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魔攻機装  作者: 野良ねこ
第三章 紡がれた詩
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3-21.お楽しみの続きは秘密の隠れ家で

 さして広くはない、かと言って狭いわけでもない。身を翻そうと思えば十分過ぎるスペースがある通りであるにも関わらず、飛び出した銃弾に果敢に挑む大男は手にした棒切れを徐に振り下ろす。


「馬鹿な!?」

「化け物かっ!!」


 金属と木の強度を比べればやってみせるまでもなく十人が十人、口を揃えて金属が勝つと即答することだろう。しかし通ったことすら分からぬほどの速さで振り下ろされた棒切れは一撃の元に四発もの銃弾を叩き伏せて見せた。

 相手は鉛という金属の中では柔らかい部類だとはいえ、火薬による加速とそれを無駄なく伝えるための回転を与えられていても、である。


「ふざけるなぁぁっ!!」


 唯一放心を免れた衛兵は斧を振りかぶり、在らん限りの力を込めてそれを振り下ろす。


 平均身長が百二十センチの小柄なドワーフだとて侮るなかれ。筋肉達磨のグルカと比べてはいけないが、ほぼ例外なく筋肉に恵まれた肉体は人間との力比べで負けることは少ない。

 加えて斧とは叩き割ることに優れた道具であり、木を切り、生活に役立てるために発達したのだ。グルカの持つ棒切れなど意図も容易く折れるのが常識であった。


「──っ!? ぉふっ!」


 つい先程を再現するようさも当然の如く斧を弾き返す。勢いそのままに反転された棒切れの端が衛兵の顎を打上げ、一歩踏み出した軸足を中心に軽やかなターンを決めたグルカが仰反る相手の背中へと追撃を送る。

 瞬く間に地面に打ち据えられた相棒を見て目を見開くもう一人の前衛は動けず、ただただ相方が地面に這いつくばるのを目に焼き付けていた。


「話しは後だ、行け」


 見ているだけの銃を手にした衛兵の向こう、応援に駆けつける衛兵の姿が目に映る。その数はパッと見では数えられず “大人数” としか認識できなかったルイス。


「でも、グルカさん!」


「俺はこの容姿だから目立つのさ、ディアナやレーン以上に、な。だから身を潜めてたんだが、誰かさんのおかげで落ち落ち遊んでもいられなくなったってわけだ。まぁ、町を出られない以上、遅かれ早かれ見つかったんだろ。お前が気にする事じゃあない。

 良いからここは任せてお前らはレーンの元に帰れ」


 自分達の身代わりとなって捕まろうとしている、そう直感したルイスはどうにかせねばとの焦燥感に駆られた。

 もちろん嫁という枷から解き放たれたグルカにそんなつもりは更々なかったのだが、お人好しのルイスは自分に都合の良いように結論づけてしまった。


 このまま別れればこれっきり、二度と会うことはない。それで良いのかと自分自身へと問いかける。


「グルカさん、コレを!」


 大きな身体でルイス達を隠すかのように、棒切れを地面に突き仁王立ちしていたグルカは名前を呼ばれて横目に振り返る。

 しかし、ルイスが投げただろう小さな物体を目にして慌てて身体ごと向き直った。


「んぁ?通信機?」

「そのままで魔力を通せばニナに繋がります、後で必ず連絡下さい」

「…………うんにゃ、これはお前のだろ?俺には必要ない」


 不思議そうに二度三度と手で転がしたグルカだが、それを投げ返すといいから行けとばかりに手を振り背を向けてしまう。


 魔攻機装(ミカニマギア)を纏えば衛兵を蹴散らすなど造作もない。しかし、今ここでグルカと共にお尋ね者だと確定されれば一週間後にソララの元を訪れるのが困難になってしまう。

 預けた手錠を返してもらった後ならばと悔やまれるが相手は衛兵。どれだけいるのかは分からないが一週間逃げ続けるのは厳しいだろうと、盾となるグルカの好意を受け入れる他に手立てが見えない。


「グルカさん!!」


 自分の気持ちを打つけるかの如く “放る” のではなく今度は “投げつけられた” 通信機。売りに出せば魔石より遥かに高い値が付くだろう代物をぞんざいに扱うことに驚いたグルカだが、怒りを顔に貼り付けたルイスの思考が読みきれず行動を起こせない。


「俺はグルカさんを見捨てたわけじゃない。この場は仕方なく任せますが、後で必ず連絡して下さい。良いですか?必ずですよ!」

「俺は黒狼の裏にいる帝国兵と繋がってる。お前が思ってるような人間じゃねぇんだよ」

「どうせそれにだって理由があるんでしょ?それは後で聞いてあげます、今は時間がない」

「馬鹿野郎!俺は厄介払……」

「グルカさん! カタが付いたら連絡下さい、必ず!」


 再び返されては適わないと、ニナの手を取ったルイスは捨て台詞のように言葉をも投げつける。


「必ず!!」

「お、おいっ!」


 走り出した二人の背を見続けていたグルカは手に収まる通信機をまじまじと見つめて盛大な溜息を吐き出した。

 そこには、かろうじて嫌われていないが好かれているには程遠い自分の立ち位置を無視したルイスのお人好しさ加減に呆れる一方で、自由奔放を突く自分に対して手を差し伸べてくれたことが堪らなく嬉しいのだと相反する感情が篭っていた。


