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魔攻機装  作者: 野良ねこ
第二章 奇跡の光
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2-22.混沌は他人のお宅で

「なぁルイス、あれ……どう思う?」

「やだなぁ、そんなの聞くまでもないじゃないですか……」


 何処かで見たマスコット人形を大量に鞄に付けた人物を遠目に見続けるグルカにルイス。その背後にはモノ言いたげな顔をするニナとシェリルにカーヤとノルン。

 現在彼等六人はカルレに貰ったチケットを手に歌姫『マジカル・キララ』のコンサート会場へと足を運んでいた。


「ね、ねぇ、まさかとは思うんだけど……そういうこと?」

「お嬢様、現実から逃避していては楽しめるものも楽しめなくなってしまいますよ?」

「ふぅ〜ん、アレが歌姫ねぇ?ちょっと探っちゃいますぅ〜?」


 困惑する一行の目の前に見える簡易テントには数日前に会ったばかりの黒髪の女性がプリントアウトされていた。

 そしてその下には当然の如く、彼女のグッズに群がるファンがひしめき合っている。


 目を疑う光景ではあるものの現実は変えることは出来ない。


 会場に近付くに連れて其処彼処に設置されている幟にも同じ人物が印刷されていれば、彼女が『マジカル・キララ』であることはまずもって間違いのない現実だと認識させられる。


「まさかあのイケイケ姉ちゃんが歌姫だったなんてな。もっと押しておくんだった……」

「いやいや、これっぽっちも脈なかったじゃないですか!?」

「うん? コロコロ変わる女心がどこでどう変わるのかなんてお前に読めるのか?」

「す、すみません……」

「分かりゃいい、分かりゃ」



△▽



 初見で『興味がない』と一蹴されたグルカはあの時『俺は冒険王になる!』と言い残して別行動をしていたためキアラには会っていない。しかし他の五人は熾烈な女の戦いに興じる彼女を目撃しており、その人物を見に来たのだと知るや否や何とも言えない気分になりはした。


 だが、それはそれ。これはコレ。


 せっかくだから、と気分を切り替え参加した歌姫のコンサート。

 映像を写す機器ですら珍しい世の中にあって、人間の身長の二倍以上もある特大スクリーンに囲まれた会場は異様な雰囲気を醸し出していた。


「会場のどこを見てもキララだらけ。三時間もあの空気に晒されてりゃ、そりゃ〜信者も増えるはずだぜ?」


 様々な色の電飾をふんだんに使ったド派手なステージ。煌びやかなレーザー光線は輪をかけて舞台を盛り上げてくれる。

 そんな中に登場したのはやはり数日前にお目にかかったあのキアラだった。


「別に洗脳とかそんなつもりはないのよ?でも、せっかく来てくれたお客様に楽しんでもらうのはエンターテイナーとしての義務。そのために高いお金を払って機器を購入してるんだもの、有用に活用しなきゃ勿体ないわ」


「舞台から遠くてもはっきりと見えるのは素晴らしい演出だと思いました」

「キラキラ、ピカピカすごかったぁ!」

「それも驚いたが、魔攻機装(ミカニマギア)とは戦い以外にも使えるのだと初めて知ったよ」


 割と静かな前奏で始まった最初の曲、その山場と言えるサビに入った直後にオレンジの光に包まれたキララ。

 驚くことに彼女は煌びやかなステージに映えるメタリックオレンジの魔攻機装(ミカニマギア)【マーキュリー】を身に纏い、婦女子なら持つことさえできないような身の丈ほどもある巨大な剣をリズムに合わせて片手で振り回し始めた。


 それを待っていたかのように沸き立つ歓声。観客達も一様に手にするオレンジ色のタオルを振り回し、会場全体が一体となる。


「会場入りは二千人?凄い熱気でしたね」


「その中に貴方達も入ってくれてたんでしょう?ありがとうね」


 間を置かず続けられた曲はノリの良い楽曲。一際派手な照明演出に釣られて一段階引き上げられる観客達の熱狂。

 それもそのはず、始まった曲に合わせた『マジカル・キララ』の行動は予想の斜め上を行くものだった。


「にしてもよぉ、安全面とか大丈夫なのかよ」


「このわたくしがやる事にミスなんてないわ……な〜んてねっ! 大事なファンを傷付けるわけにいかないから、入念なリハーサルを何度も重ねてるわ。お陰でコンサートが始まると休みが一日も無いんだけどね」


