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銀河戦國史 (迷走の北辺暗黒天体群域)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
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第6話 Story about ロザリオ 1-2

 少年たちのヒーロー、それが宇宙保安機構職員だった。皆が憧れ、なりたいと願うものだった。

 彼もその1人だった。絶対それに入職してやると、決意していた。


 確かな事実。だが、言い訳にしか聞こえない時もあった。

 過去のトラウマで臆病になって、夢を言い訳にして、あんなにも分かりやすく示してくれていた好意に応えもせず、彼女の心を踏みにじってしまったのではないか?


 恋と夢を両立させている奴なんて、周囲に何人もいた。

 彼女の想いを受け止めても、夢を目指すことはできたかもしれない。


(いやいや、そんな器用なこと、俺にできるはず無いじゃないか。

 勉強に専念して、正解だったんだ。

 彼女の想いが本当だったとしても、やっぱり応えるわけにはいかなかった)


 自分に言い聞かせるたびに、パーソナルスペースを侵略して来た笑顔が浮かんでくる。


 彼女の気持ちを確かめて、本当だったのなら、好意を嬉しく思う気持ちくらいは伝えればよかった。

 そして夢に向かっている現状を説明して、夢が叶ったら好意を受け止めると約束するくらいならば、できたかもしれない。


(いやいやいや、やっぱりあれは、勘違いに決まっている。

 男ってのは、そういう勘違いをする動物だって聞いたこともあるし。

 確かめたら、恥をかいたに決まっているんだ)


 また、あの笑顔が浮かんだ。過去の態度を正当化するたびに、心のどこかを侵略して来る笑顔。

 勘違いだったなんて言い訳を、許してくれない笑顔。


「セシー・・・・・・」

 笑顔の主の名を、口にしていた。「セシリア・ヴェール。今、どこで何をしているかな」


 走り去って行くうしろ姿が最も鮮明に浮かぶ彼女の、今の消息を彼は知らない。


 走り去って行ったのは、彼が深く心を傷つけてしまった結果かもしれない。

 走り去ったまま消息を絶ったわけでもないが、自分の態度が彼女を、どこかに追いやったようにも思える。


 想いを受け止める勇気も時間も無かったかつてのロザリオは、それでもどこか調子には乗っていた。

 セシリアの誕生日には、毎年プレゼントを欠かさなかった。


 スカーフをプレゼントした年もあった。

 鮮やかなコバルトブルーのそれを、彼女は喜んでくれた。


 翌年の誕生日にも、講義室の彼女の席に、ロザリオは派手目にラッピングされた荷物を置いていた。

 誕生日プレゼントではない。


 知り合いである現役保安機構職員の一人に、むかし機構で使われていたニュートリノビーム通信機を、勉強のために借りたのだ。

 派手目のラッピングは、その知り合いの趣味だった。

 友人との会話に夢中だったロザリオは、無意識にそれをセシリアの席の上に置いていただけだった。


「わあーっ、今年も誕生日プレゼントくれるの。うれしー! 」

 例の笑顔でラッピングを解いたセシリアは、きょとん。「え、なにこれ? 」


「あっ、そ・・・・・・それは誕生日プレゼントじゃなくて・・・・・・! 」

 なぜか物凄く慌てて、ロザリオはひったくるように通信機を取り返した。


 ショックを受けた感じのセシリアの瞳が、じんわりと潤んだ。

 くるりと踵を返し、一散に走り去って行った。


 片側に石造りの円柱が、反対側に講義室の窓が並ぶ、スクールの廊下を駆けて。

 遠ざかって行くうしろ姿が、今では最も強く印象に残っている。


(セシーを傷つけてしまった。あんなに慌てて取り返さなくても・・・・・・)

 それから疎遠になった。


 ロザリオも追い込みに入っていた時期だったので、勉強した記憶しか残っていない。

 その後のセシリアの様子や表情などは、記憶にない。

 公設スクールの卒業式で、通り一遍の挨拶を交わした覚えはあるが、卒業後の消息をロザリオは知らない。


 保安機構職員の養成コースへの入学を決めていた彼は、そちらで頭がいっぱいだった。

 ここから更に熱を込めて努力しないと、夢は叶わないのだから。


(こうして職員になれたのだから、恋になんて目を向けずに努力し続けたのは、正しかったはずだ。

 本当かどうか分からない、彼女の気持ちに、心を奪われたりせずに。

 でも・・・・・・セシー・・・・・・)


 走り去るうしろ姿と、パーソナルスペースを侵略した笑顔が、グルグルと頭の中で回る。


(自分が恥をかかない為に、身勝手な虚栄心の為に、セシーに想われていることを否定していた。

 夢に向かう為なんて、言い訳だった。


 勉強に専念したから今があるのは確かだけど、セシーにもっとしてあげられることは、あったのかも知れない。

 あの誕生日事件の後にだって、もっと、何か、してあげていたら・・・・・・)


 傷つけられ、走り去り、今では消息も分からないセシリアが、ロザリオの中を巡る。


「・・・・・・以上のように、我が地球連合と友好関係を樹立したはずの、定住型宇宙系の諸部族が、ガウベラ帝国の影響圏において交信を途絶えさせる事案が多くみられる。

 帝国による蹂躙を想定すべきであり、帝国が我々に、圧力をかけているとも解釈できる」


(やばっ、どのくらい聞いてなかったんだ?

