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魔攻機装  作者: 野良ねこ
第四章
102/119

4-13.貴方の望んだ未来はコレですか?

「グルカぁぁっ!!」

「シーリル!」


 キラキラと輝くエフェクトを背景に、二メートルの大男に駆け寄る身長が百四十センチしかない小柄な少女。人目を憚らず全力で飛び付く姿は、どこからどうみても親子の感動すべき再会の場面。しかしその実、二人は夫婦であり、成人した子を持つ親でもある。


「無事でよかった!」

「ああ、シーリルも無事のようでなによりだ」


 熱い抱擁からの濃厚な口付け。人目を憚らずされた絆の確認ではあったが、居合わせるレーン達は知っている。二人の確認し合った無事の意味に相違がある事に。


「ねぇ、エロ親父はさぁ……」

「ばかノルンっ!!」


 片や、生命が無事であったことを喜ぶ純粋な感情。だがもう一方は貞操が無事そうだという自分本位の邪な見分。

 知らぬが仏とはよく言ったもので、勘違いが正されなければハッピーエンドで終わるのだ。事実を知ったシーリルに制裁を加えられることなど知ったことではないが、せっかくの再会を汚すまいと余計な事を口走ろうとするノルンの口をカーヤが塞ぐ……ナイスセーブである。


「レイフィール皇子殿下、ご無事で何よ……」


 観劇を楽しんでいたレーンの前に膝を突いたのは、父親譲りの茶髪に茶眼でありながら顔立ちは母親似の優男。非公式ながらもリヒテンベルグ王宮に勤める侍女たちによって年毎に行われる『宮中男子総選挙』にて、七年連続上位入賞を果たす帝国きっての美男子だ。


「爺様の前だからってカッコ付けてんじゃねぇよ、ばーか。だいたい、政府高官様がなんでこんな所でバカンスしてやがんだ?国民の税金、無駄に使うな、あほっ」


 近衛隊長である父親の威光など一切感じさせず、自らの実力のみで掴んだ勤務先は内務省の中でも各府省庁との連絡調整を担いながら監理監視をする組織。言わば帝国内政の背骨であり、数多く存在する官房長達を束ねる統括官房庁。

 何の後ろ盾もなく僅か七年でその組織のNo.3まで駆けあがった美男子──シャレンスの頭を、あろうことかピコピコハンマーで殴れる者などそう多くはない。幼い頃から実の兄弟のように育ってきた二人だからこそのコミニュケーションである。


「滅多にお会い出来ないんだ、孫の勇姿をお見せするのも僕の責務だと思うけどね?」


 モアザンピークという他国に居ながらわざわざ帝国の軍服を着て出迎えたのには当然意味がある。いくら『要らない』と本人が言おうとも正式な手続きを経ない限りレーンの肩書きは【リヒテンベルグ帝国第一皇子】のままなのだ。まだ戻るべき場所で待つ者がいるのだと知らしめるため、また、戻ってきてくれとの意思表示のために分かりやすい格好をしているのだ。


