表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀河戦國史 (迷走の北辺暗黒天体群域)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
87/91

第85話 Story about スパルタクス 20

 セシリアとロザリオが、楽し気に言葉を交わし合いながらホールの入り口を通過して来るのを、スパルタクスは見つめていた。


(このまま、セシーは二度と戻って来ないのでは・・・・・・)

 誰にどう説得されても、払拭できない思いだった。

 彼女が実は戻りたがっているという、心底に染みついたイメージ。

 

「セシーが実は戻りたがってるなんて、私には思えないな」

 ヴィーシニャにもそう言われたことがあった。


 ロザリオとの初対面を果たした旅の後、元部下だった6人の同志の中の女性3人に、彼はセシリアの本心について相談していた。

 同じ女性ということで、ヴィーシニャとペルシクとヤーブラカは、セシリアとかなり打ち解けていて、女子トークと呼び得る会話で盛り上がるシーンも、スパルタクスは何度も見ていたからだ。


「タックの方が、セシーと過ごす時間を重く感じてしまっていることが、そんなイメージの原因なのじゃない? 」

 ペルシクの指摘は、心底にぐさりと来るものだった。


「確かに、あのことを聞いて以来、セシーと過ごす時間が辛くなっているかもしれない」

「出会う前とはいえ、そういうのはショックよね」

 ヤーブラカは、納得顔で頷いてくれた。


 孤児との関係を聞かされたことも、彼女たちには素直に打ち明けていた。

 そんな発言をしたことについてのセシリアの本心も、彼女たちは探りを入れてくれた。


「その発言は、タックにずっと向き合っていくことへの、決意の証だったのじゃないかな? 」

 ペルシクの見解は、スパルタクスには直ちに理解しかねるものだった。


「孤児と関係を持ったと告げるのが、決意表明? 」

「まあ、そうとう言葉足らずではあるけどね」


「そうね」

とヴィーシニャの感想を受け継ぎ、ヤーブラカが説明を加えた。「その孤児っていうのが、自傷行為が激しくて、セシーは相当手を焼いていたそうなの。


 心理学の専門家などに相談して回った結果、抑圧された欲求が、それの原因かもしれないってことになった。

 培養奴隷としての洗脳に、人として当然の欲求を抑えつけられて生きてきて、自分が何を欲しているのかも分からないまま、胸の中に耐えがたいモヤモヤを抱えている可能性があるって」