 セシーから切り替えなきゃ。けど・・・・・・)


 相変わらず、ここにいる新入り職員全員が知っているはずの事しか言ってない。

 聞き漏らしても何も困らない。


 とは言え、門出を祝う訓示なのだから、

(ここからは、ちゃんと聞こう)


「このように、難敵となる確率の高いガウベラ帝国であるが、我らが直面する困難は、かの帝国だけではない。

 ガウベラより遥かに距離の隔たった、正確な場所も分からない所に有ると言われ、未だ謎めいた存在でもある〝 遠くの帝国 〟にも、関心を向けなければならない」


 本当に存在するのかどうかも定かではないが、その帝国に臣従していると名乗りを上げる航宙民族による襲撃は、幾つか報告されている。

 全く根も葉もない主張とは考えられず、同じ帝国を指して、それに臣従していると言っていたのかどうかも定かではない。


(未確認の要素が多いからこそ、不気味な存在だよな。

 多くの地球連合市民が不安に思っていることなのだから、保安機構がなんとかしなくちゃ)


 地球系の国等や、それとの友好関係を結んでいる宇宙系人類から成っている地球連合の、安全と平和を守り抜く為の機関、それが宇宙保安機構だ。


 危険も多いが、それだけに勇ましくて格好良く、ロザリオも子供の頃からあこがれていた。

 自分も絶対そうなりたいと夢を膨らませ、それに向かって努力を続け、今こうして訓示を聞く立場を得た。


 トラペスント星系第2惑星の公設スクールで、セシリアという強烈な誘惑にも負けずに続けた努力で、彼は宇宙保安機構職員の肩書を掴んだ。

(思い出すなあ)


 やはりロザリオの意識は、スピーチから逸れてしまう。

 石造りの円柱の並ぶ廊下を、思い描く。セシリアが走り去った廊下だ。

 今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2022.9.24  です。


 スピーチを聞こう聞こうとしつつも、個人的な回想を止められないロザリオですが、作者としては、どちらの内容も印象に残るように努力したつもりです。


 物語の冒頭なのだから、この場面が舞台背景の説明であることはご認識頂いているものと考えていますが、ロザリオが上の空になって聞き逃しがちなスピーチを、読者様もスルーしてしまいはしないかと、心配しております。


 今後の展開に向けて重要となって来るのは、何といってもスピーチの内容の方で、ガウベラ帝国や遠くの帝国、地球連合や宇宙保安機構の名称とそれらがどういったものであるかというのは、ちゃんと心に刻みつけて頂きたいと思います。


 エクパティア帝国、なんてのも出て来ています。今は存在しない帝国であると、ご認識頂いていますでしょうか?

 ガウベラの始祖王に滅ぼされて今は無いけど、かつては隆盛を誇った帝国です。覚えておいて欲しいです。


 地球連合というのが、地球に住んでいる人々の集まりではないことも、ご理解頂けていますでしょうか?

 地球に住み続ける人々と、宇宙に植民した地球系の人々と、宇宙系人類の内の地球系と友好関係のある人々によって結成されたのが、地球連合です。


 宇宙保安機構は、地球連合に属する人々の居住場所と、それらを結ぶ交易路の安全を守ることが、第一の任務です。

 ですが、それだけでなく、未だ友好関係のない宇宙系人類や、敵対関係になってしまっている宇宙系人類へも、何らかの対応をしなければなりません。


「何らかの対応」の中身は、ネタバレになるのでここでは言えません。


 ロザリオが聞き漏らしそうになっているスピーチから、これらのことを、読者様には是非汲み取って、記憶に留めておいて頂かなければなりません。

 そうなるような文章を書こうと奮闘した作者の努力は、報われていますでしょうか?


 まさか、セシリア・ヴェールの名前が、ロザリオより前に既に出ていることに、気づいて頂けていないなんてことは無いと思いますが、もしそうなら、お手数で恐縮ですが、本編の始めから読み返して頂く必要がございます。


 こんなことを後書きで描くのは、反則かもしれないというようなことを、長々と述べてまいりましたが、未だ修行中の身ということで、御容赦頂きたいと思います。

 上記の内容をしっかり踏まえた上で、次週からの続きを読んで頂きたいと、切に希望いたします。

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