「それに、ここに居るのは私情だけの理由じゃないよ」

「あぁ?んだこれ?」


 立ち上がったシャレンスが懐から出した手紙に、眉間に皺を寄せるレーン。


「ウィルバー・クラフト様からです」


 こんな物を貰う覚えはない、そう言いたげな彼を予想出来ていたらしく、拒絶される前に手の中に滑り込ませた技術はやはりグルカの息子。

 だがしかし、当人も分かってはいたが、それは火に油を注ぐ行為であり、青筋を立てたレーンは中身を見る事なく手荒く丸めると窓の外へ放り投げてしまった。


「ちょっ、レーン?流石にそれは……」


 読む読まないは別にしろ、第一皇子に宛てた帝国守護筆頭からの手紙なのだ。捨てるにしても内容が人目に付かぬよう丁重に処分すべきものを窓からポイ捨てするなど言語道断。

 回収に行かねばとシャレンスが動き始めた矢先、耳に入ってきた声に驚きハタと足を止めた。


「えぇ〜っとぉ、なになに?自由を謳歌しているだろう愚者レイフィール様。ご所望された外の世界はさぞ楽しい事でしょう……」


「おぉぃっ!ノルン!てめぇ人の手紙を勝手に読むんじゃねぇ!!」

「えー?だってレーちゃん、コレ、ポイしたよね?」

「だからっておめぇ……」

「窓からポイしたんだから誰かが拾って読んだって構わないってことじゃん?それが私でもレーちゃんには関係ないよねぇ?」


 感情にまかせた行動を取ったことに後悔はするが今更撤回するのも気に入らない。腕を組んで不機嫌を表すレーンは「好きにしろ」と吐き捨て空いているソファーへ乱暴に腰掛けた。

 そこに『出番!』とばかりにすかさず押しかけたのはディアナだ。隣に腰を下ろした彼女は当然の如くしなだれ掛かる。

 しかし本日も行動を共にするキアラがレーンを挟んだ反対側に陣取り同じように甘えるものだから、縄張り争いを始めた二人が互いを牽制し合い猫のようにシャーシャー言っている。


 この部屋にはモアザンピークの国主たるバッカールも同席しているのだが、娘夫婦の再会に続く孫の起こした騒動により未だ一言も喋れないという影の薄い存在となりつつある……一国を束ねる男だというのに哀れなり。


「それで?続きは何と書いてあるのだ?」

「お嬢様、人様の手紙を暴くのは……」

「所有者が権利を捨てたのはお前も見ていただろ?カーヤ。その問題は解決された。それより内容が気になる、ノルン」


 促されたノルンが声にしたのは、おおよそ臣下が敬愛する未来の主君に宛てた内容ではなかった。嫌味を中心とする前書きに始まり、父皇に関する愚痴とグルカまで逃走したことことによる弊害への不平。直接の文章はなかったが、それらは全てレーンの所為であると言いたいらしい。

 ここまでは苦笑いを浮かべて興味半分で聞いていた面々も、文面までもがガラリと変わった後半部分には目の色を変えて聞き耳を立てる。


 正式に継承権を放棄しなかったレーンを警戒し、政に関わらなくなった皇帝から次々と裁量権を手に入れると、膨れ上がった権力を余すことなく使い自分好みの組織に作り替えて行った第二皇子アシュカル。それが他国にも誇れる政治であれば喜んで従ったかもしれないが、至宝たる民を蔑ろにし、自分を中心とする高官のみが甘い汁を吸えるような独裁国家へと変化しつつある。

 法は自分達の都合に合わせて簡単に書き換えられ、金が足りぬと週ごとに税金がかさ増しされる。払えぬ民は家財を徴収され、それでも足りぬと奴隷に落とされた。


 目に余る横暴に耐えられず意見でもしようものなら、例え要職にあろうとも処罰し飛ばされるのが常。しかもそれが左遷どころではなく、消息が不明となる者も多数見受けられるとのこと。

 事態はそれだけではなく、昨日まで猛反対していた者が次の日には笑顔で手のひらを返すという謎の現象が何度も見受けられるのだという。


 混沌とする宮廷内はたった数ヶ月で魔界と化したようだ。そう締め括られた最後には帝国を想うウィルバーからの悲痛な叫びが記されている。



『貴方の望んだ未来はコレですか?』



 沈黙が支配する場に手紙を封筒の中に仕舞おうとする音だけが響いていた。

 やがてそれも消え、誰も何も言わない時間がしばし流れる。


「お客様をお迎えしたのにずっと立ち話というのは失礼だわ。身内が混じっていたからとて、気が利かなくて申し訳ございません」


 客を迎えるに当たり非礼があっては恥。たとえプライベートであってもこの国の頂点たるモアール家にとっては大きな失態なのである。

 夫との再会に浮かれてしまったシーリル、思わぬ重き内容に結果として手紙を渡すタイミングを間違えたシャレンス。茶室へと促せなかった国主バッカールを含めて一族の不手際。そう悟った長女ヤユが謝罪を口にし深々と頭を下げた。




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