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魔攻機装  作者: 野良ねこ
第二章 奇跡の光
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2-21.歩き始めた己の道

 ディアナに連れられ見学を申し込んだ『覇李真(はりま)家』。町中に点在するいくつもある道場の内、アイヴォン流宗家と言われるもっとも活気のある場所の師範席の隣に座し、一日中稽古風景を眺めていた。


「たりゃーーっ!」

「せいっ!」

「まだまだぁっ!」

「もう一本お願いします!」


 体術とは武器を使わず、己の肉体を駆使して戦う術。体幹を主軸とし、肩、肘、拳、指の動きに加えて足の運びからくる下半身の使い方に至るまで、身体の全てを如何にしてうまく制御し同調させるか。

 魔攻機装(ミカニマギア)の模擬戦はあれど体術を観察する機会がなかったレーンは目にする全てを吸収すべく、一言も喋らぬどころか出された茶ですら口を付けることなく集中していた。



 ことの発端はエルフの国【レユニョレ】でのあの男との邂逅。僅か五分足らずの出来事はレーンの心に大きな波風を立てていった。


 長き時を隠した牙は、強者である宮廷十二機士(イクァザム)の一角ギヨーム・バレスを凌駕することで “使える” ことを認識した。

 先のエスクルサでは、その宮廷十二機士(イクァザム)二機を相手取ったとて遅れはとらなかった。


 己の才能ならば大抵の奴には負けはしない、そう自負していたというのに最も簡単に砕かれたプライド。『勝つ』どころか同じ土俵にすら上がれないなど想像もしていなかった。


 だが逆に、己の小ささを知ることで上を向くことが出来たのだ。



 翌る日に訪れた剣術を扱う『一柳(いちやなぎ)家』でも同様に観察の一日を過ごし、三日目となった今日は槍術を扱う『紅月(こうづき)家』の道場に居座っている。


「貴女が再びここを訪れた時は冷や汗が流れもしたが、よもやこの様な若者を連れて来るとは思いもしませんでしたな」


「あら、失礼ね。私も “若者” よ?」


「いや、これは失言。意図としてはなかったが、気に障ったのなら許されよ」


「相変わらず堅いわね、冗談よ?」


 夕方、その日の成果を試すべく行われている模擬戦。胡座を掻いた膝に肘を乗せ、その上に顔を乗せて食い入るように見つめるレーンの隣には、背筋を伸ばして正座する、座る姿ですら様になる美しき女が。


 その逆側に座すのは、白い顎髭を三角に整えたただならぬ雰囲気を醸し出す老齢の男。


 細身ではあるものの一目で鍛えられていると分かる肉体。長きに及ぶ鍛錬は一切の無駄を排し、同時にそれは存在感にまで影響を与える。威圧されているでもないのに近寄り難い空気、研ぎ澄まされた眼力は見られただけで萎縮してしまう者もいることだろう。現に声をかけられた門下生は揃って緊張し顔を強張らせていた。


「ハハッ、私なんぞに冗談を言ってくれる者などそうはおらんのでね、あまり慣れておらんのですよ」


「ずっと怖い顔してるからでしょ?虐めてばかりいないで、たまには自分から冗談でも言ってみたらどう?そうすれば周りとももっと円滑なコミニュケーションが取れると思うわよ?」


「厳しい意見痛み入る。他ならぬ貴女の助言だ、努力はしてみましょう」


 全く反応をしないレーンを挟んでのたわいの無い会話。次々と進む模擬戦の様子を横目で眺めながらではあったのだが、門下序列一位と二位の最終戦では口を閉して試合に集中した。


