第76話 Story about スパルタクス 16
「もと培養奴隷が上官だなんてことで、余計な気を使わないでくれ」
マゼーパ族がバイルク族を吸収合併したことで、スパルタクスの部下は増えた。
それらを訓練している途中、呼び集めた彼らにスパルタクスが言った。
あちこちの培養奴隷が、ロードの召集に応じて現在の指揮命令権者から次々に離脱していることも、スパルタクスたちが乗る戦闘艇の通信機から度々ロードの召集命令が響いているのも、部下の全員が知っている。
部下たちは、スパルタクスも召集に応じるのではないかと、気を揉んでいた。
「あんたはもうすっかり、ロードの洗脳から自由になっているのかい、タック? 」
部下を代表したタルマシリンの問いに、少し眉根を寄せながらうなずく。
「全く平気とは言えないがな、召集に応じるなんてことは、あり得ない。
訓練にも支障を生じさせたりしないから、お前たちも訓練に専念してくれ」
召集の声が聞かれ初めた頃には、誰かに声を掛けてもらって動揺を抑えていたのだが、何度か繰り返されると一人でも抑えられるようになった。
ひとまず安心した顔になった部下たちが、それぞれに戦闘艇で飛び立って行くのを見送り、自分も戦闘艇に戻ったスパルタクスは、またロードの声を聞いた。
「よく聞け、我が僕たる培養奴隷たちよ。
お前たちを総動員して、天体地中都市プルシャプラを攻略する。
これは、すべてに優先する命令である。
いまだに現在の任務に就いている者も、即刻そこを離れ、ロードの催すプルシャプラ攻略戦に参戦せよ。
詳細な作戦内容は追って連絡するが、差し当たっては後に示す座標に集結するのだ」
僅かに鼓動を速めた胸を押さえながらではあるが、スパルタクスの思考は冷静だ。
(攻略、と言ったか? 略奪ではなく、攻略だと? どいういう意味だ? 支配下に置くつもりか?
都市を支配下に置くなど、略奪の比ではない難題だぞ。しかもプルシャプラとは、規模が大きく防衛力も高い都市だ。
あれを完全に支配下とすることで、安定した収益の確保を目指すのか? 大きすぎる方針転換だ。何かあったのか? )
「アフシ族はこの機に、王国でのナンバースリーを狙っているのかもしれないな」
ドラヴァレットが、通信機越しに見解を伝えた。「つまり左覇星王の称号だ。
以前それだったマゼーパ族が抜け、バイルク族もカルルク族に潰されて、王国内の序列は不安定になっている。
この機に収益を増やして大王にアピールすれば、不可能じゃない。
今を千載一遇のチャンスととらえ、培養奴隷を総動員して収益の急拡大を画策していると考えると、筋が通るぜ」
ドラヴァレットとの通信に割り込むようにして、ポフダンも連絡してきた。
「アフシ族によるプルシャプラ攻略の動きは、バクトラ王国内に大きな混乱や隙をもたらすはずだぞ。
そこにつけ込めば、ひと息に変革できるかもしれない。
アフシ族の長が左覇星王になるのを、望まぬ勢力は少なくない。
我らの味方を、増やせることも期待できる。
それに、培養奴隷が引き上げた今なら、保守勢力の戦力展開能力も削がれているだろう。
これは、我らにとってもチャンスだ。
この機に、王国中枢に攻撃を仕掛けよう」
「クルトゴルを、大王の座から引きずり下ろすのか? 」
スパルタクスの問いに、ドラヴァレットが答える。
「略奪を中心とする王国の方針を転換することや、アールバード族と友好を結ぶことに同意するのなら、そこまではしない。
俺たちで監視できる体制は、確立するがな」
「拒否するなら、新たな大王を据えるのか? 」
この問いに答えるのは、ポフダンだった。
「新たな大王の選定にまでは、話は進んでいないし、現在の側近を引き剥がせば、クルトゴルは方針転換を受け入ると考えているが、新大王を立てる可能性も無くはない」
「大規模な戦闘になる可能性も、あるわけよね? 」
セシリアまでが、通信を割り込ませてきた。「それなら、宇宙保安機構に、協力を要請しておいたら? 」
