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銀河戦國史 (迷走の北辺暗黒天体群域)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
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第75話 Story about ロザリオ 18-2

 ゲオルグとの会談を終え、ポドルムに帰艦したロザリオは、突如の疲れに倒れ込むように、指揮室のシートに身体を固定した。

 無重力中だから、力を抜いても倒れるわけではないが、身体を固定した方がリラックスできるのだ。


 帝国との和解が成立したことで、本部に戻る必要は無くなったが、チーフがバーラーブに残った状況下では、新人のロザリオがプルシャプラとの交渉という大任を負う。

 友好を結んだばかりの、保安機構にとって未知な要素の多い集団との交渉は、新人には荷が重すぎるのだが、今ここにいる保安機構の文官は彼だけだった。


「あはは、すっかり疲労困憊だな、ロザリー。

 だが、チーフ・ミハルの代行を、上手くこなしていると思うぜ。

 人権状況を改善しつつ各階層の信頼を勝ち取って、地球連合にとっての友好交易勢力になってもらうって難題を、着実に解決しているじゃないか」


 背後から駆けられた声に、仰ぎ見るような姿勢で視線を向ける。

 宙を漂う武官の姿が、ロザリオの目に飛び込んだ。


「それは別に、俺の力じゃないよ、イゴル大尉。

 執政官ゲオルグ殿の、手腕のおかげさ。


 それに、もう一つの課題である宙賊対策は、大尉たち武官に丸投げだしな。

 俺なんか、プルシャプラとポドルムを往復するだけで疲労困憊している、青二才の文官さ」


 ぐったりした姿勢で自己卑下な言葉を吐いたロザリオだが、その眼には自信の色も浮かんでいる。

 ここ最近の仕事の成果に、一定の満足は覚えていた。


「ではその青二才の文官殿に、宙賊対策の報告をしておくぜ。

 ニーシャプールでドラヴァレット殿にもらった資料や、ミス・アナスタシアの話を総合して行くと、これまで報告されていた宙賊による略奪の多くが、培養奴隷によるものだと推測されるのだ。


 アフシ族とかいう航宙民族の一部族が、収益事業として手広く貸し出している培養奴隷が沢山いて、略奪にはそいつらが頻繁に駆り出されるようだ。

 となると宙賊対策も、事実上は培養奴隷対策ということになる」


「ドラヴァレット殿が、恐ろしく優秀なパイロットもいると評していたのが、培養奴隷だったな、大尉。

 北辺暗黒天体群域一帯での一斉召集という、意味不明の出来事もあった。

 培養奴隷とその元締めであるアフシ族について、調査を進める必要があるということか」


「まあそれは、本部の仕事だな。今ここで俺たちに、何かできる問題じゃない。

 差し当たって本部には、ターロックを締め上げて、知っている情報を洗いざらい提供させてもらいたいぜ。

 亡命先にいるから、簡単には手出しできない状況なのだろうけど。


 俺たちの方は、培養奴隷に共通した戦術というのを特定して、それへの対抗策を練っておくことかな。

 定住民たちにも撃退できるようになれば、それが一番理想的だ」


「定住民に可能な、対培養奴隷用の戦術立案か。

 さすがはイゴル大尉だ。凄いこと考えるな。

 理想を実現してくれることを、期待しているよ」


「お褒めにあずかって光栄だぜ、オフィサー・マター殿。

 それには、あの男のこれまでの戦闘データってのが、役に立つんだよな。ドラヴァレットからもらってある、あの男の過去の戦闘データが」


「あの男? 」

「あの男ってのは、今はマゼーパ族の幹部にまで上り詰めている、もと培養奴隷の男だよ。

 そして、ほら、ミス・アナスタシアが言っていた、ミス・セシリアのこ・・・・・・」

「大尉っ! 」


 ロザリオの隣のシートに着いて話を聞いていたシェリングが、大声を出したかと思うと大尉の元に漂って行って、ひそひそと話し込んだ。


「な・・・・・・何だ? どうしたって言うんだ、シェリング? 」

「いいや、何でもないロザリー。なあ、イゴル大尉。

 ドラヴァレットの部下である元培養奴隷の過去の戦闘データが、宙賊対策に役立つってだけだ。ははは・・・・・・」


「何だよ、シェリング。セシーの恋人って言葉を、未だにタブー視してるのか?

 

 あのさあ、そんなこと、もう何とも思っているわけないだろ?

