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魔攻機装  作者: 野良ねこ
第二章 奇跡の光
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2-18.闇に蠢く一番星

「先のエスクルサ事件はエスクルサ側が組織立って第一皇子レイフィール・ウィル・メタリカンを匿い、引き渡すことを拒否した上で我が帝国軍に牙を剥いたと仰るのですね?」


 据えられたコの字型の柵、そこに大人しく立たされているのは銀髪に入れられた黄色のラインが特徴的な一人の少年だった。


「最初からそう申しております」


 薄暗い場内でスポットライトを浴びれば、神妙な面持ちをする軍幹部の顔など見えやしない。


 一段高い位置に設けられるすり鉢状の議会席、唯一見ることがゆるされるのは議長を務める男のみ。

 強いて言えば、少年の背後に当たる入り口を前に同行した宮廷十二機士(五人の男女)が座らされているのが見えるのだが、許可なく振り返ることはおろか、余計な身動ぎさえ許されない現状。


「首都リヒテンベルグに次ぐ規模を誇ったエスクルサの二割は崩壊。そして六割が半壊という壊滅的ダメージを与え、事実上の瓦解を余儀なくされたのは全て帝国の為であると?」


「リヒテンベルグ帝国は世界で最も強き国。それを忘れた愚か者を粛清しなくては帝国そのものが崩壊する危険があると考えます。

 それとも議長は皇帝陛下の顔に泥が塗られるのを黙って見過ごし、帝国の権威が失墜しようとも民草の気を宥めて平和的な解決を望めと仰るつもりですか?」


 軍法会議という重苦しい空気の中にありながら、自分の考えを淡々と述べるのはなかなかに胆力の要ること。しかし表情一つ変えずにそれをやって退ける少年──ヴォルナーは伊達に最年少で宮廷十二機士イクァザムという任を任せられてはいない。


 反論を受けて口を噤んでしまった議長はヴォルナーと同じく表情こそ変えないものの、助けを求めて会場を見回した。


「全ては帝国のためにやったことだと?」

「そうです」

「エスクルサの崩壊により帝国の財源が二割も減少するのだぞ?」

「反旗を翻し離反されれば、収入どころか更なる痛手を被ることでしょう」

「反抗の意思を見せたのはコロシアムの戦士達だとのことだが?」

「その通りです」

「大量の武装兵を投入すれば身を守ろうとするのは当たり前の対応。彼等は自衛の為に現れただけではないのか?」

「罪人である第一皇子の仲間を庇うということは単なる自衛ではなく反抗と捉えて問題ないかと」

「意思確認はしたのかね?」

「当然です」

「だが同行した宮廷十二機士イクァザムの誰一人としてそれを聞いてはいない」

「第一皇子の仲間が二人おり、その内の一人が逃げ出した為に単独で追いかけましたので仕方ありません」

「他の兵も居なかったのは?」

「命は出しましたが私の追跡について来れなかっただけのこと」

「指揮権のある第三位のジルダ・ベルモネートを差し置いて総攻撃の命をだしたのは何故だ」

「奴等はコロシアムの戦士全員に通達を出したと言いました。その規模は千を超える魔攻機装ミカニマギアの軍団。如何に我々が帝国最強たる宮廷十二機士イクァザムであったとしても、連れていた百機では抑え込むのは不可能。それはご理解頂けると考えますが?」

「緊急の対応だったと言いたいのかね?」

「戦場で順を追っていれば手遅れになり敗北します。それに私も宮廷十二機士イクァザムの一人、越権行為ではないと判断します」


 一人称が変わるほどに分厚い猫の皮を被ったヴォルナー。しかし彼は第六位の宮廷十二機士イクァザムであり男爵家の家督。エスクルサでの戦いで見せた我儘ボーイの顔より、今の偽りの顔の方が広く知れ渡っている。




 審問の終わりを告げるかのように明るさを取り戻した会場。その事に驚いた議長を始めとする参加者達ではあったが、議長席のもう一段上に現れた人物を認めると苦い顔色を隠すように深々と頭を下げ礼を捧げる。


「これ以上聞いてもヴォルナーに非がないのは明らかだろう。損失は大きいかも知れぬが、此度の事件は大きな話題となり他の町への見せしめともなった」


 出席者達を諭すように両手を広げた小太りの男は第二皇子であるアシュカル。帝国議会を動かし、宮廷十二機士イクァザムの半数を含む二個連隊もの兵をエスクルサに差し向けた張本人だ。


「しかし閣下、いくら同じ宮廷十二機士イクァザムとはいえ指揮権のあったジゼル殿に連絡も入れぬというのは……」


「議長が暴漢に襲われたとしたら、衛兵を呼ぶから少し待ってくれなどと馬鹿げたことを言うのか?」


「いや、それは……」


「町に散らばるコロシアム兵の一斉蜂起。それは未だ捕まらぬ奴等の主犯が命じた事は、第一皇子捕縛の責任者たるジェレミ中尉もあの場で確認したことだと聞いておる」


「そ、それは誠でございますか?」


「本人に確認するとよかろう」


 顎で指された議場の入り口には、両手を背後で組み背筋を真っ直ぐにした軍人らしい鋭利な姿勢で立つ壮年の兵士が居た。


「ジェレミ中尉、お前の目にした状況を説明してやれ」


 彼はアシュカルに命じられて以来エスクルサに赴き、日に日に増援されていた第一皇子捕縛のための兵を預かり全力で捜索を推し進めていた総監督。当然のようにエスクルサ事変でも現場で戦っていた。


