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銀河戦國史 (迷走の北辺暗黒天体群域)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
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第7話 Story about ロザリオ 1-3

 巨大ガス惑星を周回する岩石衛星にある、エタノールの海の底に、ロザリオとセシリアの通った公設スクールは造られていた。


 閉鎖的な都市を少しでも快適に演出しようと、先人たちが施した工夫の一つだ。

 若者たちの学び舎だということで特に意趣を凝らし、アカデミーという語のルーツを辿ってデザインしたという。


 廊下の先は二手に分かれており、都市の居住区に向かう通路と、スペースポートへの通路、つまり岩石衛星から飛び立つ宇宙船に乗るためのそれがあった。


 ロザリオもセシリアも、普段は居住区とスクールを往復する毎日で、スペースポートへの通路は横目に見て通り過ぎた。

 いつかこの通路から、宇宙へ向けて羽ばたくのだと心を躍らせながら。


 スペースポートに向かう場合、円柱の並ぶ瀟洒な廊下から、殺風景なコンクリートむき出しの丸い筒状通路へと入り込むこととなるのだが、苦しみを越えた先に待つ栄光の未来を暗示しているようで、若者たちの胸を熱くするものがあった。


 スクールを卒業した後には、そこを通って宇宙に飛び出し、スペースコームジャンプをくり返して4か月を費やし、1万光年近くを走破して、保安機構職員の養成所のあるここ、ミナブ星系第3惑星の大地の上にやって来た。


 ヘラクレス回廊群において、人類が最初に歩を記した星系にある惑星だ。

 一番乗りは宇宙系人類だったが、住み着きはしなかった。彼らに情報をもらった地球系が、発見者に先んじてここに植民した。


 当時にはミナブ星系が、6つも折り重なるスペースコームの群れの1つに含まれているなんて、誰も知らなかった。


 ワープによる超光速移動が可能なスペースコームは、人々の行き交う回廊となる。

 それが6つも折り重なれば、そこは銀河系における交通の要衝となり、人は集うし交流も増える。


 ミナブ星系の第3惑星は、天然に1Gで1気圧に近い大気を持ち、人の居住しやすい環境だった。


 呼吸できる大気組成ではないから密閉空間を作る必要はあったが、気圧差がないから強度はそれほど求められないし、有毒成分も無かったから完全な密閉も求められない。

 少しぐらい外気が侵入しても構わない。

 初期の人々は、比較的簡単に入植できた。


 交通の要衝であると明らかになると、人口は膨らんだ。技術も進み、利便性や快適さを追求し出す。

 3百年も経つと、透明素材でドーム型の建造物の中に、更に長方形の建物を建て並べるようになり、いつしかドームの直径は50㎞を超え、高さも千mに達した。


 こんな巨大ドーム都市が、何十と点在するに至るまで発展したのが、ロザリオの時代のミナブ星系第3惑星だった。

 テラフォーミングこそ、数百年先の課題とされていたが。


 ドームの中から宇宙に連なる青空を仰ぎ見られる、庭付きで木造の大講堂なんてものも、建てられるに至った。

 ロザリオは今そこで、訓示スピーチを聞かされているわけだ。


 衛星の海底から、惑星上ドーム都市までの旅路を反芻しているうちに、スピーチはかなり先へ進んでいた。


「外だけでなく、内にも難敵はある。

 諸君も知っての通り、過激思想に染まり宇宙保安機構の活動方針に納得せず、地球連合より離脱して独立を表明する集団が、後を絶たない。


 彼らに最も多い意見は、宙賊と化した航宙型宇宙系人類への弱腰というものだ。

 地球系の市民に大きな被害は出ていないが、地球連合に含まれる定住型の宇宙系諸部族には、襲撃や略奪の損害が相次いでいるからだ」


 高い天井で共鳴して落ちて来るスピーチが、異様な荷重をロザリオに加える。


(確か2か月くらい前にも、パータリプトラとか名乗る連中が、惑星国家としての独立を宣言したよな。

 いくつ目だ? 2ケタは軽く超えるよな)


