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銀河戦國史 (迷走の北辺暗黒天体群域)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
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第84話 Story about ロザリオ 22

 轟いた雄叫びが圧力を持ったのか、モニターの中のゲオルグ・ガルシアが突き飛ばされるようによろめくのを、ロザリオは表情も無く見つめていた。


 衝撃から立ち直るのを待って、通信機越しに語り掛ける。

「その連絡船は、アフシ族の船団まで辿り着けそうですか?


 タックは・・・・・・ああ、あなたがC-683と名付け、今本人はスパルタクスと名乗り、私が親愛を籠めてタックのニックネームで呼ぶあのパイロットは、手加減を約束してくれていたのですが」


「あくまで、とどめを刺さぬ屈辱を、この私に与えるつもりなのだな」

 質問には答えず、憎悪の視線でゲオルグは唸った。「よかろう。必ず後悔させてやる。


 考え直すなどあり得ぬぞ。友好など、死んでも受け入れるか。必ず復讐してやる。

 今とどめを刺さなかったことは、いつの日にか必ず、お前たちの破滅に繋がると思え」


「勢力挽回の方策が、あると思っているみたいだな」

 予測しない声が割り込んで来たことに、ゲオルグは驚いたようだが、ロザリオはニコリとした。


「ドラヴァレット殿、そちらの方は、首尾よく行きましたか? 」

 モニターの1つは、離れたところにあった大王の船団に、マゼーパ族の船団がランデブーしている様子を示していた。

 スパルタクスが戦っている間に、両者の接触は果たされていたようだ。


「もちろんだ。首尾よくどころか、予想をはるかに超えた上首尾になったぜ。

 クルトゴルのヤツ、戦おうともせず我が族長ポフダンに、王権を譲渡すると宣言しやがった。


 王国の半分以上の部族と、ほとんどの培養奴隷がこっちに付いたと知って、大王に率いられていた部族も、続々とこっちに寝返っちまった。


 頼みの綱と考えていたアフシ族がプルシャプラ攻略に失敗した挙句、船団を滅多打ちにされて戦闘不能となったのを見た直後の、この寝返りには、意気消沈したみたいだな。


 こうなってはクルトゴルも、大王の座に収まり続けるのは、無理だと考えたのだろう。 


 そんなわけで、アフシ族の長よ、バクトラ王国を利用しての勢力挽回は、可能性が閉ざされたぜ。

 バクトラ王国の新たな大王に即位したポフダンは、即位と同時に宇宙保安機構と友好を結ぶと宣言した。


 それを伝えるマゼーパ族からの使者も、間もなくロザリーの元に着くだろうぜ。

 キョセ・ミハルの代理であるロザリーが承諾すれば、我々の友好関係は成立する。


 聞いているか、アフシ族の長よ、保安機構への復讐を目論むアフシ族の勢力挽回に、バクトラ王国が協力することは、こんなわけで、あり得なくなったのさ」


「ぬ・・・・・・うぬぬっ、クルトゴルの馬鹿めがっ・・・・・・」

 唸るゲオルグの眼が、それでも鋭さを失わないのを見て、今度はロザリオが言った。


「ターロック・マクロクリンを頼る道も、閉ざされたと思うべきことを、お伝えしておきます、ガルシア殿。


 惑星国家パータリプトラを失脚後、追放先で再起を図っていたターロックでしたが、ほんの数日前、宇宙保安機構に身柄を拘束されるに至っています」


「ぬっ・・・・・・何だとっ! 拘束・・・・・・だと。間抜けめ。何をやっている」

