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魔攻機装  作者: 野良ねこ
第一章 星が集いし町
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3.最新式はお気に召します?

 機械人形特有の直線的デザインのされた黒いフェイス。鼻より下が切り取られた形の魔攻機装ミカニマギアの頭部は、操者のオデコから上を覆うようにして装着される。

 それは魔力を制御する重要な部位であり操者の意思を早く正確に伝えるのが目的で、他の部位の欠損なら修理も効くが、頭部の破壊は魔攻機装ミカニマギアの死を意味する。



 間近での予期せぬ爆発により地面を滑る黒紫の機体。魔力障壁パリエスが守ってくれたとはいえ、衝撃までは吸収出来ずにギヨームへと伝わっていた。

 あまりの事に思考が止まり、混乱する頭を振って無理矢理落ち着かせると、頭部の無くなったモスグリーンを引きずる白い機体が何の警戒もなく近付いて来る。


「まさかっ!?」


 投げつけられたのは、そこにあった筈の魔攻機装ミカニマギアの頭部。それを理解すれば他の八機はどうなったのかと視線が彷徨う。


 第二皇子殺害未遂事件の容疑者の追跡は、帝国を出たという予想外の報告で荒らされることとなった。

 そのとき空いていた者を掻き集めただけの部隊は精鋭とは言い難い。しかし、そこは日々鍛錬を積んできたリヒテンベルグ帝国の兵士達。いくら異様な雰囲気を醸し出す未知の機体とはいえ、九機もいればそんじょそこらの若造にあしらわれるなどとは考えてもみなかったのだ。


 だが現実に目にする光景はそれと異なり、立っている帝国兵は一機もない。


 ルイスに引きずられる機体を始めとして死屍累々の無残な姿を晒す部下達に目を丸くしたギヨームは、戦闘中だというのも忘れて呆気にとられてしまった。


「ソイツはどうしたんだ?盗んだにしちゃ色がおかしいぞ?」


 地に刺さるランスに手を伸ばしながら、徒歩と言うにはあまりにも軽快に歩いてくるルイスに声をかけるレーン。


「分かんないけど、一機倒したら生えた。機動性が良くなって快適度アップだな」


 アンジェラスの腰にあるベルトのような物は、帝国機に付いていたアリベラーテギミックと瓜二つだった。

 戦いの始まる前には無かった物が今は付いている。仮に奪い取ったにしても、何の調整もなしに使えるはずもなく、よしんば適合したとしても色まで変わっているのはどう考えても不自然だ。


「生えたって、お前なぁ……」

「生えたもんは生えたんだ。信じる信じないは別として、それ以外に説明のしようがないよ?」


 レーンとてそんなすぐバレる嘘をつくとは思っていない。しかし、特殊な方法で造られているとはいえ魔攻機装ミカニマギアは鎧を纏った機械だ。魔物の類ならまだしも、機械が部品を取り込んで自分の力にするなどとは聞いたこともない。


「まぁ……それならそれでいいけどな。

それよりギヨーム、二対一になっちまったけど、まだ続けるのか?」


 自分の実力は知ることが出来たし、今までのウサも晴らすことが出来た。気に入らない相手であったとてギヨームを殺すことが目的でないレーンにとって、これ以上の戦いに意義を見い出すことが出来ない。

 本音を晒せばさっさと帰れと言いたいのだが、当のギヨームは帝国兵の残骸を見ながらぶつぶつと呟いているのみで、言葉が届いていない。


「馬鹿な……帝国兵が九機もいたんだぞ?それが、あんなチャチな見た目の魔攻機装ミカニマギア一機に……全滅だと?」


「おい、ギヨーム?聞いてるのか?」


 曲がっていた背を伸ばし、そのまま天を仰ぐ黒紫の機体。

 おかしな雰囲気に距離を取ったまま、レーンとルイスはその様子を眺めていた。


「クククククッ。そうだ、何を呆けていたのだ。キツネを狩りに来たらクマが出ただけのこと。その程度のイレギュラーで成果なく手ぶらで帰るなど宮廷十二機士イクァザムの名折れではないか。

