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魔攻機装  作者: 野良ねこ
第四章
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4-11.伝説となる出来事

 意見をぶつけ合う二人を眺めていた黒髪の美女が「貴方、もしかして……」と口を挟む。


 手入れどころか、洗っているのかすら怪しい浮浪者のようなボサボサの髪。腰まで届きそうなほどに伸び放題の髪は、この世界では珍しいとされるキアラと同じ黒。その特徴的なヘアースタイルに加えて医者、百九十センチを超える身長に痩せすぎの体格。何より決定的なのは、役目を果たせないだろうというほどに小さな丸メガネと、左耳にぶら下がる逆十字のピアス。


「『マッドサイエンス』の異名で知られる孤高の医者ネヴィル・ダス・レイヤーね?」


 一度見たものは忘れないという類まれな記憶力と常人のし得ない独創的な発想。才気溢れる有望さ故に見習いのころから注目されていたのが医学会の異端児となるネヴィルだ。天才的な頭脳は思うがままに真価を発揮し、通常三十才を超えないと医者にはなれないという常識をあっさりとぶち壊した。


 医者として、二十五歳までの五年間で救った命は数知れず。怪我の処置も人並みにこなしたが、彼が得意としたのは風邪や病気の治療。当時大流行した流行り病の原因を特定し、鎮静化させるのに多大なる貢献をしたのは業界で知らぬ者がいないほど。


「ほぅ、僕を知っているとなるとキミはソッチ系なのかな?」


 未知を解明するための研究こそが真髄であると断言したネヴィルの医学、膨らみ続ける探究心は止まることを知らなかった。組み上げた仮説は多くの実験を経て理論と成る。

 実験対象が動物だけに止まらず、犯罪者や奴隷に及ぶのは然程珍しいとは言い難い。とはいえ、同時に幾つもの実験を並行して進めれば被験者数が尋常ではなくなる。玩具にされる彼らからは畏怖の念を込めて『マッドサイエンス』の呼び名が付くのも無理のないことだった。


 ネヴィルの言った “ソッチ系” とは被験者となり得る犯罪の側。彼の名を知るのは医学会に関わる人間という可能性もあったのだが、ディアナとのやりとりでささくれ立った心はキアラに犯罪者のレッテルを押し付ける。


「どこの誰でも良いけど、そんな怪しげな薬なんて飲まないわよ?」


 話しを元に戻すディアナが指すのはサイドテーブルへと戻された濃緑の物体。

 医者としての価値など知らないが、新薬の開発者としてよく耳にするネヴィルの名。それを分かった上であれど、健康のためとかいう胡散臭い流行でアレを手に取るなどあり得ない。


「人体に悪い影響がないのは僕が飲んで見せただろう?何を躊躇する……」


 腕は特上だが探究が過ぎた。行き過ぎた実験が露見し医学そのものの評価が落ちることを恐れた医学会はネヴィルに脱退を命じる。素直にそれを受け入れたまでは良いのだがそれで彼が止まるはずなどない。

 多くの薬を産んだ副産物として、それ以上の様々な薬を生み出したネヴィル。その中にはアシュカルが手にすることとなった催眠薬も含まれる。このことからも分かるように、物好きな金持ち達が彼の実験を後押しし、野に紛れて十年以上経った今でも『マッドサイエンス』の名は犯罪者界隈で絶望を示す。捕まれば単純な死より遥かに恐ろしき実験に使われることになるのだ、と。


 そのネヴィルが自らの身に招き入れたのだ。差し出された薬に害があるはずもない。


「ふぐっ……こ、こんな事が!こんな反応など今まで無かっ……かっ、身体が……燃えるように熱い!!」


 言葉途中で口を押さえたネヴィルは目を見開き、両腕で、白衣の上から自分自身を抱きしめる。


「おいおいおいおいっ」

「何ですの!?」

「自分で自分に毒盛ったの?ばっかじゃない?」


 爪が食い込み皮膚が裂けたのだろう。酷い苦痛を我慢するよう背中付近を掴む手の辺りは赤く染まっている。


「「「!!!」」」


 低い唸り声をあげながら蹲ったネヴィルに困惑を示す三人。しかしその直後に立昇る煙には即座に反応し、身を預けていたリクライニングチェアーを一斉に飛び越え、ソレを盾に様子を伺う。


