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魔攻機装  作者: 野良ねこ
第三章 紡がれた詩
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3-20.囚われたのはどっち?

「帰ったら磔にして鞭打ちの刑よ!裸にひん剥いてアレをちょんぎってやるわ!それからっ……はぁはぁはぁ……それから、ミネルバの上に晒して鳥の餌にしてやるんだからっ!!!!」


 肩で息をするディアナを尻目に、無言になったことでひと段落したことを察したカーヤが手当たり次第にぶち撒けられた部品の数々を黙々と片付け始めた。


「ねぇねぇ姫っち、ニナが卒業したら次は姫っちの番?」


「そつ、ぎょう……ですって?」


「いや、私の番かどうかは知らないが一皮剥けたルイスにモーションをかけてみるのも悪くはないな」


「一皮……剥ける?」


「じゃあその時は私も混ぜてもらお〜っと」

「いやいや待つんだノルン。初めてを捧げるときは薔薇色の気分に浸りながら……」


「は、初めて……捧げるぅ!?」


「だ〜いじょうぶぅ!私も初っ端だから勢いで行こぉ〜」

「それは勢いで行くものなのか?」



「うがぁぁぁぁあああああぁぁぁぁあああぁぁっっっ!!」



 衣服を纏わないルイスに、はにかむニナがしなだれかかる。

 シェリルとノルンの会話からアラレもない二人が想像されたディアナは両足を広げて踏ん張り、在らん限りを出し尽くすかのように魂から来るとさえ感じる耳を劈く雄叫びを上げ始めた。


「るせぇよ」


 しかし、歩み寄ったレーンの軽い手刀によりピタリと収まった魂の叫び。

 ジワリと涙を湛えたディアナがレーンの腕へと収まれば、怒り狂っていた先程とは一転、声をあげて泣き始めるではないか。


「ニナにだって個はある。いつまでもお前の手の中にあるわけじゃないだろう?アイツが大事だと思えるのなら、アイツの意志を尊重してやれ」


 ニナの事が心配で堪らないディアナの暴走、その終焉を見届けたシェリルとノルンは揃って肩を竦めていた。

 それとは離れた場所で下を向きながら唇を噛み締めている者がいるとも知らずに。



▲▼▲▼



 行けども行けどもゴールに近付いていると実感出来ないマラソンほどモチベーションを維持するのが難しいものはない。

 二日、三日と僅かな情報も得られなかった捜索はまだなんとか耐えられたのだが、それが四日、五日と続けば徐々にため息も大きくなっていく。


 そして同じように六日が過ぎ、何の成果も得られないままに迎えた約束の七日目。しかし訪れた工房【ピオニアレ】でソララに言われたのが『もう一週間くれ』であった。

 

「原理は解明したからさ、お願いっ!一週間後には同じ物を複製してみせる。だから後一週間だけコレを貸しておいてよぉ、ねっ?ねっ?お願ぁ〜いっ」


 ルイスからしたらグルカの捜索に当てられる時間が増えて嬉しい気もするが、ここまで手がかりらしい手がかりが無いとなるとこれ以上探しても……と弱気にもなる。

 しかし鑑定の延長は聞いてみねば分からないと、その場でディアナと連絡を取りGOサインをもらったのだが、それがいけなかった。


「何それ何それ!面白そうな魔導具を持ってるわね。それも鑑定しちゃったりするぅ?」


「いえ、これは……」


「大丈夫だって!お姉さんに任せればちょちょいのちょいで……」


「二週間も延長する人のちょちょいは信用できませんよ。手錠の方は頼みましたからね?行こうニナちゃん」


「ああ、そんなぁ……待ってぇ〜、私の魔導具ぅ〜」


 膝立ちになりニナへと縋りついたソララを力ずくで引き離しそそくさと工房を後にする二人。ディアナお手製の通信機まで預けてしまえばメレキヤを出るのがいつになるのか分からないとの危機感からのルイスらしからぬ強引な退き際ではあったが、魔導具マニアのソララに対する対応としては大正解だった。