 さぁ、獲物を狩ろうぞ、【黒紫ミヤタ】!」


 振り上げられた両手には肩から溢れ出した炎が腕を伝う。

 再び太くなる両の腕、長さの増した二本の剣。雄々しく立昇る炎は一本の火柱のように見え、増していく太さと共に威圧感を強める。


「なんだ、お前がやるのか?」


 持ったままでいた帝国機を放り投げて一歩前に出たルイス。返事の代わりに腰を落とすと、先程取り込んだアリベラーテギミックから青白い光を撒き散らす。


 その姿に抜いたばかりのランスを再び地面に突き立て、お手並み拝見とばかりに静観の構えをとるレーン。


 火柱が先端から割れ、二人に向けられた。


 それを合図に動き出すアンジェラス。解き放たれた白き機体は土埃を巻き上げながら一本の矢のようにミヤタを目指す。



双蛇よ、牙を剥けイグニスフィーディ・ディオザンナ



 突き出された二本の剣、飛び出した大量の炎は二匹の蛇を象る。

 互い違いに螺旋を描くような不規則な動き。向かい来るルイスに迫れば大口を開けたかのように二つに裂けて肥大し、巨大な炎の壁となり襲いかかる。



──赤に突き刺さる白い直線



 炎の津波に飲み込まれる寸前、アンジェラスの周りに黄色の膜が現れる。それは火の魔力の優位属性、雷の魔力で作られた防壁だった。

 極薄の幕は荒れ狂う炎を寄せ付けず、熱すらも通さない。降り注ぐ炎を割りながらも速度を落とさず突き進めば、発生源たるギヨームへとたどり着くのに時間はかからない。



双撃炎絶斬フラムセリフィ・ディオメキレリ



 左右から挟み込むように斬り裂かれる炎、魔法を放出していたはずのギヨームの接近は予想外のものだった。


 超速で迫る刃の交点はルイスの首筋、反応する間も無く雷膜と打つかれば、ガラスのように砕けて消える黄色の破片。

 その感触に口角を吊り上げたギヨームであったが、その直後、驚愕することとなる。


 打つかる速度が速ければ、反射される速度も増すのが物理の法則。


 砕け散る雷膜の下には可視化された虹色。抵抗すらなく砕け散るはずの魔力障壁パリエスはギヨームの想定に反して斬り裂くこと叶わなかった。

 そしてあろうことか、硬いものに当たるように跳ね返された己の剣に引っ張られ両腕が左右に開かれてしまう。


 当然の如く斬りかかったルイスは目と鼻の先、大の字になった身体は打ち込んでくれと言わんばかりの無防備を晒している。



「くうぉぉっっ!!」



 互いに距離を詰めていた二人、今更回避するにも魔法を使うのも間に合いはしない。

 火の魔力を帯びて肥大化した両腕に全身全霊を込めて力任せに剣を引き戻す──が、最初から最短を貫く白い拳の方が遥かに早い。


 魔力障壁パリエスの頑強さは魔攻機装ミカニマギアを起動する魔石の純度により決まると言っても過言ではない。それに加えて操者ティリスチーの魔力量と、魔攻機装ミカニマギアとの親和性にも左右される。

 宮廷十二機士イクァザムの一機である黒紫ミヤタは世界を見てもかなり強い機体であるのは間違いなく、それを駆るギヨームにしても紛れもなく世界最上位クラスの操者ティリスチーであった。


 しかし、ギヨームを守るべく立ちはだかった虹色の膜は、風船のように少したわみはしたもののアンジェラスの一撃で呆気なく砕け散り、何の障害もなくなった胸に白い腕が生える。


「あーあ、結局こういう結果になるのかよ。だから帰れっつったろぅが」


 炎が天に昇り、それに伴い巻き上げられた砂塵。

 数秒後、現れた二人の姿勢に溜息を吐きながらも突き立てていたランスを引き抜くと、その身が金色の光に包まれる。


 肘まで埋もれた白い右手が引き抜かれれば、支えを失った黒紫の機体は崩れ落ちて地面に横たわる。

 魔力供給を断たれた機体がその身体と同じ黒紫の光に包まれ腕輪に戻ると、胸に風穴を空けたギヨームの亡骸だけが何も無い荒野に残された。



▲▼▲▼



「殺すことに躊躇いが無いな、なかなか肝が座ってて感心したぜ…………おい?」


 拳を握りしめたまま動きを見せないルイス、程なくしてその姿が純白の光に包まれると生身の身体へとすげ代わる。


 その姿に違和感を覚えたレーンは事の成り行きを見守ることを決めたのだが、その直後には微かに身を震わせたルイスがゆっくり振り返った。


(……なんだ?)


