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魔攻機装  作者: 野良ねこ
第一章 星が集いし町
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18.お前らになんぞにモテたくない!

 ディアナ達の攻防が始まったすぐ隣では、やる気満々なヴォルナーが二メートルにも及ぶ大剣を軽快に振り回し、今から起こるであろう虐待に心弾ませていた。


「しゃーねーけど向こうが終わるまでの間、ガキのお守りでもしてますかね」


 左手に嵌る腕輪に魔力を通したレーンの身体が金色の光に包まれる。その直後、一秒にも満たない僅かな時間で秀美かつ絢爛なる魔攻機装ミカニマギア【オーフェン】を纏った姿が大衆の目に晒された。


 誰の目にも煌びやかに映る黄金の鎧。白銀の双頭ランスを地面に突き立てる立ち姿は威風堂々としており、初めて目にする帝国兵達からは感嘆の声が上がる。

 それもそのはず。オーフェンは皇帝となるレーンのためだけに造られた魔攻機装ミカニマギアであり、性能は勿論、見た目や風格までもが皇帝に相応しい物となるよう設計され、目にしただけで思わず跪きたくなるような高貴ささえ醸し出す特別な魔攻機装ミカニマギアなのだ。


「お前らっ!犯罪者に向かって何で歓声なんかあげてるんだっ!!」


 自分よりもレーンの方が人気があるのが気に入らない。


 十五歳にもなって癇癪を起こすのは、四子にして待望の男児として大切に育てたられた家庭環境にも影響があったのは間違いがない。

 しかし、人間の性格とは生まれ育った環境が全てではなく、己で見て、聞いて、体験し、そして考え、行動した結果の全てが蓄積されて出来上がる。


 つまり彼の性格は、彼自身が作り上げたものなのだ。


「捻くれたままの大きなガキより、犯罪を犯したかもしれねぇ奴の方がマシだってことだろ?」



「ふ……ざ……けるなぁぁぁぁっっ!!」



 一足飛びで間を詰めたヴォルナーは、大き過ぎるのを感じさせない素早い動きで大剣を振るう。

 その様子を冷めた目で見ていたレーンではあるが、流石にそのままでいれば胴の上下が別たれてしまうことだろう。


「ハッ」


 大剣が当たる寸前、それはオゥフェンが危険だと判断し魔力障壁パリエスが展開される直前だった。


 手を掛けたランスを支えにヒラリと宙に舞い上がる黄金の魔攻機装ミカニマギア。狙いを外れた大剣が白銀のランスを震わせたと同時、その勢いを利用し弧を描いたランスが上空から駆け降りる。


「なっ!?」


 予想外の展開について行けないヴォルナーだが、彼の意識の有る無しに関わらず自動的に魔力障壁パリエスが展開される。


 直後に鳴り響くガラスの割れる音。受け止めたはずの虹膜は粉々に砕かれ、色を失い虚空へと消えて行く。

 しかし、そのまま下降を続ける筈のランスは魔力障壁パリエスを砕くことで威力を相殺されてしまったかのように弾かれ、後退するレーンが華麗なバックステップを決めるのに一役買うことになった。


「馬鹿な……お前如きが僕の魔力障壁パリエスを破る、だと? あの無能皇子がかっ!?あり得ない……絶対にあり得ない!!」


「お前さ、てめぇで見たことすら信じられないとか、マジで脳みそカビ生えてんじゃね?

 俺は、たった今、お前の、魔力障壁パリエス、ぶち抜いた。 お・わ・か・り?」


「あり得ない、あり得ない、あり得ないぃぃっっ!!」


 肉薄しながら振り下ろされる大剣、そんなものは当たらぬとばかりに軽やかに身を躱すレーン。


「このぉっ!」

「バーカ、どこ狙ってやがるっ」

「なんでっ!」

「この下っ手くそが!」

「僕の剣がっ!」

「おめぇ、目んたま付いてんのか?」

「当たらないっ!!」

「やる気無いならさっさと帰れ、ゴミ野郎」


 闇雲に、そして力任せに振り抜かれる大剣は大振りであり、型も技もあったものではなかった。しかし、そこは身体能力を飛躍的に高める魔攻機装ミカニマギアの中でもトップクラスの性能を誇る宮廷十二機士イクァザムの【アノカト】。二メートルの大剣が軽々と宙を舞うのは、それだけでも脅威である。


「んなもん簡単な答えだろ? おめぇより俺の方が強ぇぇからだっ」


「だからそれがあり得ないっつってんだろ!!」


 当たる見込みのない剣を何度も何度も振り続ける。それに付き合い、避け続けるのは、一見すれば時間の無駄だ。

 しかしこれも、考えがあっての行動。


(まだあと四人もいるしな)


 長年に渡る『僕、無能です……』という演技の甲斐があり自分の実力が知れていない現在、油断している隙にサクッと殺すのが最も効率の良い撃退方法である。

 しかし、先方として現れたのは宮廷十二機士イクァザムで最も嫌いなヴォルナー。今まで蓄積していた恨みが目を覚まし、簡単に殺すよりも先ずは一発ギャフンと言わせたくなってしまったのだ。


「何故だ、何故当たらない……」


 更なる大振りの一撃で地面を叩いたヴォルナーは、片膝立ちのまま剣を引き抜くことなく動きを止めてしまった。


(遊びすぎたか?)