 毒づきながらも、見る見る鋭さを失うゲオルグの眼に、彼の最後の望みが絶たれたことを読み取りながら、ロザリオは続ける。


「間抜けは酷いですな、ガルシア殿。

 あなたが培養奴隷を招集したことで、培養奴隷を使っての非法が明るみに出ました。

 彼の潜伏先の座標も、培養奴隷たちの行動によって、保安機構の知るところとなった。

 ターロックが拘束されたのは、あなたのせいですよ」


「くっ、知るかっ! あいつが間抜けなのだ。培養奴隷を呼び戻されたくらいで。

 あれほど便宜を図ってやったのに。


 あいつの宙賊撃破の実績作りや、対宙賊強硬世論の喚起に、あれほどにも手を焼いてやったのに、肝心な時に使えぬとは」


「そして、あなたが手を焼いて仕組んだことが、スパルタクスによるセシリア・ヴェールの拉致に繋がった。

 あなたとターロックの企みが無かったら、セシーは拉致なんてされることは無かった」


「それも、私の知ったことではない。

 取るに足らぬ小娘ひとり、どうなろうと、私に何のかかわりがある」


「でも、C-683を目覚めさせ、スパルタクスという名の、あなたの野望に終止符を打つことになる戦士に生まれ変わらせたのは、セシリア・ヴェールなのですよ。


 彼女がC-683の住居艇のコンピューターをハッキングし、睡眠指導装置を使って培養奴隷から目覚めさせる夢を見せたから、C-683はスパルタクスに生まれ変わることができたのです。


 セシーが拉致された時に、あなたの野望の破綻が、始まったのですよ」


「・・・・・・そ・・・・・・そんな」


「あなたが取るに足らぬ小娘と呼び、どうなろうと知ったことではないと言った女性こそが、あなたの野望を打ち砕いた最大の功労者です。


 宇宙保安機構の技術力も、スパルタクスの戦闘能力も、それに比べたら大したことは無い。

 あなたのプルシャプラ虐殺という蛮行を食い止めたのは、セシリア・ヴェールの勇気と機転だ」


 しぼんで行く風船みたいだ、などと思いながら、ロザリオはモニターの中のゲオルグを見ていた。


「恨み募る輩の悪しき野望を打ち砕くってのは、こんなにも気の重いものなんだな、シェリング」

 ロザリオのこんな発言の数秒後、連絡船のアフシ船団へのランデブーを、モニターの模式図が示した。


「あいつ、どこに行く気だろう、ロザリー? 」

 シェリングは問いかけたが、ロザリオは無言に陥っていた。

 応える元気が湧かないのを表情に汲み取ったシェリングは、自分で考えることにしたようだ。


「バクトラ王国領内にも、帝国にも行くところは無く、ターロックも頼れない。

 プルシャプラに戻る選択肢もあり得ないし、もうどこにも、行くところなんて無いだろうに」


 シェリングの心配を背負ったアフシ族の船団が、ゲオルグ・ガルシアを収容した後、それでもどこかを目指して消えて行くのを、数時間にわたって彼らは見つめた。


 無言が続いた。勝利の喜びなんて無かった。

 防衛成功の祝辞があちこちから来たし、犠牲者が出なかったとの報告も続々と舞い込んだが、彼らに言葉や笑顔を与えはしなかった。

 重苦しい沈黙に支配されながら、2人は2人だけになった施設で、長く過ごした。


 いつまでも、ここにいても仕方がないと思ったロザリオは、その部屋を出ようと扉に足を向けた。

 ポドルムが戻るまで、一旦はオーエン・ブレトンの指揮する空母リンドスにでも身を預けよう、などとぼんやり考えながら、ロザリオはゆっくりと足を進める。扉が開く。予想もしない人影を見つける。