「我が道場は如何でしたかな?」


 本日の締めにと居並ぶ門下生一同の前で師範代が話を始めたタイミングでレーンに話しかけた師範──ミフネ。


「まだイメージが固まりきってないが、随分と参考にはなった。礼を言う」


「それはそれは何より。しかしイメージとは、誰を想定したものなのかお聞きしても?」


 思い返すはエルフ国【レユニョレ】の教会。萎縮させられるほどに圧倒的な覇気と、押し付けられた大きすぎる野太刀。

 そして全てを見通すかのような灰色の瞳と、去り行く後ろ姿に揺れる束ねられた黒髪は脳裏に焼き付いている。


「俺が目指したいと思ったのは全てを捩じ伏せられる遙かなる高みだ」



「クククククッ、ハーハッハッハッハッ」



 突然の高笑いに師範代を含む全員の目が集まる。

 厳しい顔で自分達を見守り、笑う事ですらあまりない男が声高に笑っている。この異常事態は何なのだと原因を探るべく、固唾を飲んで彼の行動を見守っているのだ。


「流石はディアナ殿が連れてきた御仁。目指す先は遥かなる雲の上なれど、貴方なら到達できる、不思議とそんな気にさせてくれる常人ならざる氣のようなものを感じる。

 ここで貴方と相まみれたのも運命とやらかもしれぬ。ならば私は貴殿が羽ばたくための礎となろう」


 音もなく立ち上がったミフネはゆったりとした足取りで壁にかけてあった先端に布の巻かれた練習用の槍を手に取る。


「鉄は熱いうちに打てと言う。今しがた手に入れた知識を今ここで実践することにより、より早く自分のモノとして吸収することができよう」


 取りやすいように無回転で投げられる槍を片手で握った時には、自分の分を手にしたミフネが “かかって来い” とばかりに不敵な笑みを浮かべている。

 裸足で踏みしめられる床、軽く落とされた腰。両手で構えられる槍の切先はレーンへと向けられ微動だにしない。



 あの男ほどではない。しかし、宮廷十二機士(イクァザム)を凌ぐ強者の覇気に当てられ自然と吊り上がる唇の端。


 今の自分では勝てないだろう、そうは思いながらも彼が告げた魅力的な言葉に練習用の槍を構えるレーン。漠然としていた願望は、あの男を越えるための踏み台を得て明確なモノとなる。

 遙かなる高みへと向かう重き一歩を踏み出す気にさせてくれたミフネ。ならば感謝の意を込めて全力で打つかるのが礼と言うもの。


「胸を借りよう」


 これまで見てきたレーンは誰かに頭を下げるなど考えられなかった。


 今はまだ手が届かぬとも、いずれは独力で超えてやる。そんな気概を見せるレーンに頼られたミフネが羨ましくも感じた。

 そんなディアナが注視する前で自分のポリシーさえも置き去りにすべくレーンの足が動き出し、力強い一歩が床を踏みしめる。


「言うだけの事はある。たった一日の観察で我がアイヴォン流の基礎を身に付けていようとは」


 僅かな操作で多彩な動きを見せる槍先。突き出されたミフネの槍は円を描きながら絡むレーンの槍に阻まれ、その軌道を逸らされてしまった。

 一歩踏み込み、斜め下から振り上げられる槍先。上体を逸らすことで紙一重で躱したミフネの槍がそれを追随し、跳ね除けたところで逆にレーンへと攻め入る。


 槍とは離れた場所から相手を突くための武器。長い間合いを活かして先制し、戦いを有利に進めることに秀でた物だ。


 しかし当然のように、同じ槍同士であれば間合いの優勢などはない。

 手元で行われる微細な動きにより大きく動く事となる槍先。それを巧みに操り、相手の槍を如何に去なして隙を突くか、それこそが槍と槍との戦いであり『紅月家』で日々磨かれる技術の真髄である。


「だが、知識はあっても貴殿の弱さの原因は経験の無さだ」


 あっさり絡め取られたレーンの槍が床を打つと同時、それを成したミフネの槍先が描き消える。


「な!?……ゴフッ」


 目を見開いた直後に伝わる激しい衝撃。レーンの鳩尾を的確に捉えた槍先が肺に溜めてあった空気を完全に抜き去ってしまう。

 続けざまに突き入れられた槍先に視界が真っ暗になり、左右から襲った脇腹への衝撃に全身が激痛という悲鳴をあげる。


 実戦であれば既に死んでいる、耐えきれなかった身体は力を失い倒れ込んだ。


「一つ、聞いてもいいかね?」


 人体の急所を三連続で刺激され床とお友達となっているレーン。その姿を眺めるミフネは動かず、涼しげな顔で黙って返事を待っている。


「……な、んだ?」


「崇高な志しを持つ貴殿が身近にいるディアナ殿に指導を求めなかったのは何故なのか、と思ってね」


 手放すことのなかった槍を支えに歯を食いしばり立ち上がったレーンは、息も絶え絶えに声を絞り出した。

 それを聞いたミフネは何事もなかったかのように淡々と己の疑問をぶつけてくる。


「女に拳を向けるのは俺の矜持に反する。それが自分の女とくれば尚更。例え鍛錬だとしても、俺はそれをしたくないだけだ」


「言うが易し、行うは難し。いやいや、天晴れな精神、誠、見事なり。

 その心意気に敬意を表し、時間の許す限り我の全てを貴殿にぶつけよう。心ゆくまで堪能し、その全てを吸収するが良い」


 笑顔を浮かべたミフネだが、再び槍を構えた彼から発する闘気はそれだけで人を射殺せそうなほど濃密なモノ。真剣な顔付きはその本気度を表している。

 それを受けたレーンもまた口の端を吊り上げはするものの、すぐに引き締まった顔には、彼が提案したように彼の全てを己のものとする気概に満ち満ちていた。




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