『ニナぁ〜、お願いだから帰って来てぇ……』

『お姉様、何度言おうとも私の意志は変わりません』

『そ、そんなぁ……』

『移動するので切りますよ』

『ちょ!待っ……』


 執拗に帰還を願うディアナの気持ちは理解出来なかったが、通信する度に懇願されては流石のニナでもうざったく感じてしまう。理由を聞いても『とにかく帰れ』の一点張りでは意味を察することもできず、尊敬する姉の頼みでも現状維持を取ってしまっても致し方ない。


「帰れって?」

「はい。普段はしっかりしてらっしゃるのに最近はそれしか言いません」

「それだけニナちゃんが心配ってことでしょ?」

「それは嬉しいことですが、過度な心配は信用されてないのだと捉えられかねません」


 何故そこまで心配されているのかを理解してないニナに乾いた笑いで濁したルイスではあったが、物陰から現れた男達を目にした途端に全てが吹き飛び血の気が引いてゆく。


「大きな男を探しているというのはお前達だな?」


 兜から脛当てに至るまでの全てが金属製であり、六人が六人とも揃いの装備ともなれば彼らが衛兵であるのは間違いがない。


 訝しげな顔で近付く二人の手には斧が握られており、散開を始めた四人は腰に下げた銃が抜けるようさり気なく腕組みなどしている。明らかに武力で制圧する姿勢に『不味った!』と思っても今更だ。


「そうですけど、それがなにか?」

「同じ男を俺達も捜している。どうだ?詰所で茶でも飲みながら情報交換と行かないか?」


 規定の配置に着いたのだろう。緩いながらも包囲を固めた衛兵はニナを背に庇うルイスが警戒している事を察して歩みを止めると、にこやかな笑みを讃えて同行を促す。


「聞き込みはしているのですが全くと言っていいほど何も情報がないのです。せっかくですがお話しできる事がないので遠慮させてもらいます」


「おうおう、兄ちゃん。カッコつけるのも良いが、俺らが下手に出てるうちに大人しく従った方が利口なんじゃないのか?」


 ドワーフとは短慮であり思ったことをすぐに口にする。だが決して頭が悪いわけではなく寧ろ発想力と瞬間的な頭の回転は他種族と比べて優れている者が多く、世界の魔導具開発を牽引するのはそれ故なのである。


 対峙する一人が見せつけるように地面に斧を突き立て逃げ腰のルイスを煽り始めた。数で勝る彼らが威圧を掛けるのは与えられた任務を素早くこなすのに効果的な方法。怯えているうちに一気に畳み掛けて拘束してしまおうとの魂胆なのだ。


 しかし、彼らは警戒している。理由はルイスが白い腕輪をしているのを確認していたからだ。


 左腕に付けられた腕輪は魔攻機装(ミカニマギア)を所持している証。魔石は確認出来ないことからアクセサリーや、そう思わせる為の見掛け倒し(イミテーション)の可能性も考慮してはいるが、二人(・・)が人間である以上、油断は禁物。


「一緒に行く意味も謂れもありませんので。余計な手間と時間をかけるのは無駄ですよね、お互いに」


 いざとなれば魔攻機装(ミカニマギア)で逃亡。ソララの元に行くのが困難にはなるが切り札としては有り。

 焦りに焦るルイスだが、メレキヤ潜入時のゴタゴタに比べたら切り抜けられる見込みがある分かなりましに思えていた。そのおかげで外面は平然を保って見える。


 あの事件は、ルイスを成長させるのに大いに役に立っていたのだ。


「そうでもないぞ? あの男を探すってことはお前、先日の爆破事件の関係者だよな?」


 目に見えぬ魔力を込め始めてから僅か一秒。そのたった一秒の間に、生身では崩す事が困難な魔力障壁(パリエス)を展開される前に腕輪を切り離すか操者(ティリスチー)を殺すことこそが魔攻機装(ミカニマギア)所持者に生身で勝てる唯一と言っても良い戦法なのである。