「聞いてあげます、だとさ……あのヒヨッコが何様のつもりだ?」


 振り返りつつ通信機を仕舞ったグルカの前に合流した衛兵の壁が出来上がる。三段構えに銃を向ける二十人もの集団。それを前に怯まないグルカは仁王立ちで棒切れを地面に突くと『ここは通さない』と言わんばかりの退かない姿勢を態度で表した。


「お前にかけられた容疑は多大だ。が、大人しく投降すれば命の保証だけはしてやる」


「見捨てたんじゃないんだとさ」


「は? 何を言っている?」


「後で話しを聞いてくれるらしいぜ」


「話しなら我々が聞いてやろう。大人しく……」


「一丁前に粋がるようになった出来の悪い弟二号の教育は、見せかけとはいえ兄である俺の仕事だとは思わねぇか?」


「……最終警告だ、武器を捨てろ」


「頼られちゃぁ無視も出来ねぇ、期待に応えるのが男ってもんだ。アンタらもそう思わないか?」


「抵抗は罪を認めたものと判断する。死してその罪を償うが良い……てぇーーっ!」


 響き渡る銃声と同時、軽やかに振り上げられた棒切れが一斉に襲い来る銃弾を薙ぎ払う。とても筋肉の鎧を纏っているとは思えないしなやかな身のこなしで動き始めたグルカは、二十人を超える衛兵を観客に豪快かつ鮮やかな踊りを披露するのであった。



▲▼▲▼



「居たか?」

「いいや、何処に逃げた?」


 物陰で息を潜めるルイスとニナは足音が遠ざかるのを耳にして止めていた息を静かに吐き出した。


「まさかこんなに大勢で来るなんて」

「ミネルバに戻りますか?」

「いや、それは……」


 グルカと別れた二人はすぐに別の衛兵に追われることになる。それは単に衛兵の姿を見て逃げ出したからなのだが、余裕のないルイス達がそれに気付くことなどあり得ない。



──物音もせず開かれる二人の背後にある扉



「ルイスさん、でしたか?」


 ビクッ!と身を震わせ『終わった』と同じ思いに駆られた二人だが、恐る恐る振り返った先で顔を覗かせていたのは見知った人物。ドワーフという種族でありながら細身の老紳士は、黒い燕服に身を包むあの高級宿の支配人である。


「お、脅かさないでくださいよ……」

「いやいや、これは失礼。ですが、お困りのようですね?」

「え、ええ……見られてましたか?」

「ここは我々がお客様に接するノウハウを学ぶ訓練施設、お二人がよろしければここをお使いください」

「で、でも……」

「さあ、時間がない。衛兵が戻る前にお入り下され」


 裏口とのことで入った先は厨房。しかし今は使われていないのか、灯りは点いているが誰もいない。


 先導する支配人に連れられ個室に通されたのだが、道すがら感じたのは人気の無さ。

 しっかりとした造りがなされており、壁も床も手入れされて綺麗な状態が維持されている。それこそ働き手さえいればすぐにでも宿が開業できるほどに備品も設備も揃っており、なぜ無人なのか疑問に感じるほどだ。


「この国の次期国王は女性に目がない方でして、先日の事件を起こした貴方がたに入国当初から目を付けていたようなのです」


 淹れられた紅茶と共に聞かされた現状。多くの者が目撃したミネルバの飛行による脱出劇など信じず、気に入ったディアナを追い求めて唯一目撃情報が連発するグルカを追わせていたとのこと。


「お嬢さんのメガネは実に良い。それならば人相も誤魔化せますし、なによりとてもお似合いで可愛らしい。ですが今回のことでルイス様のお顔はバレているとみた方が賢明でしょう。

 一週間というのは意外にも長い。隠れて過ごすにはここは打って付けなので遠慮なくお使い下さい」


「とてもありがたいお言葉なのですが、支配人さん……なぜ、それを?」


 次期国王とのことで多大な影響力を持つルハルドの動向は把握しておくのが常識だと告げられたが、この国のことなどルイス達が知る由もない。


 聞けば、受けた恩義を無碍にしてはいけないとあの後から今に至るまで、支配人の手配した者の監視を受けていた二人。それはルイス達の身を案じてのことであり、先ほどのように、いざというときに手を差し伸べられるようにした配慮であった。


「世話をする者も信用に足り得る極少人数に限らせます。なるべく無人に見せるため人が居らぬ事が多くなりご不便をおかけするやもしれませぬが、その分ご自宅と同じだと気兼ねなく過ごせるはず。どうぞ遠慮なくここをお使い下さい」


 呼べば使用人が現れ食事でも風呂でも用意をしてくれる。寧ろ、貴族の館のような高級な宿の方が落ち着かないルイスにとって放置されているのは願ったり叶ったりの状況だ。


「本当にいいんですか?」

「ええ、勿論でございます。この程度では返しきれない御恩を既に頂いておりますので、遠慮されては私供が困ります」


 やんわりとした微笑みに後押しされ、約束の一週間をここで過ごすと決めたルイスとニナ。滞在していた宿の荷物は既に回収済みだと告げられ手際の良さに呆れてしまったが、チェックアウトも完了していると言って去って行く支配人を苦笑いで送り出した。


 ルイスとニナ、二人きりのお泊まり生活はまだまだ続く。




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