 少しばかり落ち着いた声色を見せたヴォルナーに、早々にケリを付けなかったことを少しだけ悔やむレーン。

 だがそんなのは、散々コケにしてやった爽快感に比べたら全くもって些細なことだった。


──まだ、余裕を持って殺せる


魔攻機装ミカニマギアの操縦すらまともに出来なかった無能が僕の剣を避けたことが先ずもってあり得ない。そして魔法など当然使えないはずなのにアノカトの魔力障壁パリエスまで……ああ、そうか。そうかそうか、分かったぞ!」


「んで、お前のカビの生えた脳みそで何が分かったって?俺様が聞いてやるから話してみやがれ」


 ゆっくりと立ち上がる黄色い魔攻機装ミカニマギア。ビシッと効果音がしそうなほどの勢いでレーンを指差すと真顔で言い放つ。



「お前、偽物だろ!」



 一瞬ザワリとした二人を取り囲む帝国兵。しかし、自分達の上官たるヴォルナーの発言の真偽を求めてレーンへと視線を向けると、事の成り行きを見守るかのように全員が全員、押し黙ってしまった。


「お前……マジでバカなの?」


 少し向こうから聞こえてくるディアナとジルダの戦闘音以外には何も聞こえない静かな夜の町。ボソリと呟いたレーンの一言が静かに響き渡ると、それに賛同して頷いた帝国兵も少なからずはいたようだ。


「偽物でなければ説明が……」


「オゥフェンは俺の為に造られた魔攻機装ミカニマギアだ。たとえお前が俺から奪い取ったとしても起動することすら出来やしない。

 オゥフェンを身に纏っている、それこそが、俺様がレイフィール・ウィル・メタリカンである何よりの証拠なんだよ」


「……なら、何故だ。アノカトを駆る宮廷十二機士イクァザムたるこの僕が、何故『無能皇子』などに良いように遊ばれているというのだっ!?」


 ありありとした怒りを讃える顔で迫り来るヴォルナー。それを見つめるレーンの気分はシラけていた。


 実力差を見せつけ、それに困惑する姿は見ていて楽しいのも。しかし、自分に対して嫌悪を起因とする苛立ちを向けられては、王宮内にいた頃と何ら変わりがないのだ。


(もういい、殺すか)


 多少、冷静になった様子ではあるものの、ヴォルナーの太刀筋など元から大したことはない。


──繰り出される初撃を弾いて至近距離からの魔法でトドメ


 脳内で組み立てた未来に従い、魔法を撃つための魔力を練りながら手にするランスを振り始めた矢先のこと。

 直感が告げた危険信号に従い、大剣を弾いた反動を利用しその場から離れる。



疾風の槍(ブラスカ・ドリィ)



 寸部の狂いなくレーンの居た場所に突き立つ緑色の光。意表を突かれたヴォルナーは目を見開き慌てて飛び退く。


 二人が同時に視線を向けたのはすぐ近くの建物の屋上。

 そこには一体の魔攻機装ミカニマギアが……


「シモン・アタテュルク」

「殿下、お迎えに参上しました」


 夜空に浮かぶ月を背景に高々と飛び上がったシモンは、自らが放った緑の槍の隣へと華麗な着地を決める。


 男性でありながら、その場を見守る帝国兵の半数もの感嘆を誘う美しい所作。

 小顔にあるのは切長の目と高い小鼻。魅惑の唇はそれ単体で見れば乙女のモノかのように艶やかであり、細っそりとした全体像と相まって男装の令嬢にさえ思えてしまうその容姿。

 拍車をかけるのは胸まで伸ばされた藤色のストレートヘアー。首の辺りで束ねられ、前へと流されるサラサラの髪は、シモンの美しさをより一層引き立てる最大の武器。


「迎えに来たって割には手加減なしで魔法ぶっ込んでくるとかどういうつもりだ?」


 彼が若干二十歳にして爵位を継いだ理由は、前頭首の敗北宣言に起因する。

 それは知らない者が聞けば我が耳を疑う理由ではあるものの、アタテュルク伯爵家には『最も美しい者が継ぐこと』との家訓があり、シモンが宮廷十二機士イクァザムに任命されたタイミングで当主を交代していた。