 このあいだはちょっと、売り言葉に買い言葉で、言い過ぎちまっただけなのだからさ」


「言い過ぎたのは、こっちの方さ、ロザリー。

 何の罪もない、そしてロザリーには大切な人である、ミス・セシリアをあんな風に言うなんて、どうかしてたぜ。


 お前の言う通り、やっぱり俺は歪んでるんだと思う。

 航宙民への恨みで、ものごとを公正に見れなくなっちまってるんだな。


 そのせいで、傷ついているお前に、更に追い打ちをかけるようなことを・・・・・・。

 今でも航宙民族であり、もと培養奴隷である男の方にこそ、怒りをぶつけるべきなのに」


(いや、彼の方にも、怒りをぶつけられる理由なんて・・・・・・)

 シェリングの心に、拭えぬ航宙民への嫌悪や憎悪が確固としてあることが、今の言葉にも現れていた。


 航宙民は根絶やしにするべきだし、セシリアのことも力づくででも取り戻すべきとの考えは、今も彼の胸中で息巻いているだろう。

 自己嫌悪に自由な発言を阻まれていて、本音を口には出せずにいるようだが。


 そうと気付いても、ロザリオには説得を試みる気持ちは湧いてこなかった。

 言葉の刃で彼を傷つけた自分には、そんな資格は無いように思えたから。


 歪んでいるなんて、自己嫌悪だけを背負わせておいて、航宙民への偏見を取り除いてやる努力もしない。

(機構職員失格だな、俺は・・・・・・)


「アナスタシアを取り戻してもらったのに、ふがいない限りだ。

 悪いな、ロザリー」


 心底傷ついた目でそうつぶやいているシェリングに、ロザリオは力なくこう答えるしかできなかった。

「もう俺は、何も気にしてなんかいないさ。

 だから、もと培養奴隷がセシー恋人だなんてことで、余計な気を使わないでくれよ」

 今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2024/1/20  です。


 無重力中では身体を固定した方がリラックスできる、というのは作者の勝手な想像であって、事実とは異なる可能性があることを、お断りしておきます。

 無重力の経験が作者には無いので、こういった場面は想像でしか語れません。


 実際はどうなのでしょうか? 人によっても感じ方は変わる者でしょうか?

 無重力中をふわふわ漂っているのは疲れそうなイメージが、作者には沸いてしまいますが、無重力未経験の状態での想像も、実際に無重力を体験した上での感想も、人それぞれなのかもしれません。


 本物語では、食事等の時だけ重力を生じさせ、それ以外は無重力にしておくというパターンも頻繁に出てきます。

 重力を発生させるコストが時代や場所によって異なり、特定の状況下でのみ重力を発生させるなんてことも、時代や場所によっては起こるということです。


 プロローグやエピローグのエリス少年の時代では、天然には無重力である施設内に、人工的な重力を低コストで永続的に生じさせる技術が確立しています。

 ロザリオの時代には、宇宙船をスラスター噴射で加速させるとか、電力等で自転させるとかしないと、重力を発生させられません。


 スラスターは、質量を持つ物体を加速させその反動で推進するので、質量体を使い尽くせば止まってしまいます。

 要するに、限りがあるから無駄遣いできないのです。


 電力は、事実上無尽蔵にあるような設定になっています。

 それを使って船を自転させるのならば、ある程度低コストかなと作者は素人なりに想像しています。


 ですが、自転の遠心力で発生させた重力は、地球上で我々が感じている重力とは、差異が大きくなりやすいのだと考えています。

 加速による重力でも差異はありますが、自転の方がそれが大きくなりがちだという考えです。


 地球の重力は、例えば右足にかかるのと左足にかかるのでは、ベクトルが異なっています。

 平行ではないということで、何千kmも先の地球の中心で接する交線を描くのが、左右の足にかかる重力です。


 遠心力による重力はその反対で、頭上方向となる自転の軸中心で接する交線を、左右の足にかかる重力が描きます。

 自転半径が小さければ小さいほど、左右の足にかかる重力のベクトルは差異が大きくなります。


 あと、コリオリの力なんてのも、作用してきます。

 回転体の上で生じる直進を妨げる力だと、ここではご理解頂けば良いかと思います。


 で、ここからは作者の勝手な想像ですが、このベクトルの差異やコリオリの力が大きすぎる環境では、思うように身体を動かせなくなってしまいそうです。

 食事などの作業をするのも、かなり難儀なのではないでしょうか?


 宇宙船からアームを長く突き出した上で自転することで半径を稼ぐ方法もあり、スパルタクスの住居船はそんな方法を採用しています。

 機動戦士ガンダムに出て来るホワイトベースなどの宇宙船も、そんな方式を採用していたと思います。


 ポドルムにもそういう機能はあることにしていますが、常時こういう状態にしていては、保安機構としての任務を果たせそうにありません。

 何かあればすぐに動けるようにしておくには、伸ばしたアームの先で快適な重力を満喫していてはいけないだろうと想像しました。


 要するに、今回の場面を無重力状態と決めるのに、これだけの考えを巡らせたのだ、ということを主張したいわけです。

 物語中の色々な場面での重力状態について、上記のようなことをあれこれと考慮に含めた上で描き分けているということを、読者様にご理解頂きたかったのです。


 こういうことに興味のない読者様には、無駄な努力としか思われないかもしれません。

 ですが、宇宙に進出した後の人の暮らしについてリアルに想像したいという衝動こそが、宇宙SFの存在理由だと作者は信じています。


 そんなわけで、これからも各場面の重力状態について、作者なりに科学的根拠をもって描き分けて行くつもりですので、注目して頂けるとありがたいです。

 そんなことに興味のない方にも楽しんで頂けるような工夫も、やっていくつもりではいますが、それでもなるべく重力の状態には、注目して頂きたいと思ってしまうのです。

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