第74話 Story about ロザリオ 18-1
「マラカンダとは、きれいさっぱり手を切ることにしたのだ」
ゲオルグの言葉に、ロザリオは首を傾げた。
理由として挙げられた事象に、疑問を覚えたのだ。
「帝国が脅威でなくなった上に、帝国ともその影響下にあったいくつもの定住民とも、これまで以上に活発な交易が期待できるようになった。
そのことで、マラカンダとの関係継続は必要なくなった、とのご説明だったと理解していますが・・・・・・」
「その通りです、オフィサー・マター。
脅威が去り利益は増える公算ですからな、今後はマラカンダに大きな顔など、させてやるつもりはありません」
「しかし、宙賊の脅威は・・・・・・」
マラカンダの束縛に甘んじる最大の理由は、帝国よりそちらのはずだと、ロザリオは理解していたのだ。だが、
「帝国とも交易するのですぞ。
あれの威を借りることのできる今後においては、宙賊などに我らへの手出しが、できるわけがありません。
大船に乗った気でいるのですよ、私は。
もはやマラカンダの力など、借りる必要は無くなったのです」
と、ロザリオの疑問の言葉を遮るように、ゲオルグは主張した。
「・・・・・・はあ」
釈然としない気持ちながら、プルシャプラについてそれほどよく知っているわけでもない自分を思い返し、ロザリオは口をつぐんだ。
(そう言えばプルシャプラに関しては、ほんの数時間に聞いた説明だけが、知っている全てだった。
その話の直後にセシーの拉致が発覚して、それきりプルシャプラのことを詳しく聞く機会なんて無かったんだよな)
そんなプルシャプラの政策に口をはさめる立場に、自分がいるわけもないと思った。
それより彼には、プルシャプラについて気になることが、今になって湧いて来た。
(なぜセシーは、ここにいたのだろう?
というより、ターロックはなぜ、プルシャプラにセシーを送り込んだのだろう?
宙賊に地球系の誰かを拉致させることで、惑星国家パータリプトラの世論を強硬姿勢に誘導する、という目的は分かるとして、なぜプルシャプラだったのだろう?
ここに連れて来れば、宙賊に拉致させられる可能性が高いと思ったからだろうけど、なぜ?
なぜプルシャプラなら、宙賊に拉致させられるんだ?
セシーが初めに乗っていた船は、帝国の使者が電波を発して宙賊をおびき寄せることで、意図的に襲わせたのだった。
セシーは、たまたま直前に乗り換えていて、乗り換えた先の船から拉致されたわけだけど、少しタイミングがずれていれば、帝国の使者がおびき寄せた宙賊に拉致されていたわけだ。
帝国はプルシャプラに宙賊への脅威を植え付けて、帝国への接近を求めさせようと企んでいた。
そのことは、帝国の幹部も認めていた。和解が成立したことで、そんな裏事情を直接教えてもらえたから、間違いない。
帝国もターロックも、同じような手口で、自分の目的を達しようとしていた。
そして、ほぼ同じタイミングで、両者の目的を達するための拉致が実施された。
これは偶然なのだろうか? 帝国の使者のせいでセシーが拉致される可能性もあったが、それも偶然なのか?
偶然の可能性もあるが、それにしても・・・・・・。
まるで、この作戦を考えた人物は別にいて、その人物が帝国とターロックの両方に入れ知恵したことで、プルシャプラにセシーが送り込まれ宙賊に拉致されるって事態になったかのような。
そう考えた方が、筋が通るし、自然な感じもする・・・・・・。
でも、だとしたら、作戦を考えた人物っていうのは・・・・・・。
帝国とターロックの両方に入れ知恵できる人物・・・・・・培養奴隷・・・・・・。
そうだ、両方とも、培養奴隷を使役していた共通点がある。
その培養奴隷が、帝国からもターロックからも同時に逃げ出したことを考えれば、同じ人物によって作り出され操られていたと見ていいだろう。
そうか、培養奴隷のオーナーか。
培養奴隷を作り出し、あちこちの勢力に売り込んでいた人物が、セシーを拉致させる作戦の黒幕なのかもしれないぞ)
「マラカンダは」
ゲオルグの話は続いていた。「関係解消の宣告に対して、制裁を科すでしょう。
防衛力の一時的な低下も、避けられぬでしょう。
でもそれを上回る収益を、これからの交易で上げることが可能だと、プルシャプラ行政府は判断したのです」
「そうですか。もとより、我々にはそのことに介入する意思などありません。
2級や3級とされ差別されている立場の人々の、人権状況の改善は求めますが、外交は自由です。
逆に、マラカンダとのことで宇宙保安機構の救援が必要になったら、遠慮なくおっしゃってください。
武力制裁の挙に出るようならば、間違いなく我々は阻止に動きますし、それ以外の不当な制裁でも、保安機構は可能な限りの支援を実施します」