「申し訳ありません。ですが殿下、殿下も一つ、我々に謝罪をするべきかと存じます」


「あぁ?なんでだ? アシュカルの事か?」


「いいえ、違います。 宮殿での殿下は、さもご自分が何も出来ぬうつけであり、皇帝には相応しくない者のように振る舞ってこられました。

 それは全て『偽り』でございますね?」


「俺がそんな器用な奴に見えるのか?」


 口では取り繕うもののレーンとて馬鹿ではない。帝国に仕える家臣として礼を欠かないシモンが無礼を踏まえて口にするのだ、確信が無いはずがないとは分かっている。

 それに、悟られないようにしたつもりではいたが、ヴォルナーとのやりとりを静観していたのなら、魔力障壁パリエスを砕く際に魔法を使ったのもバレているのだろう。


 いくらオゥフェンが最高の魔攻機装ミカニマギアだったとしても、同じく帝国最高位の宮廷十二機士イクァザムが展開する魔力障壁パリエスを砕くのは容易ではないのだ。


「理由までは分かりかねます。ですが……」


 執事の如く恭しく一礼をしたシモンは、隣に突き立つ緑の槍へと手を伸ばす。



──そこにあるのは魔法で出来た槍



 躊躇することなく槍を引き抜くと、足を半歩開いて戦闘態勢を取った。


「素直にお認めにならぬのであれば、僭越ながらこの不肖シモン、殿下の真価をお測りしたく存じます」


 例え自分の魔力で作り出した魔法であったとしても、魔法に触れれば己が身を焼くこととなる。

 しかし、シモンの駆る【マタラ】はその常識を覆すギミックを搭載しているが故に宮廷十二機士イクァザムに選ばれており、その上、シモン自身の魔法技術により “創り出した魔法を己の武器として使える” という驚異的な特技を持つ。


「それでは参ります」


 対するレーンが覚悟を決めて愛用の双頭ランスを構えたと同時、緑色の光りを薄く纏ったマタラの姿が視界から消える。


「くっ、本気か!?」


 次の瞬間、ぶつかり合う互いの槍。一方は緑、もう一方は白銀でありながらも淡い光に覆われている。


「本気でなければ、それこそ無礼でありましょう。 殿下、わたくしめにその力をお示し下さい」


 激しいぶつかり合いは幾度となく繰り返され、その度に眩しい閃光が花火のように瞬く。


 その凄まじいまでのやり取りに唖然とする帝国兵達。彼等は、かねてから無能だと聞き及んでいたレーンとの戦闘など予想だにしておらず、人海戦術によりエスクルサという大都市に潜むレーンを探し出して捕らえるだけの任務だと思っていたのだ。


「くたばれっ、無能!!!」

「チッ!大人しく惚けてれば良いものをっ!」


 レーンとシモンの間に割って入ったのは、独りの世界に入り込んでいたヴォルナー。


宮廷十二機士イクァザムが二対一とかズルくねぇか!?」

「うるせぇ!勝てば良いんだっ、勝てば!」

「本気の殿下なら、このくらい最も簡単に跳ね除けられるのではありませんか?」


 振られる大剣をランスで弾き、反転したランスの逆側で迫る緑槍を薙ぎ払う。一息つく間もないままにやって来る大剣。今度はランスが間に合わずバックラーで受け流す、と同時に転がり避ければ、緑槍が頭を掠めて行く。


 シモンの言うように本気を出せば二機纏めて片付けられる可能性はあるが、二人ともが余力を残す現状でヤルのは得策とは言えない。しかし、いくら片方が情緒不安定なヴォルナーだとはいえ、宮廷十二機士イクァザム二人を相手にするのは思いの外しんどかった。


(アッチはヤベェ……)


 威力の高い緑槍をランスで逸らし、大剣は虹幕に頼ることもしばしば。徐々に息の合ってきた二人にレーンの焦燥感は高まっていく。


 切迫した攻防の折、第六感が刺激される。



降下する槍(ハスタムメウィデキ)



 交差する大剣とランスの一ミリにも満たない接点、それを的確に突くのは並外れた技量ではない。

 目標とする交点の場所とタイミング、それに合わせるための自身の移動。全てを完璧に備えた赤黒い流星は二つの武器を押し退け、その間へと豪快に降り立った。


「グンデル!」

「あらぁ〜ん、楽しそうなことしてるじゃなぁ〜い? アタシも、まっ・ぜっ・て♪」


 何より目を惹くのは顔全体を黒く塗りたくられた化粧に映える広範囲に及ぶパンダのような白いアイメイク。目元には煌めく三つのラインストーンがあしらわれ、瞬きの度に水色の瞼が見え隠れする。

 鼻に付けられたピアスに白い唇。はだけたブラウスの胸元にはプラスチック製のネックレスがうるさいほどにかけられ、そのどれもこれもが主張の激しい原色の色合い。

 膝上十五センチのプリーツスカートがその姿に合う合わないは常人には理解不能ではあるが、長さの揃わない金の髪は赤、紫、黄色の差し色が施され、一度見たら忘れようとしても忘れられない強すぎる個性。


 自称『シオンと双頭を成す美のカリスマ』は、魔攻機装ミカニマギア【シンタラ】を駆る宮廷十二機士イクァザムが第十位の『男』である。




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