「ロザリー! 」

 懐かしい声が、数時間ぶりの笑顔と言葉をロザリオに授けた。

「セシー! 」


 駆け寄る彼女を、彼が抱きとめた。

「ゴメンね、ロザリー。心配かけて、こんなに長い間、ゴメンね・・・・・・ゴメン・・・・・・」

「ははは、セシー、無事なんだね。良かった、良かった・・・・・・」

「ゴメンね・・・・・・ゴメンね・・・・・・ゴメンね・・・・・・」

「ははは、良いよ、謝らないでよ、セシー。無事ならそれでいいんだから。元気でいるなら、俺はそれだけで。良かった・・・・・・良かった・・・・・・」


 抱きしめられながら謝り続けるセシリアに、ありふれた言葉しかかけられない。

 彼らを見つめるシェリングの微苦笑によって、そんな自分に気付かされた。


「で、どうしてここに? 」

 50回は良かったを繰り返した後になって、ようやく順当な質問を繰り出した。


「これ」

 手に持ったデータチップを突き出すセシリア。「親書よ」


「ああ、使者って、セシーだったのか」

 ロザリオが電子署名を入力すれば、バクトラ王国と宇宙保安機構の友好関係が正式に締結されるデータチップを、彼は彼女から受け取った。


「取り込み中悪いけど」

 シェリングが、遠慮がちに割り込む。「ポフダンがリンドスに向かっているって、連絡が来たぜ。

 友好締結のセレモニーだって。俺たちも、行った方がよくないか? 」


「そうだな。行こうか、セシー」

「うん」


 3時間ほど後には、宇宙空母リンドスの内部に設えられた大ホールに到着した。

 ここで、バクトラ王国を代表するポフダンと、宇宙保安機構を代表するロザリオが、友好宣言を発するというセレモニーを催す。


 ホールの入り口を、セシリアと隣り合わせで肩を並べて、ロザリオは通過していった。学生時代と同じ調子で、楽し気に言葉を交わし合いながら。

 今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2024/3/23  です。


 プルシャプラの執政官の立場だったゲオルグ・ガルシアだったら、もっと早くに住民の虐殺くらいできたのでは、との疑問をお持ちの読者様もおられるかもしれません。

 ですが、彼は第三執政官という立場であり、独裁的な決定権を持っていたわけではありません。


 いわゆる寡頭政治というやつで、複数の執政官が合議で意思決定するのが、プルシャプラの統治形態です。

 何人の執政官が居るのかまでは、作中には描かれていなかったと思いますし(作者の記憶では)、現在の作者の頭の中にも具体的な数字はないですが、まあ5~10人くらいでしょう。


 いずれにせよ、ゲオルグの一存で決められることはほとんど無いのが、プルシャプラの置かれた状況でした。

 通信施設の一つを人知れず自由に使うくらいはできましたが、マラカンダとの関係を見直すなどの重要事項は、執政官の中から少なくとも過半数の賛同が必要でしょう。


 更にプルシャプラ虐殺の実施主体としては、彼の保有する培養奴隷になるわけですが、それの数も、この物語に描かれた時期になってようやく、遂行が可能な人数になったのだと、作者は想定しています。


 培養奴隷を多数仕立てるのにもコストがかかり、それを用立てるためには培養奴隷の貸し出しで利益を出さなければなりません。

 貸し出しの利益を培養奴隷の再生産に当て、それを貸し出して更に利益を得ることを、物語の時期まで彼は繰り返していたのです。


 この物語の時期になって、培養奴隷の人数もそろい、マラカンダとの関係見直しに他の執政官の承諾を得られる環境になったので、彼はプルシャプラ虐殺の実施に踏み切ったのだとご理解ください。


 ロザリオとのやり取りの中で、スパルタクスの戦闘艇団だけでプルシャプラの民衆を一人残らず血祭りにあげることが可能であるかのような発言がありましたが、あれは全くの口から出まかせです。

 その場の勢いとか悔し紛れとかで、大袈裟なはったりをゲオルグは口にしたのです。


 たった7艘の戦闘艇に搭載された武装だけでは、弾薬とエネルギーをどれだけ効率よく使い尽くしても、数千人が暮らす天体地中都市での皆殺しなどは、実施できなかったでしょう。

 インフラの機能停止による間接的な死者を含めても、半数以上は生き残りそうです。


 こんなことはロザリオには直ぐにでも認識できることを、ゲオルグだって承知していたでしょうが、プルシャプラを追放になってしまった無念から、思わず言ってしまった感じです。

 はったりを口にするのも無理のない場面として、描けていたと思っています。 


 というわけで、作者としては矛盾点や辻褄の合わない部分は無い状態で、この物語を描き切れたと信じています。

 かなり事情の入り組んだ、複雑な物語になりましたが、きちんと筋を通せたと自負しています。


 どなたか矛盾点を見つけられた方には、懸賞金を差し上げたいくらいの気持ちです(あくまで気持ちだで賞金の用意はありません)。

 物語の筋の面でもそうですし、登場する科学技術に関しても、絶対にあり得ない荒唐無稽と思えるものを見つけられたなら、是非とも指摘して頂きたいです。


 もちろん、何度も言っていますが、超光速移動に関しては別です。

 銀河を舞台にするのにどうしても必要な超光速移動に関してだけは徹底的に荒唐無稽ですが、それ以外は科学的に実現可能と思える技術だけで組み立てるのが、本シリーズの基本方針です。


 そんなわけで、話の筋と科学技術に関して、理屈が通らない部分を目を皿にして探して下さる読者様を、作者は心底求めています。

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