「ハッ!」


 ヴォルナーに付いていた兵士からは彼の独断だという話しは得られたものの、エスクルサ側から仕掛けられたなどという事実は聞いていない。


 淡々と語られるのは議長を始めとする全員が知らない事実。裁判そのものの根底を覆す証言に議場は大揺れすることとなった。

 


▲▼▲▼



 自分も知らない事実が浮上し、厳罰がほぼ確定されていた軍法会議を無事に切り抜けられたヴォルナー。

 彼は今、救いの手を差し伸べてくれた人物の元を訪れている。


「ご尽力ありがとうございます」


 極上の執務机に合わせられた黒い革張りの最高級の椅子。そこに膨よかな身を預けてグラスを傾けるのは、この部屋の主人である第二皇子アシュカルだ。


「なぁに、構わぬよ」


 机の正面に立つヴォルナーとは少し離れた位置には、先程と同じくこれ以上無いくらいの正しき姿勢で立つジェレミ中尉が微動だにせずに居る。


 その姿はまるで機械人形。


 かつてこの部屋で宮廷十二機士イクァザム第二位のラドルファス・ハマライネンにより洗礼を受けた男は、全てを捨ててアシュカルに忠誠を誓っている。


 その証拠が先程の証言。


 ありもしない事実を捏造し、さも本当にあったかのように語ってみせたのだ。


 当然、それがバレれば彼の命は無い。


 しかし、揺るぎない絶対の忠誠が死の恐怖を感じさせず、主人であるアシュカルの命令ならばと当然のように与えられた任務を完璧に遂行した。


「それよりレイフィールの奴は南のザルツラウに逃げ込んだそうだな」

「はい、西に向かう素振りを見せたそうですが、どうやらそれはフェイクのようです」


「他国に渡ったのなら追跡は難しいですね」


 『逃した魚は大きい』暗にそう含めたのは、机の横に立ち、ヴォルナーとジェレミを観察していたラドルファスだ。


「他の宮廷十二機士やつらが足さえ引っ張らなければ捕らえられていたっ!」


 エスクルサでの出来事のおおよそはアシュカルもラドルファスも把握している。当然そこにはルイスをレーンだと誤認して場を離れたヴォルナーの失態も含まれている。


「ククッ。お澄まししている君よりも、今の素の方が閣下の好みだと思うよ?」


「なにぃっ!」


「ラドルファス、そう煽るな。 ヴォルナー、俺は裏表のある奴は好かん。場を考え立場を弁えての仮面なら必要だとは思うが、身内・・しか居ない場所でも仮面を付けたままならお前は他人だとみなされるぞ?」


「しかし、アシュカル閣下は皇子であらせられます……不敬ではありませんか?」


「だから場だけは弁えよと言っているのだ」


 絶対的な強権を持ち、自分のために手を尽くしてくれた恩人。いくら我儘放題に育ったとて自分の味方であると認識すれば礼を尽くせるだけの教育は受けてきたのだ。



──差し伸べられる手を払い除ける理由は、ない



 言葉なくにっこり微笑んだのはヴォルナーなりの肯定の証。


「ジェレミ中尉、貴様のために魔導バイクを二台用意する。これはと思う人材を二人見繕っておけ」

「ハッ!寛大なる配慮に感謝の言葉が尽きません。偉大なるアシュカル閣下のため、必ずやレイフィールを捕らえてご覧に入れましょう」

「腕の立つ我が配下を一人付けてやる。魔導バイクの扱いはその者に学ぶと良い、では行けっ」


 ビシッ!という音を鳴らしてお手本のような敬礼をしたジェレミは、己に与えられた任をこなすべく颯爽と退席する。


「ヴォルナー、お前も今日は疲れただろう。帰ってゆっくりと休むがよい」


「ありがとうございます、閣下。では僕も失礼しますね」


 ジェレミに続いたヴォルナーは一人称も普段通りとなり、身の硬さも抜けた彼の動きは普段と変わらぬリラックスしたものだった。


「口がお上手になりましたね、閣下?」


 厚き扉が閉められ二人きりになった室内、それを待っていたかのように口を開いたラドルファスの言葉を残った酒を煽りながら耳にしたアシュカル。

 ほぅっ、とアルコールの混じる深い息を吐き出し身体に染み渡る余韻を存分に味わった後で、反応を待つラドルファスへと視線を向けた。


「貴様ほどではないだろう?俺は皇帝になる者として受けた教育を実践しているに過ぎない。所詮は与えられた知識でしかないのだよ」


「人間の成長原理など単純ですよ。経験として得たものを考え知識とするか、知識として得たものを実践して経験とするのか。どちらが先でも変わりはありません」


「お前が口にすると嫌味にしか聞こえんな」

「それはそれは、お褒めに預かり光栄の極み」

「まったく……俺はリヒテンベルグの第二皇子だぞ?」

「ええ、存じておりますとも」


 にこやかに微笑み合う二人だが、腹の中は別々の思いだ。


 予定通り宮廷十二機士イクァザムの一人を手駒に収めたアシュカル、それに手を貸すことでアシュカルのより深いところへと入り込んだラドルファス。


「して、この後はどう動く?」


「そうですね、レイフィールの方はしばらく放っておいてもよろしいかと。その間に閣下暗殺を企てた真の犯人を炙り出す準備をしましょうか」


 その言葉に笑みを深めたアシュカルは琥珀の液体の入る酒瓶とグラスを手に立ち上がると、もう一つのグラスを行きがけの駄賃とばかりに手に取りソファーへと移動した。


「詳しく聞こう。だが、まずは座って口を潤すが良い」

「御意に、我が君」




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