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魔攻機装  作者: 野良ねこ
第四章
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4-21.終わりなき闘い

「行ったか?」

「そのようだ」

「では仕事を始めるとしようか」

「おうさ」

「どんなデータが出るか楽しみじゃの」

「時間は有限だ、メンテが先だぞ?」

「そんなことは言われんでも分かっとる」


 アンゼルヴ家で停車したミネルバの車内、窓からレーン達一行が降りたのを確認した爺ちゃんズは五日間という時間を貰い受けて久々のメンテナンスに取り掛かる。


抵抗大気緩和機構(アンチソリエボン)は良い具合じゃの」

「ああ、空力を魔力でどうにかしてしまえるのは反則だぞ」

「翼のない機体が航空機と同じスピードで空を飛ぶ。我が子ながら末恐ろしいわ」

加圧粒子噴出装置パルティカル・プラティスマ重力制御機構(グラビティゼダー)があって初めて成せる術だがな」

「それを開発したのは我らだ」

「うむ、その通り」

「我々の頭脳は世界の宝である」



「「「ガハハハハハハハハッ」」」



「それにしても素晴らしきはエルフの頭脳」

「基礎理論は残したとはいえ重力を操る水色魔石(グランドル)を創り出そうとは……」

「流石は我らの遺伝子を組み込んだ種族」

「頭脳も我ら並みに成長できたようだ」

「だがいかんせん、知識に圧倒的な差がある。まだまだ我らの独断場は続くのぅ」

「そこは素直に我が子らの成長をほめるべきところであろう」

「間違いない」


 彼らが作業するのは客席部(キャビン)。三列あったシートはあっという間に外され、踏み心地の良い絨毯も捲られる。普段は床面となっている鋼板を退ければ、チカチカに磨き上げられた新品そのものに見えるミネルバの心臓部が露わとなった。


「相も変わらず美しき姿」

「惚れ惚れするのぅ」

「見惚れとらんでいい、早よぉ行け」

 

 主動魔導炉(メインエンジン)が納められているのは僅か五十センチの四角い箱。それに向かい手を伸ばした爺ちゃんズの一人が突然姿を消した。

 さも当然とばかりに次々と姿を消して行く小柄な老人達。よくよく見ればいつの間に現れたのか、白銀の塊の回りを歩く小人が七人。それこそが今しがた消えた爺ちゃんズそのものであった。


 魔攻機装(ミカニマギア)製造に欠かせない空間圧縮技術だが、世間一般では未だ完成されてはいない。無機物を収納するという点に関しては確立されている技術も、ソレを使った荷台に人が入った場合には少ない時間で体調が悪くなってしまうのが良い証拠である。


 しかし爺ちゃんズが造り出したミネルバは現代の技術力の数世代は先を行く代物。魔石の力を借りるとはいえ鉄の塊が空に浮き、空気力学を無視した形状にも関わらず音速に近いスピードで飛行するなどあり得ないのだ。

 そんなミネルバに施されている空間圧縮は、造り手である爺ちゃんズを始めとするレーン達の生活の場であることからも分かるように、完成された技術として日々活躍している。


「魔力振動値、クリアー」

「サブの方も問題無さそうだの」

「魔力漏れもない」

「亀裂等の損傷も見受けられない」

オマケ(偽装エンジン)も元気じゃ」

「なんならそいつもパワーアップさせるか?」

「腹に響く重低音を振り撒くのなら賛成だ」


 細かく、複雑な紋様を壁床天井全面に施されたエンジンルーム。その内で見る主動魔導炉(メインエンジン)は高さが二メートル、横幅七メートルとかなり巨大だ。

 それに見合う高出力を弾き出す動力源は人の体内に生み出される魔力。天井から伸びる太いケーブルは運転席と繋がっており、流し込まれたエネルギーを届ける役目を負っている。


「次に向かうのはキファライオだと聞いた」

「メラノウン帝国と戦争になるだろう国へ?」

「恐らく肩入れをするつもりなのだろう」

「素晴らしき友情だな」

「しかしそれだけではあるまい?」

「世の均衡のことか?」

「このままメラノウンが台頭すれば混沌は加速するじゃろうな」


 今回彼らが内部に潜ったのには理由がある。


 一つはメンテナンス。自分達が造り出したミネルバが設計通り機能しているのかの確認が名目である。


 そして本命の二つ目はミネルバの更なるパワーアップ。

 目先のキファライオだけでなく戦火に身を晒す可能性が濃厚になった今、移動式居住として造られたミネルバでは役に立たないと結論付けられたのだ。


 搭載された魔導エンジンの出力上、魔力障壁(パリエス)より強度の高い常時魔力障壁(フリーズィエス)に加え、魔導砲という圧倒的な攻撃力を誇りはするものの小回りが効かない分、魔攻機装(ミカニマギア)との戦闘は難しい。もちろん使い方次第では大きな戦力となり得るのだが、完璧を求める爺ちゃんズからしたらそれは戦力外なのである。


「重力を制御する水色魔石(グランドル)は実用化した」

「次はいよいよ桃色魔石(インペリウム)だな」

「他の魔力に干渉するとは恐るべき能力」

「それが我らの手にかかれば……クククッ」


 もっと強力な攻撃力を、更なる防御力を。特異な技術力を持ち得る爺ちゃんズが目指す先は常人には理解できぬが、ミネルバが移動要塞化する日はそう遠くないのかも知れない。


「では本命(メインディッシュ)に取り掛かろうか」

「まだ取り付けもしとらんというのに」

「今から使う時が待ち遠しいの」


 七人が愛おしそうに見つめるのは一メートル四方の黒い立方体。複雑な模様を描いた青い線の走る箱は、爺ちゃんズ渾身の最新作にしてミネルバの攻撃力と防御力を同時にあげてしまうという超ハイテク技術の結晶である。


 こうしてディアナ(持ち主)の知らぬ間にまたしても人知の及ばぬ車へと魔改造されて行くミネルバ。

 彼女が欲したのは移動の出来る住居。されど、いくら身内だとはいえそれを造れと頼んだ相手が悪かったようだ。





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