「突然解放され……っ!!!いっ、一体何が起きている!?」


 蹲るネヴィルを包み込んだ大量の煙。水蒸気といった感じの白い靄が晴れたときには、自分の手を見つめて不思議そうな顔で立ち尽くす者が一人。


「は!?」

「嘘でしょ!?」


 だがしかし、今のいままでネヴィルが居たはずの場所には低身の少女が佇んでいた。

 確かにその場にいたはずの長身の男とは似ても似つかない。


 だが、彼と同じボサボサの黒髪を垂らし白衣に身を包んだ姿。それと少女の口にした言葉を掛け合わせれば信じられない現象へと思考が辿り着く。


「肉体を元通りにするならまだしも、改変して再構築し直すなんて再生魔法じゃ無理ね」


 日に焼けぬ白色は元より変わらなかったが、滑らかそうな肌の質感は明らかに違う。何よりその手前の胸部にある膨らみ。手のひら大の肉に押された白衣が片方の先端を曝け出している。男性のものとは違い発達したのは女性である証。


 薄桃色のソレを指で摘んでみれば脳髄を駆け上る電撃的な刺激に身体が震える。間違いなく自身の身体であることを身を持って確かめれば、目の前の現実を受け入れる他に道はない。

 意図として作ってなどいない、されど結果が全て。新たに生まれたあり得ない副産物を理解した途端、少女となったネヴィルの顔には笑顔の花が咲き乱れる。


「お、おい!……ってアイツ、大丈夫なのか?」


 奇声をあげながら走り去る少女ネヴィル。男性用の水着に白衣を纏った姿は痴女と呼ばれて詰所にしょっ引かれても文句は言えないだろう。しかしあの男 (女?) はそれどころではなく、一秒でも早く自身のアジトに戻ることしか頭になかった。

 それはもちろん、最高の研究材料を手に入れた高揚感故の暴走行為。


「居なくなって清々したけど……コレ、どうする?」


 苦笑いのディアナが指差すのは濃緑の物体。コップ二杯に並々と注がれたままの置き土産だ。


「せっかくだし、レーンも一杯いっとく?」

「女性になったレーンを可愛がるのも楽しそうだけど、元に戻れる保証がないならわたくしは反対ですわ」


 冗談もほどほどにしろと言いたげに白い目をディアナへと向けたレーンは、無言で手を広げて二人を離すと金色の光に包まれる。



消え失せろ!(エクサファーニシィ)



 直後放たれた紅蓮の炎が金色であるオゥフェンの装甲に艶やかに反射する。


 危険物が消滅したのを確認したレーンはさっさとオゥフェンを仕舞い、気分を入れ替える為に二人を連れてその場を後にする。



 しかし、忘れているのか気にしていないのか、私には分からない。


 元々注目されていた三人に加えて、突然呻き声をあげ出したネヴィルが居たのだ。更に輪をかけたのがオゥフェンという王者が纏うに相応しき黄金の魔攻機装(ミカニマギア)の登場。コレだけ目立つことをしておいて周囲にいた人々の目が集まらない方がおかしい。


 そしてこの出来事は今日一の話しのネタとしてばら撒かれることとなる。付けられた尾鰭は人々の間を渡り歩くことで巨大になり、娯楽を欲する者の手により良いように捻じ曲げられ、此処、シェーンプラージュの怪談として定着することとなる。


 それは、このビーチで緑色の飲み物を飲むと黄金の魔攻機装(ミカニマギア)が現れ、男を女に変えるというあり得ない魔法をかけられる恐怖のお話し……。




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