 仁王立ちするレーンの元に歩み寄るルイス。


 その顔には初陣の兵に現れる殺人による恐怖などは伺えなかった……であれば、先程の違和感がなんなのだと益々の疑問が頭を占める。


「殺らなきゃ自分が殺られるだけだろ?俺にだってまだやるべきことがある。こんなところで死ねないってだけだよ」


「死んだらそこで終わりだ、分かってるじゃねぇか! ははっ、気に入ったぜ」


 考えても仕方がないと思考を放棄すると、腰に付けた薄っぺらなウエストバッグに無造作に手を突っ込み目的の物を引っ張り出す。



「はああぁあああぁっっ!?」



 艶を消した漆黒のフレームにピカピカの銀パーツが絡み合う人目を惹くボディ、前面の厳ついライトと下腹部から後方へと伸びる極太のパイプがコイツの味を決めていた。

 車体は低く安定性を重視させた造りで、通常見かけるものと比べて横幅が大きめでドッシリとした印象を受ける。


 センスの良さが光るカッコ良い二輪車、いわゆる『バイク』が、何の前触れもなく突如として目の前に現れたものだからルイスの度肝を抜いた。


 レーンの持っている鞄は、世界広しといえども極一部の金持ちしか持てないほど高価な『マジックバッグ』だ。

 その名の通り魔法の鞄で、見た目から推測できる鞄容量の何十倍もの物が収納出来る上に、重量がほぼ無くなるという常識外れの代物。存在は知っていても見たのは初めてだったルイスが驚き、思わず声をあげてしまったのも無理のないこと。


「何してんだ? 置いてくぞ?」


 それに跨がり慣れた手つきでキーを回せば、腹に響く低音がリズムを奏でる。


 二人乗り仕様の後部席には “これで良いのか?” と聞きたくなるほど高い背もたれがあり、乗る分には快適そうだがスピードを出すには不向きに思える。

 しかしこんな荒野のど真ん中、『早く乗れ』と顎で指すレーンに置いてかれてはシャレにならない。言われるがままに座ってみれば、硬過ぎず柔らか過ぎずな思った通りの座り心地の良いシート。


「持ち手があるだろ? 慣れるまではちゃんと掴まってないと飛んで行っても知らねぇからな」


 走り出してから言われる注意事項、それと共に感じる違和感。この手のバイクにしては妙に振動が少なく、走り出しもヤケに滑らかだった。

 念のため座席の両脇にあった取手を掴みレーンに問いかける。


「な、なぁ、これってバイクだよな?」


「それ以外の何に見えるんだ?アホな質問すんなっ。 それより疲れたから飛ばすぜ?マジで掴まってないと知らねぇからな」


 出会って間もないレーンではあったが、彼の性格上、同じことを何度も言うのは嫌いなはず。その彼からの二度目の警告に取手を掴む手に力を入れた瞬間、目が眩むほどの加速に背もたれへと押し付けられる。


「嘘つき!コレがバイクなワケないだろ!!」


 流れる景色からしてバイクではあり得ない速度、何より奇妙なのは速度のわりに風が襲って来ないこと。

 もう一つ付け加えれば、速度が上がれば上がるほど増すはずのエンジン音が消え、代わりに シュィィィンッ という奇妙な高い音が聞こえるのだ。


「いんやバイクだ。 まぁ、一般のヤツとは少し違うけどな。

 コイツには魔攻機装ミカニマギアの魔導技術が組み込まれている。つまり俺の魔力で走ってるっつうことだ。風魔法が展開されてるからな、超速いクセに心地良い風しか来なくて快適だろ?」


 二人が乗るのは【魔導バイク】という名のまだ一般には出回っていない代物。

 帝国軍の中でもまだ数台しか無いような超ハイテクの高級品で、機動性を飛躍的に高めるアリベラーテ技術を応用し、車体の後ろに向かうマフラーと車体の下側には青白い光が漏れ出している。

 大きな特徴としてはバイクの三倍以上のMaxスピードと、初速から最高速度まで三秒で到達する加速性能の凄さ。それはまさに移動に特化した魔攻機装ミカニマギアではあるが、特化故に消費魔力がほんの僅かで済むという優れものだった。


 重低音を奏でるエンジンに関してはタダのフェイク。初期の設計では付いてなかったのだが、元々帝国を出るつもりであったレーンが『音があった方が気分が盛り上がる』とゴネて特注して作らせた物。

 その狙いは一般のバイクとの誤認。町中走行のように低速で走っていれば、普通のバイクだと思わせられるとの算段だった。


「快適だし、凄いけど……速すぎない!?」


 大量の砂埃を巻き上げ、荒野を突き進む魔導バイク。最初の十分ほどは緊張していたルイスではあったが、心地よい風と午後の日差しとに誘われうたた寝を始める始末。

 人気の無い街道を駆け抜けた二人は、一時間後には隣町であるストックヤードにたどり着くのだった。




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