「有難い。心から御礼申し上げます。
困ったことが起これば、相談させて頂きます。
ですが、おそらくは大丈夫でしょう。マラカンダの件は、自力で対処できる見通しです。
それと、市民を階級で差別する習慣も、解消すべく努力していますよ。
長い歴史の中で染みついた習慣ですので、すぐにとはいきませんが、シェリング君などからも意見を聞きながら、できるだけ全ての市民に納得してもらえる施政を、鋭意模索しています」
「その言葉をうかがえて、嬉しく思います。
定住民内部での差別問題は、保安機構としては常に悩みの種ですから。
解消の姿勢を見せて頂けると、安心できます。
シェリング君も、あなたがとても協力的だと評価していました。2級や3級とされていた市民の実情や要望を丹念に聞き届け、それを全ての1級とされている市民に伝え、改善の必要性を、言葉を尽くして繰り返し説明してくれていると」
「ええ、プルシャプラ内部の身分差別は、少しずつでも着実に解消してみせますとも。
地球連合に属す各勢力の施政を、手本にもします。
マラカンダの束縛を跳ね返し、帝国や諸勢力との交易の果実が着実に手に入るようになれば、そのことに取り組む余地は必ずできます。
この件にも、宇宙保安機構のお手を煩わせることは、無いと言って良いでしょう。
ま、私としては、できれば宇宙保安機構に、航宙民族を根絶やしにして頂きたいのですが、能力的には可能でも、それは保安機構の基本方針にそぐわないのでしょうな」
「根絶やしの要望は、申し訳ないが、受け入れかねますね。
宙賊に辛酸を舐めさせられ続けた歴史を持つあなた方には、納得のいかないことかもしれませんが、航宙民族が全て宙賊というわけではありませんし、今は宙賊をやっている航宙民族も、説得によって更生させられる可能性が全く無いとは、我々は考えていません。
プルシャプラが宙賊に苦しめられぬようには、全力で取り組みますので、それで御容赦頂きたいと思います。
・・・・・・あ、そうだ。それについて、今思い出したのですが、イゴル大尉から気になる報告を受けていました。
プルシャプラの交易に関する情報が、どうやら宙賊に、筒抜けになってしまっているようですね。
ミス・アナスタシアの証言を細かく分析すると、宙賊はかなり詳細に、交易路や交易船のタイムテーブルを熟知していて、効果的な待ち伏せをしていたようです。
プルシャプラから宙賊への、情報漏洩の経路を突き止めて遮断することが、現時点では最優先の課題ではないかと、勝手ながら推察しています」
「そうですか。確かにそれは、深刻ですな。
全市民への調査を実施する必要が、出て来るかも知れない。これは大変だ。早速着手せねば。
貴重なご忠告、感謝いたしますぞ」
今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2024/1/13 です。
マラカンダという名も、ずいぶん久しぶりに登場したので、記憶が定かでない方もおられるかもしれません。
プルシャプラに戻ってきて、同地で積み残していた課題を清算しようとして出てきた名前です。
今回のロザリオたちの旅で最初に訪れたのがプルシャプラであり、セシリアが拉致されたとの情報をここで受け取りました。
この情報がもたらされる前までは、プルシャプラの抱える問題に対処しようとしていました。
その一つが、マラカンダへの従属というものでした。
かつて航宙民族の支配下に置かれ隷属させられた時代が、プルシャプラにあり、その宙賊をマラカンダが追い払ったことで、プルシャプラはマラカンダに逆らえなくなってしまったのです。
帝国と和解したことを理由に、マラカンダにも大きな顔で臨めるようになったとゲオルグ・ガルシアは説明しています。
これに対し、いかにも危ういなとか怪しいなとか、読者様に思ってもらえていなければ作者の失敗です。
要するに伏線を張っているわけで、それを後書きでカミングアウトする作者なぞいない気もしますが、どうせバレバレの伏線なのだから良いということにしました。
読者様に、「おいおいゲオルグ・ガルシア、大丈夫なのか、そんなんで」くらいに思って頂けていると、作者の狙い通りなのです。
それと、ターロック・マクロクリンがセシリアをプルシャプラに連れてきた理由とか、セシリアを宙賊に拉致させる作戦を誰が考えたのか、と言った記述もありました。
なんだか複雑にこんがらがってややこしい感じだったかもしれませんが、これも当然今後に必要な伏線となるので、なんとなくで良いので頭に入れておいて頂きたいです。
これだけ長い物語の終盤となると、多数の伏線が絡み合ってこんがらがり、読者様に負荷をかけてしまうことは避けて通れないのだと思います。
こんな言い訳をご了承頂き、読み進めて頂けるとありがたいです。