「私もそれを考えていた。ドラヴァレット、スパルタクス、宇宙保安機構への使者に立ってくれ。
キョセ・ミハル殿が、帝国との仲介のためにバーラーブに留まっている。彼に話せば要請は通るだろう。
通信では済ませられない。お前たちで直接伝えてくれ。
それと、アフシ族による培養奴隷を総動員したプルシャプラ攻略計画も、急ぎ伝える必要があるだろう」
「了解だぜ、族長」
「私もだ」
ドラヴァレットに続いて、スパルタクスも返事をした。「遂に、宇宙保安機構のオフィサーと対峙する時が来たか。
なぜか、待ちに待ったという気分がしてくるぞ」
「私も行こうか? 」
「いや、セシーが来る必要は無い」
答えたのは、ドラヴァレットだ。「だが、セシリアの名前は出すかもしれないぜ。もういいんだろ、お前がここいることを、隠さなくても? 」
「そうね。ここに残るっていう私の意志を、尊重してもらえるってはっきりした上に、遠くへ行っちゃたから、隠す必要なんてもう無いわね」
「でも」
決着がつきかかった件を、スパルタクスの戸惑い勝ちの声が蒸し返す。「セシーが行きたいと思うのなら、連れて行っても・・・・・・? 」
「そうなのか、タック? セシーは、地球系のもとに行きたいのか? どうなんだセシー」
「行きたいとは言ってないわよ、タック。必要ないと思うなら、あなたの言う通りに居残りするわよ、ドラヴァレット」
「そう・・・・・・なのか」
「了解! 」
セシリアが実は戻りたがっている、そんなスパルタクスの心底にわだかまるイメージは、彼以外の誰にも共有されていないようだ。セシリア自身にさえも。
だがスパルタクスは、この機会に地球系の者たちと、セシリアを戻すことに関する相談もしておこうと考えた。
壁を感じたままでそばに居続けることに、彼の方が耐えられなくなっているのかもしれなかった。
それから5時間後、スパルタクスとドラヴァレットは、数日に及ぶ長い旅の途に就いていた。
今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2024/1/27 です。
これまでのロザリオたちの戦いを、余裕の勝利という形で描いてきました。
その為に、プルシャプラに培養奴隷を総動員した攻略戦が仕掛けられたとしても、まあ大丈夫だろうと読者様に思われてしまっているでしょうか?
そんな方には、帝国艦隊と戦った時のことを思い出し(もしくは読み直し)て頂きたいです。
培養奴隷の戦闘艇部隊とポドルムだけでやり合うのは、相当に危険とイゴル大尉は判断していました。
今回は、前回帝国が繰り出してきた培養奴隷部隊を、はるかに上回る戦力が動員されると考えてください。
あの時帝国艦隊に属していた培養奴隷部隊全部に加え、あちこちから掻き集められた培養奴隷も動員されるわけですから、物凄い数になるはずです。
こういうことを後書きで述べなくても分かって頂けるように心がけたつもりではありますが、一応説明しておきます。
さらりと描かれた、ロードが語り掛けて来るシーンは、ロザリオたちにとんでもない危機が迫っていることを示していた訳です。
セシリアはポドルムがプルシャプラに滞在していることなど知らないから、保安機構にも応援を要請するように言っていました。
しかし、プルシャプラ攻略が始まれば、問答無用で保安機構も巻き込まれます。
しかも、ポドルム単独で対応しなければならない事態になります。
そうなると、マゼーパ族の面々の行動を注目せずにいられない気分に、読者様にはなって頂けているはずなのです。
心配性なので、思わず後書きでの追加説明という無粋な真似をしてしまいましたが、マゼーパ族の行動が手遅れにならないよう祈りながら、この先を読んで頂きたいです。
本文だけでそれを認識してもらえる表現力を身に付けられるようにと、作者の方は祈ります。
祈るだけではないですが、祈るしかないのかもしれません。