「一日もって……コンサートは一ヶ月あるんですよね?その間ずっと?」


「えぇその通り、ずっとよ。可哀想でしょ?」


 背中に取り付けられた一対の可動式の板。それが左右に拡げられ、見栄えのみに特化した特殊なギミックが発動されれば、彼女の背中に天使の翼が生えているように見える。

 巧妙に隠された翼の正体は三重に重ねられたアリベラーテであり、二対四枚の翼を持つオゥフェンより遥かに高い機動力を発揮する【マーキュリー】は重力を無視できるかの如く自在に宙を舞う。



──それを駆使した度肝を抜く演出



 天使と化した歌姫はあろうことか観客の頭上を飛び越え、各所に設置された足場を点々とする。


 観客との距離僅か二メートル。目が合うほどの至近距離を縦横無尽に飛び回るのだ。ステージにいる彼女に声援を送るだけでも熱狂するファンが、手を伸ばせば届きそうなほどの距離に迫るアイドルに興奮を覚えない筈がない。


 キララの通った跡にはアリベラーテ独特の青白い粒子が尾を引き、それに群がるかのように観客達が一斉に手を挙げる。それはあたかも水面に立つ波のようであった。


「あれだけ長い時間魔攻機装(ミカニマギア)を纏ってても魔力切れしないのは、そういった努力の賜物ってことですよね?」


 コンサートは三時間。他のアイドルと同じく数曲毎に会場トークや衣装替えという休憩を挟むものの、それでも魔力消費の多いアリベラーテを起動させ続けるというのは並大抵のことではない。

 しかもそれが三対ともなれば、それを支える魔力量はもはや化け物級と言っても過言ではない。


「そこはスマートにわたくしの才能ってことにしておいて良いのよ?」


 理想的なプロポーションと、それを120%に引き上げる非日常的な衣装。心まで響く歌声、万人受けするよう創られたキャラ。金に糸目を付けない機材投入に、距離感を近く感じさせる突拍子のない演出。

 『マジカル・キララ』が超絶なる人気を誇るのはこの全てが満たされているからであり、その根幹は十全な資金ももちろん必要ではあるが、魔攻機装(ミカニマギア)【マーキュリー】の特出した性能とキアラ・フォシェルの類稀なる才能、そして何より惜しみなく行われる彼女の努力にこそある。


「なんか、最初の高飛車なイメージと随分違うんですけど……」


 コンサート終了後、係の人に取り付けてもらった『マジカル・キララ』との触れ合いの場。普通なら門前払いが関の山だというのに『レーンの連れ』という魔法の言葉は絶大な効果を挙げ、二つ返事で案内された舞台の裏手側。


 ここは彼女のための控室でありプライベートルームでもある。


 特殊が過ぎるミネルバと比べてはいけないが、世界でも類を見ないほど大きなこのシークァは彼女専用のモノ。コンサート期間中はルイス達六人が押しかけてもまだ広いこの部屋で寝泊まりするのが常態化している。


「女って、いくつもの顔を持ち合わせているものよ?時と場合と相手によって仮面を使い分ける、その尤もたるはわたくしキアラ・フォシェルとアイドル『マジカル・キララ』かしらね?」


「ああ、なるほど?」


「女の方が激しいってだけで人間誰しも同じだわ。貴方だって好いた娘にはデレデレ甘えたりするんでしょう?」


「うぇっ!? お、俺は……」


「あら貴方、受けの良さそうな顔してるくせに奥手なのかしら?」


 獲物を見つけた肉食獣の如く、不穏な光を宿したブラウンの瞳を細くするキアラ。気力、体力と共に全精力を使うコンサート直後ということもあり、シャワーを浴びて気持ちをリセットして尚、余韻が尾を引く彼女の精神(こころ)は手頃な雄を求めて昂り始めた。


