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銀河戦國史 (迷走の北辺暗黒天体群域)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
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エピローグ

≪違うっ! 俺は、人間だ! ≫

 培養奴隷の骸を、エリスはまだ見つめていた。聞こえた気がする声は気のせいではない、という気がしはじめる。


「自分の境遇に疑問を持つ機会のあった培養奴隷は、きっと一握りで、この遺体も生前には、そんな機会はなかったかもしれないな」


 そうなると、聞こえた気がする声は、目の前の骸が生前に発したものではない。

 御霊となった後の叫びかもしれない。

 目の前の骸とは違う、自分の置かれた境遇が理不尽であることに気付いた、別の培養奴隷のものかもしれない。


「でも、培養奴隷の誰かは、そんな叫びを発したはずだ。

 当たり前のようにこき使われる立場の理不尽に気づき、怒りを込めて」


 その声が現在の自分に聞こえるなんてことが、科学的にあり得るとは少年も思ってはいない。

 十歳の彼ではあっても。


 だが、叫んだ事実への確信を胸に培養奴隷の骸を見ていると、聞こえた気がする声を気のせいだけだと断じる気にはなれない。

 この骸も、もし生前に自分の境遇の理不尽に気づけば、きっと怒りの叫びを轟かせただろう。


「宇宙保安機構は培養奴隷を救済する活動も、チェルチェン近郊の会戦の少し前から、本格的に取り組んだのだよな。

 そんな記録も残されているって、父さんは言ってた。

 ガウベラ帝国との友好ムードの演出や宙賊を取り締まる活動と並んで、保安機構の主要な任務だったって。


 でも友好ムードの方は、すぐにダメになっちゃったんだよな。

 一時は帝国が、高圧的な態度を軟化させてくれたのに、地球系の中に帝国を挑発した人がいたものだから。


 挑発した人たちは、帝国をどうしても好きになれなかったのかな?

 いや、帝国の傭兵となっている航宙型の部族に対する不信が、帝国への挑発に繋がったらしいって、父さんは言ってたっけ。


 帝国に戦争を仕掛けさせれば、傭兵である航宙型部族を前面に押し出して攻めてくるから、それを一気に叩けるって。

 神出鬼没の航宙型を叩くに、はそれが一番確実だと、地球系の中でも航宙型部族に強い反感を持っている人たちが、地球連合から離反して独立国を作ってまでして、帝国への挑発に及んだって。


 一部の航宙型部族のやった略奪が生んだ恨みが、強い反感の原因だとも、父さんは言ってたな。

 戦争になってしまえば、略奪には何の関係もない多くの航宙型や定住型の部族にも、被害が出ちゃうのに」


 帝国領内の諸部族を扇動して反乱を起こさせる、という挑発は成功した。

 努力の末に生み出された友好ムードは消し飛び、帝国の侵攻と敗退という結果に至る。

 チェルチェン近郊の会戦の経緯と経過を、少年はこんな風に認識していた。


「これから約2百年後にガウベラ帝国は滅亡して、とりあえずの脅威は去るけど、この戦争で生み出され銀河系にばら撒かれた、地球連合への不信や敵意が、後の世に登場する銀河帝国と呼ばれるいくつもの集団に、受け継がれたのじゃないかと思っちゃうよな」