──絶対に逃がさん



 その意志を体現するよう戦闘を覚悟した男が斧を握りしめ、じりじりと距離を詰める。

 手を広げてニナを庇うルイスは四方からかかるプレッシャーへと忙しなく視線を巡らせていた。


 ニナには指一本触れさせない、その意気込みは衛兵にも伝わるが、その行為が余裕の無さを如実に語る。

 女は弱点。となれば最悪、人質に取って投降を呼びかけることも視野に入れる衛兵。


 しかし……


「なんだなんだ?昼間っから喧嘩か?」


 緊張漂う小さな通り。そこに悠然とした足取りで現れたのは身長が二メートルもある大きな男。行き掛けの駄賃とばかりに手頃な細柱を素手で折ると地面に突き、ニッと楽しそうな笑みを浮かべた。


「貴様が件の人間か!!」

「グルカさん!!!」


「あぁ?誰かと思えば散々面倒を見てやった恩人を捨てて行った薄情なクソガキじゃないか。こんなところで会うなんて奇遇だな。それともまだ仇を打つけ足りなくて戻って来やがったのか?」


 嫌味を吐くグルカだが顔は笑ったまま、だがそれも当然。

 二人がこの町で彷徨く理由などルイスの性格からすれば察するのは難しくない。それに加えてグルカは二人が自分を探している事を把握していたのだが、自らの意志で姿を見せないでいたのだ。


 しかしそうとは知らないルイスは突然の再会にテンパり、投げつけられた言葉を譜面通りに受け取ってしまう。


──それがグルカを余計に楽しませた


「あの時は切迫詰まってて仕方なく……決してグルカさんを見捨てたわけじゃありません!」

「口では簡単に否定できらぁ。その必死さが嘘を言ってる証明だとは思わねぇのか?せめてよぉ、もうちっと上手く……」

「嘘じゃないですって!」

「だってオメェ、もう二週間だぜ?」

「それは!俺だって必死にグルカさんを探して……」

「とかなんとか言ってもよぉ、二人きりのデートを楽しんでただけだろ?他人を理由に使うなら名前の使用料を払えってんだ」

「ち、違います!俺達は本当に……」


「ごちゃごちゃ五月蝿い!!三人ともメレキヤ襲撃と【サンタ・サ・スケス】侵略の罪で捕縛命令が出ているっ、大人しくお縄につけ!」


「嘘こけ。そんな風に密着しちまって、ちょっと見ねぇ間に童貞(チェリー)が成長したもんだな」

「俺とニナはそんなんじゃ!」

「ニナぁ?お前、いつから呼び捨てするようになったんだ?やっぱりヤッたんだろ?」

「ちょっ!ヤッたとか言わな……」

「まじか!?冗談のつもりだったが本当にヤッてたとは、こりゃ赤飯ものだぞ!」

「ヤッてない!断じて!」

「今更ウソはねぇだろ。いくら取り繕って……」


 何気なく歩み寄り、ルイスの胸を指で突つきながら冗談を楽しんでいたグルカ。そこを目掛けて振り下ろされた斧を受け止めたのは、彼の手にした何の変哲もない棒切れ。


 予想外の事態に目を丸くした衛兵だが、すかさずもう一度打ち込んだ斧があっさり弾かれたことにより、ようやく現実を認めたようだ。

 当然のようにたじろぐ他の五人、彼らの警戒対象はグルカ一点に絞られる。


「お前、今、この俺に喧嘩を売ったよな?」


 飄々とした態度から一転、突然膨れ上がった闘気が衛兵達を後退らせる。

 傍目には大人と子供が対峙しているように見えるものの、スイッチの入ったグルカは例え相手がこの国の兵士でも手加減をするつもりはないようだ。


「ちょうど暴れたい気分だったんだ。なぁに遠慮は要らない、全員まとめてかかって来やがれ!」


 一歩踏み出し、構えた棒切れ。虎の尾を踏んだ衛兵達は生唾を飲み込み更に一歩退がる。

 しかし『かかってこい』と無言で訴える顎のしゃくりに自分達こそが逃れられないのだと悟ると、震える手を無理やり引き上げ銃口を向けて見せた。





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