「それは、俺たちには理解しやすいな」

 スパルタクスは肯首した。「培養奴隷には共通した、欲求の錯乱というやつだ。

 それが自傷行為に繋がるというのも、経験は無いが分かる気はする」


「欲求の中身を、はっきりさせる必要があるってアドバイスも、セシーはもらっていたみたい。

 自分が何を求めているのか分からないままの、胸の中のモヤモヤに、明確な目的や形を与えるのが、自傷行為を止めさせる第一歩だって」


 ヴィーシニャがそう付け足した後、ヤーブラカが説明を続けた。

「セシーは、目の前で自傷行為を続ける孤児に対して、何とかしなきゃって焦りを募らせていたの。

 そして、年齢的にも孤児の抱える欲求が、性的衝動かもしれないって推測して、藁をもすがる思いで肉体関係を持ち、孤児の欲求に明確な形を与えようとした。


 それが正しかったかどうかは今でも分からないけど、その孤児の自傷行為は、その後には改善したそうよ」


「そんな経験が・・・・・・だからセシーは、あの時、あんなにも毅然とした態度で、自信を持って俺に、自分の中の抑圧された欲求に気付かせて・・・・・・」

『気付かせてあげる、あなたが何を求めているのかに』

 あの時のこのセシリアの発言が、スパルタクスの中でリフレインした。


「誰にどれだけ不浄だと思われようと、培養奴隷に向き合っていく、そんな決意を、孤児との関係は象徴しているのよ、きっと、セシーにとっては」


「決意の証・・・・・・だったのか、あの言葉は。自分を不浄だと卑下する俺に対して、そんな俺とずっと向き合っていく覚悟を、示してくれていたのか・・・・・・」


 こんな女性陣の説明で、頭では理解しつつあった。セシリアが戻りたがっているわけではないと。

 だが、今ロザリオと楽しそうに言葉を交わす彼女を目の当たりにすると、頭での理解は簡単に揺らいでしまう。

 彼女の眼に称えられた幸福感が、スパルタクスに様々な相反する感情を去来させる。


 安心感と喪失感。喜びと寂しさ。

 胸が温かくなるのに、胃の腑は冷える。微笑みながら、唇を噛む。


 ようやく大切な人に会わせてあげられたセシリアが、そのまま戻って来ないのではとの心底の悲観は、睦まじい2人を見つめる限りは、拭えそうにもなかった。


 ホールに何歩か踏み込んだところで、ロザリオが片手をあげた。

 表情や口の動きから、じゃあ、とでもいっている印象をスパルタクスは持つ。


 それにつられたように、セシリアも手を挙げた。

 スパルタクスからは後頭部しか見えず、表情は分からない。


 そのセシリアが、くるりと反転すると、大股にロザリオから離れながら視線を泳がせる。

 スパルタクスを見つける。迷わず彼へと歩み寄る。

 そして、まるでそれが当たり前とでもいった調子で、彼の隣に腰を落とし、彼の腕に軽く体重を預けた。


 異様な喜びが沸き上がると共に、戻って来ないのではと危惧したついさっきの自分を、スパルタクスは恥じた。


 ふと前を見ると、ロザリオがこちらを見ているのに気づく。

 笑顔で黙って見ているだけだが、感謝の念がその眼に宿っているのが分かる。

 なお一層、さっきの自分が恥ずかしくなった。


 スパルタクスはうなずいた。

 ロザリオもうなずいた。


 うなずきを交わす2人を、交互に見比べているセシリアの視線に気づき、照れ臭くなって、思わず頬笑む。

 全く同じタイミングで、ロザリオにも照れ笑いが生じるのが見えた。


 セレモニーが始まった。

 ポフダンとロザリオが、それぞれバクトラ王国と宇宙保安機構を代表する者であると、名乗りを上げる。


 2人の背後のモニターには、2人の署名が入った友好締結の調印書が映し出されている。

 その前で、2人が握手した。

 これで、友好締結は名実ともに確定したと言って良い。

 ホールには拍手と喝采が轟く。


 その直後、アールパード族の長ロカレーンの参上が告げられ、続いて本人が入場して来る。

 もちろん偶然ではなく、このタイミングでの登場が前もって計画されていた。


 ロカレーンとポフダン、ロカレーンとロザリオが、それぞれの調印書を映し出すモニターを背後にして握手した。

 その度に、拍手と喝采が起こる。


 バクトラ王国が、これから樹立を目指すアールパード族を中核にした連合国家に参画することと、その連合国家とも宇宙保安機構が友好を結ぶ予定であることが、これによって正式に宣言された。

 まだ存在せず、名称すら決まっていない連合国家だから、友好関係そのものは締結されないが。


 握手を終え、横一列に並び立つ3人の前へと、バクトラ王国を構成する部族の長たちが、1人ずつ続けざまに進み出る。

 新大王の即位と、連合国家への加盟予定と、宇宙保安既往との友好締結を祝い喜ぶスピーチを、それぞれが述べて行く。

 全ての部族が新王を承認し、新王に忠誠を誓うことを表明したことになる。


 続いて3人の代表者が、所信表明の演説を行った。

 全ての航宙民と定住民が分け隔てなく共存共栄する緩やかな連合体を目指すことや、ガウベラ帝国とも対等の立場で交流して行くことが、3者の口から語られた。


 簡素にと努めた調印式だが、たっぷり時間がかかった。

 代表として参加したロザリオはもちろん、見ていただけのセシリアもスパルタクスも、へとへとに疲れてしまった。


 だがその十日後にも、またセレモニー地獄は到来した。

 場所はリンドスから、プルシャプラにある行政府施設へと移された。

 ガウベラ帝国の使者が来訪し、キョセ・ミハルも戻って来て、樹立予定の連合国家とガウベラ帝国と宇宙保安機構の、3者での友好の締結を宣言するセレモニーが執り行われたのだ。