「奥手も奥手、二十歳にもなって未だ童貞(チェリー)のチキン野郎だぜ?」


「ちょっ!?グルカさん!!」


 思いもよらぬ獲物に口角が自然と吊り上がる。それを隠そうとするキアラはワイングラスへと口を付けて一息で飲み干した。


 徐に席を立つキアラ。


「貴女ほど積極的じゃないことは確かですけど……俺の事なんていいんですって!」


 目を逸らし、不貞腐れたかのようにそっぽを向くルイス。しかし自分の座るソファーが沈み込めば何事かと慌てて目を向けるのはごく自然なことだった。


「えぇっ!! なっ、なんですかっっ!?」


 それが肌が触れ合うほど至近距離ともなれば振り返るのも早くなる。


 しかしその時には太腿に手が置かれており、目を丸くしたルイスが状況を把握するなり身を捩って上半身だけでも逃れようとする。


「ねぇ……」


 拘束された太腿、もう片方の手で掴まれたシャツ。身動きの取れぬルイスに縋り付くかのように、しなだれ掛かるキアラはバスローブ一枚というあられもない格好。

 意識して押しつけられる双丘は柔らかな感触を与えつつ形を変え、意図せずとも釘付けにされたルイスの視線はそれにより現れた深い谷間を向いている。


「私に協力してくれるのなら今夜ここに泊まって行っても良いのよ?」


「きょ、協力って……なにを?」


 身を伸ばすことで形を変える渓谷。摩擦で置いてきぼりを食らう布地から脱走しようとするソレを目にしてゴクリと生唾を飲み込む。

 イケナイとは思いつつも本能には逆らえない。穴の開くほど見つめる先、あと少しで頂点に添えられたサクランボが顔を覗かせる寸前で大移動が終わりを告げる。



「あの女を追い出して」



 全神経を胸に当たる心地良い感触に割いていた意識半ばの曖昧な返事。その問いかけに答えた耳元での囁き。耳に当たる柔らかな吐息が脊髄を刺激し、ルイスの背中に電気が走ったかのようなゾクゾクとする感触が駆け抜けた。


 しかしそんな夢見心地な状況も、この部屋にルイス達を招いた彼女の目的を理解すると同時に夢泡と化す。


「そんなこと、出来るわけないでしょう?」


 自分を取り戻したルイスがキアラの肩に手を当て押し退けるが、冷静になった脳は今という状況を正確に把握する。


「やれやれ、ルイスはやっぱ意気地なし(チキン野郎)だってこったな」


 呆れ返るグルカだけならまだ良かったかも知れない。

 そんな一部始終を目の前で見ていたカーヤは鼻を膨らませて悶々としており、『続きはまだか?』と言わんばかりの熱い視線を送っている。


 横に並ぶノルンも興味ありげな爛々とした目を向け微動だにしない。

 しかし、それと同じく興奮した面持ちのシェリルが何を思ったのか爆弾を投下した。


「ルイス、キアラ殿がお気に召さぬのなら今宵は私が相手をしてやっても……」


「っ!! お嬢様!?」


 大きなメガネが飛んでいきそうな勢いで振り向いたカーヤが耳を塞ぎたくなるほどの金切り声をあげる。

 だが、何処かおかしかったのは彼女も同じだった。


「お嬢様が夜伽を希望なさるのなら侍従である私が努めます!ルイス様のお手は煩わせないですわっ!!」


「カーヤ!?」


「それ、面白そうですねぇ。私も参加してもぉ?」


「ノルン!そこは止めるべきところではないのか!?」


「なんだなんだ?それなら俺も参加してやろうっ!」


 これ幸いと意気込み身を乗り出した大男。しかしコントのような会話を繰り広げた三人は急に真顔になり、それぞれの思いを口にする。


「筋肉に興味が無いと伝えたはずですが?」

「私もぉ、オジサンはちょっとぉ?」

「すまぬ、グルカ殿。私もルイスのように可愛げがある方が趣味なのだ。許されよ」


「おふっ……」


 額に銃弾でも受けたかのように弾かれたグルカは、ソファーに身を預けて昇天した。


「何よこの状況……わざとなの?わざとよね?」


 思惑が粉砕されたキアラが溜息を吐くが、場の流れについて行けないルイスもまた溜息を吐きたい心境であった。


「っっ!!」

 

 しかし、何気なく視線を向けた先に己をガン見していた金色の瞳に気がつく。

 表情こそ普段と変わらぬものの、あからさまに不機嫌そうな目。それを目の当たりにしたと同時に言い知れぬ悪寒に襲われたルイスは、誰にも気付かれぬままにブルリと身を震わせたのだった。




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