「この現状にかんがみれば、早急に宙賊ども蹴散らすべしとの主張も、分からなくはない。

 しかし、部族の総数だけでも百を上回ると思われ、正確な数すらも分からないのが、航宙型宇宙系人類だ。


 どの部族が宙賊となって、略奪などを頻繁に行っているのかも分かっていない。

 各部族の人口も、大きいものでは数千にも及ぶと考えられているが、詳細は不明だ。


 居場所も行動範囲も、ほとんどの部族において分かっておらず、それらを闇雲に蹴散らしたとて、後から後から新手が沸いて来るだけで何も解決はしない」


 対話を呼びかけ支援を表明することで、航宙民族を懐柔して略奪などの悪習を止めさせるというのが、宇宙保安機構の方針だ。


 それが気に食わない強硬派や好戦派が、相次いで独立しているわけだ。

 地球連合や宇宙保安機構に縛られず、独自に強硬な対応を繰り出すことを目的として。


 そんなことでは、怒りや恨みの連鎖がとめどもなくエスカレートするばかりじゃないか、とロザリオは思う。

 地球時代に学んできたことのはずだ。地上人口の7割を失う全面核戦争という悲劇を経たことで、地球系人類は安全保障への意識をより一層高めたはずだ。


 憎悪の連鎖を生まないことへの慎重さや忍耐力も、身に付けたはずだ。襲撃されたことに憤って、暴力に暴力で対応してはダメだと、皆が分かっているはずだ。


 実際に、この時期の強硬派の活動が後の世に残す禍根の深刻さは、ロザリオの想像をはるかに凌駕するものとなる。

 しかしそれは、ロザリオを含めたこの時代の人々には、知る機会もないことだった。


 知る機会は無いが、想像ですら過少にしかできてはいなかったが、それでも、航宙民族などへの強硬路線への憂慮は、この時代の多くの地球系人類が共有していた。

 さりとて、この時期の保安機構が弱腰に過ぎるというのも、否めない。


 ロザリオのいるミナブ星系第3惑星も、何度も宙賊の襲撃を受けている。怒りや恨みは募っている。

 特に初めて受けた襲撃は、全く予期しておらず何の備えも無い状況下だったので、甚大な被害を出した。


 ミナブ星系に進出してきたばかりの地球系人対は、航宙型宇宙系人類の発明であるタキオントンネル航法を知らなかった。

 未知の超光速移動手段で襲って来た相手だから、全く無抵抗なままに一方的な破壊と殺戮を受けた。


 しかしこの襲撃を機に、地球系人類もこの超光速航法を習得して活動可能領域を飛躍的に拡張できたのだから、皮肉なものだ。

 そしてもう1つ、宙賊の初襲撃を1つの契機として、地球系人類が手に入れたものがある。

 それが、宇宙保安機構だ。


 保安機構設立後の襲撃に関しては、ほぼ確実に撃退できている。

 しかし何度も繰り返されれば、犠牲者がゼロとはいかない。


 宙賊に家族や友人を奪われた人々の抱く恨みや怒りは、生半可なものではない。

 弱腰の対応に不満が募るのも、無理もない。


(でも、感情に任せた対応では、ダメだよな。恨みを晴らすのではなく、襲撃を無くす方法を考えないと。

 倒す為ではなく、守る為にあるのが保安機構なのだから。

 保安機構の方針が示すとおりに、航宙民族に平和的な暮らし方を学ばせるべきだ)


 意識がまたしても逸れようとした矢先に、スピーチは締めくくりの段階へと入った。


「宇宙保安機構が今後どうあるべきか。ガウベラ帝国や遠くの帝国、更には航宙民族どもや離脱組にどう対応して行くべきか。

 これらの課題も、保安機構の未来を担う諸君に引き継がれるであろう。


 背負った責任の重さを自覚しつつ、しかし、それらに立ち向かう力が自分たちに有ることを信じて、地球連合の為に奮起して欲しい。

 以上だ! 」


 直後に周囲から聞こえたため息は、責任を負う自覚よりもスピーチから解放された安堵の方が、新入りたちの感じるところであることを示していた。

 今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2022/10/1  です。


 前々回の後書きで、惑星以外の植民先を多く登場させると宣言しておきながら、今ロザリオがいるのは植民惑星の上です。


 地球系人類は惑星上を好む傾向があるというのが、「銀河戦國史」全体を通じての基本設定であることを、ご理解頂きたいところです。


 地球系人類は、地球上での暮らしを強く記憶に留めている人たちですから、地球とできるだけ近い環境を求めるわけです。

 一方で宇宙系人類は、ほとんどが少なくとも千年間くらいを、地球から脱出する時に乗った宇宙船の中だけで暮らしてきたので、地球上での暮らしの記憶はほとんど、もしくは全くありません。


 惑星の重力に捕らえられ、地上に貼り付けになってしまうことに、恐怖さえ感じるのが宇宙系人類です。

 無重力に慣れてしまったことに加え、天体間での物資輸送などを頻繁に行う必要性から、一つの天体の重力に捕らえられ地上に貼り付けられることは、非効率的で不便なことになってしまうのです。


 地球系人類にしても、天体間交易の比重が高くなっていくにつれ、重力の底での暮らしを忌避する傾向は強まります。

 ヘラクレス回廊群で最初の植民先はミナブ星系内の惑星で、それよりだいぶ遅れて植民されたロザリオたちの故郷は、トラペスント星系内の衛星だというのも、そんな事情が反映されているのです。


 ですがそれも、重力の底から飛び出す為の技術が発達すれば、変わっていきます。

 プロローグにあったエリス少年の時代では、再び惑星の上が生活の場として好まれるようになっています。


 重力制御技術が発明され、たった十五分ほどで簡単に地上から静止衛星軌道上まで行けてしまう時代となれば、やはり人間は生まれ故郷の地球上に近い環境を求めるはず、という考えからそうしています。


 このように、この物語の設定は、アイディアよりもシミュレーションの結果として構築されております。

 こんな物語の作り方を好んでくれる人が、決して多数派ではないとは承知しておりますが、作者はこれを貫くつもりです。


 少しでも多くの人が、こうした物語を楽しんでくれたらと、願うばかりです。

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