 ニーシャプールやバーラーブなど、連合国家を構成することになる諸勢力も、今回のセレモニーには代表者を送り込んできた。

 バクトラ王国の構成部族の長たちも、前のに引き続き参加している。

 総勢2百を超える勢力の代表が一堂に会しての、大掛かりなセレモニーとなった。


 代表の任をキョセ・ミハルに返上したロザリオは、今回は見ているだけで良かったが、それでも疲れた。

 北辺暗黒天体群域の3割ほどを包含する、緩やかだが巨大な連合体の未来を占う重要なセレモニーなのだが、疲れるものは疲れるのだった。

 今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2024/3/30  です。


 セレモニー=疲れる、というイメージを持っているのは作者だけでしょうか。

 冠婚葬祭や入学式、入社式、始業式に終業式などなどと、世にセレモニーと呼ばれるものは数多くあります。


 作者も色々なセレモニーに参加しましたが、疲れたという感想以外が心に残ったことなど、無いのではないかと思います。

 何がどうと考えると良く分からないし、何をしたのかすらも良く思い出せないセレモニーですが、疲れたという印象だけは強烈に残っています。


 参加するのも疲れるセレモニーですが、描くのも疲れました。今回のシーンを描くのは、本当に疲れる作業でした。

 描いている方が疲れるのだから、読んでくださっている方もお疲れになったのではないかと思います。


 それでも、セレモニーのシーンは外すわけにはいかないと思いました。

 現実世界のセレモニーも、どれだけ疲れるとしても、やはり無くしてはいけないのだと思います。


 疲れるのに、無くせない。いやむしろ、疲れることに意味があるのかも・・・。

 疲れることをしたという事が、その物事を大事にしなくてはという気持ちを掻き立てるのでは。


 疲れることをしてまで祝った冠婚葬祭や入学や入社なのだから、それを無駄にしないように心がけようという気持ちになる。

 その為にわざと、セレモニーは疲れる内容にしてあるのではないか。


 そんなわけで、本物語の中でも、これだけ疲れることをしたという事実が、登場人物たちの締結された友好関係を大切にしなければという気持ちの大きさを表している、とご理解頂きたいです。

 物凄い数の人々の、今後を左右する友好関係なわけです。


 二百を超える集団が祝ったセレモニーと、作中では表現されていますが、ガウベラ帝国と宇宙保安機構以外は、アールパード族を中核とする新たな部族連合の集団です。

 各部族の人口などは示していませんが、平均的には、まあざっと、数千人くらいかなあ、と思っています。


 ということは、数十万人から百万人くらいが、部族連合に含まれる計算です。

 そして、友好を締結した三者の中で、これが最小の勢力です。


 ガウベラ帝国には、億に達する人口が属している想定です。

 宇宙保安機構は地球連合を代表する機関だから、地球連合の人口が背後に控えていることになります。


 その人口も作中に明示はされていませんが、地球には今の地球より多い人数が住んでいてい、地球から飛び出し宇宙に居を定めた地球系人類はそれよりもずっと多く、地球連合に加盟した宇宙系の人口はそれを更に大きく上回る、とご想像ください。


 当然のように、地球連合が最大勢力です。これだけの人数が関わって来るのが、今回締結された友好関係なわけです。

 描くのも読むのもどれだけ疲れるとしても、セレモニーを避けて通ることなどできなかったことに、ご納得頂けましたでしょうか。


 上記のようなイメージを、この後書きを読まないでも読者様に持って頂ける文章を、書けていたらいいなあと願っています。

 今回それができていないなら、いつかできるように精進していこうと思います。何をすればいいのかは、分かりませんが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