 それら銀河帝国が、第1次から5次までの銀河大戦や、全銀河が独裁的恐怖政治に沈む銀河暗黒時代を現出させたことも、少年の時代には誰もが知る史実だ。


「後の銀河帝国とガウベラ帝国に、直接の繋がりなんて無いのは知ってるけど、銀河に不信や敵意がばら撒かれちゃったのは確かだと思うんだよな。

 地球系どうしでも、お互いが少し信じられなくなっちゃったかも知れない。

 それらが、銀河帝国を生みだすもとになっちゃったんじゃないかな。


 こんなことになるのだったら、ガウベラ帝国との友好ムードを生みだした人たちの活動は、全く無駄になっちゃったのかな? 」

 自らの問いに、少年は素早く否と答える。「そうだよ。今こうして僕たちが平和に暮らせるのも、あんな努力が長い時間を経て実を結んだからなんだ、きっと。


 この時代には遠くの帝国と呼ばれていたあの集団とだって、この少し後くらいから往来が始まったのも知られているのだから。新たな繋がりが、これを機にできたんだ。

 その繋がりも、色んな火種や銀河帝国の1つを生み出すきっかけになったけど、銀河全体が1つになるきっかけにもなった。


 人と人が繋がれば諍いも起きちゃうけど、それを乗り越えなくちゃ、みんなで仲良く暮らす世の中にはならないからね。

 ガウベラ帝国とのいっときの友好ムードも、遠くの帝国と言われたあの集団と繋がりができたことも、きっと無駄じゃないよな」


 うんうんとうなずきながら、少年が自分なりの歴史認識に耽溺していた時、着信音が耳に響いた。

 鼓膜を直接振動することで、少年だけが聞くことのできる音だ。


 少年は右手を、内から外へとフリップさせた。

 このアクションがコマンドとして認識され、眼前にバーチャルキーボードが呼び出される。

 いや、少年のコンタクトスクリーンに、そんな風に見える映像が投影された、と言った方が正確だ。


 バーチャルキーボードを指で叩けば、そのアクションもコマンドとして認識される。

 届いたメッセージをコンタクトスクリーン上に出すというコマンドが認識され、実行された。

 思考から直接入力する方式もあるが、少年はこっちのやり方が好みだった。


「母さんからだ。そろそろ晩御飯だから、戻って来いだって。

 そんなに時間が経っていたのかって・・・・・・うわ、培養奴隷の遺体の前に、3時間もいたのか」


 膨らみ過ぎた想像に自分でも呆れつつ、そのインスピレーションをくれた骸に、感謝の気持ちも沸き起こる。

 当人にその気はなくても、彼は大切なものを少年に届けてくれた。


「そろそろ行くよ」

 今見ると、骸の顔に怒りは感じられない。「やっぱり、驚いているんだ、今という時代に。

 戦争なんて無くなっちゃって、培養奴隷なんて不幸な人もいなくなって、皆が豊かに平和に暮らせているこの時代に、びっくりしているんだね」


 少年は踵を返した。びっくりしている骸を、もっとびっくりさせるために、平和な時代の旅先での食事を、存分に楽しんでやろうと思った。


 家族でここに旅をして、彼以外は地元のグルメフェスなんぞに出かけている。

 彼だけがこの戦跡資料館で、古い時代に思いを馳ていた。

 歴史学者の父でさえ、ここよりフェスを選んだ。


「普段は歴史のことばっかり考えているから、休みの日くらいは忘れさせてくれ」

 こんなことを言うものだから、十歳の少年が家族旅行の最中に単独行動をして、1人で古代の骸と対話するなんてことになった。


「晩御飯って、なんだろ・・・・・・なになに」

 歩きながら、コンタクトスクリーン上の文に目を走らせる。「ボルシチ・・・・・・だって、この辺りの名物料理なのかな? 」


 展示室のドアを過ぎる直前に、少年は振り返ってもう一度見た。

 骸の顔は、羨まし気な表情に変わっていた。


「ボルシチっての、食べて来るよ、いいでしょ。

 知ってる、ボルシチ? 」

 

 少年は、部屋を出た。

 骸の眼は、大きく見開かれたままだった。




 ボルシチなら、愛妻によく作ってもらったさ。

 そんな声が、銀河系のどこかに響いているかもしれない。


 同じ境遇を知る男の眼に映った景色だから、彼にも少年が見えていたのか。

 チェルチェンの会戦で死んだ男とは、時代も場所も少しずれた場所を漂っていても。


 愛妻の得意料理が3千年を経て、この宙域での名物料理になっていることへの感慨も、その骸の顔が変わりに表してくれている。


 愛妻と2人で銀河系を広く旅した生前にも、多くの驚きに触れた。

 後に残した友人たちの、情熱的な平和建設への努力を知らされた際にも驚かされた。

 更には、御霊となってからも、チェルチェンの会戦や銀河大戦などの勃発に驚いた。


 だが、今のボルシチの件が、一番のびっくりだ。


 その感動を同じ境遇の男の骸に託しつつ、ボルシチの爽やかな酸味とまろやかな甘みの絶妙なハーモニーを回顧しつつ、彼の思念は、再び銀河系へと拡散していった。

 今回の投稿は、ここまでです。 そしてこの物語も、ここで完結となります。


 最後までお読み頂いた方、もし居て下さるのでしたら、心より感謝申し上げます。そして、お疲れさまでした。


 今回の作品は、ストーリー性重視という基本方針で、縦軸を際立たせる、解決しそうになるたびに裏切られて二転三転する、新しい要素が次々に出て来る、といったかたちで物語を繰り広げるように腐心したつもりでした。


 銀河戦國史シリーズの他作品では、世界観重視とか迫力重視とか人間性重視とか、色々な事を試みていて、全然上手くいかなかったなあという感想が多かったのですが、今回は比較的マシだったかなあという感想です。

 ストーリー性の部分に限ってはそう思っていますが、やはり、人物を描くという部分の欠点が目立っているなと自分では思っています。


 キャラクターに個性を持たせるとか、命を吹き込んで活き活きと描くとかいうことが、本当に出来ないんだなと自信喪失状態です。

 人間性重視の作品ですら全然ダメだったのだから、ストーリー性を重視してしまったら惨憺たる有様だったかもしれません。


 何とか改善することを目指して、自分なりに色々と取り組んでみてはいるつもりなので、読者様に置かれましてはここでお見捨てにならずに、寛大な心で次回作品以降にも、目を通してやって欲しいと思います。


 とはいっても、次回作は書いた順番からいうと、今回の作品より前になりますので、今取り組んでいることの成果が反映されていることはあり得ないのですが。

 人間性重視という意識すらもなく、衝撃性や意外性みたいなところを意識して描いたかもしれません。


 いずれは人物をもっとしっかり描けた作品を投稿したいと思いつつ、とりあえず次は、手持ちがこれしかないのでこれを出しておこう、という感じです。

 こんな長い物語を読了いただいた読者様にこんなお願いは厚かましすぎるかもしれませんが、作者としては願わずにいられないので、敢えて言わせて頂きます。


 読了、本当に有難う御座いました。そして次回作も、何卒よろしくお願い申し上げます。

 来週、2024/4/27より、連載開始いたします。これまで通り、毎週土曜日の17時に投稿します。

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