然この、六月九日にぃ……」

「ああ、その可能性は……」

「ノルン!今なんて言いましたか!?」


 特に約束事や予定がある者以外に日付を気にする者は少ない。と、いうのも、国の運営や会社を経営する者などにとっては先の見通しをするためにさまざまなな計画を練る必要があるのに対し、圧倒的大多数である労働者側からすれば、いつ働きに行き、いつ休めるのかという目先のことが分かれば良いからである。


 レーン達に当て嵌めてみても、魔導具の鑑定結果を七日後に取りに来いと言われた。

 だからそれが何月何日なのかは知らないが、七日経ったら取りに行けば良い、そんな大雑把な感覚なのだ。


 しかし、カーヤは王女付けの侍従。当然スケジュール管理のために常日頃から日付を意識している部類の者。ノルンが気が付いたのは意外ではあったものの、彼女の指摘を受けて顔を青くする。


 それもそのはず。何の因果か知らないが、今日がちょうど六月九日なのだから。


「あんな巨ゴリラを飼い慣らす人と鉢合いでもしたら……」

「ま、間違いなくノルン達は全滅……」

「お、おいっ。嫌なこと言うなよ、縁起でもねぇ」

「だが、レーンはもはや戦える身体ではあるまい?今その者と鉢合わせるのは危険だと私も思う。と、なれば早々にココを出ねば……」


 静かな部屋に響く微かな物音。それを聞いた瞬間、身の毛がよだつのを感じた四人は一斉に動きを止めた。

 まさかまさかと口を噤み、全神経を己の耳だけに集中させる。



──ペタッ



(きっ、聞こえましたよね!?)

(そそそ、空耳じゃない?)

(ノ、ノルンは聞こえないフリをします!)

(いや、意味ねーだろ。それ)


 出来れば間違いであって欲しい、そう願って息を殺し様子を伺えば、再び聞こえてくる謎の音。


(っっ!!)

(聞こえない……私には聞こえない……)

(あわわわわわわわわわわわわ……)


 恐怖のあまり涙目になるシェリル、それと抱き合う顔色の悪いカーヤに加え、二人の間へと『私も入れて!』とばかりに頭を突っ込んだノルン。

 三人に煽られるようレーンまでもが得体の知れない恐怖に駆られ、聞きたいとは思ってもいない不気味な物音へと意識を集中させる。


 と、そのとき……



「どぃぃいいぃぃいぃだあああああぁぁぁぁぁっっ」



 地の底から響くような化け物じみた声、それが怨嗟を撒き散らしているようにしか聞こえず恐怖に支配されてしまった。

 それは元より空気に飲まれて戦々恐々といていた三人にとっては正にトドメの一撃。恐怖は戦慄と化し、我慢の限界など軽々と突破させる。



「「「きゃあああああああああああああああっっっ!!!!」」」



 得体の知れない声が耳につくや否や、それを掻き消すかのように巻き起こったシェリル達の絶叫は、広いようで狭い研究室を乙女色へと染め上げた。




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