第73話 Story about スパルタクス 15
「本当に良いのだな、タルマシリンよ? これで大丈夫なのだな、バイルク族は」
気づかわしそうに、ポフダンは問いかける。
「おう・・・・・・いや、ええ、我らの、新たなる族長様」
「そうかしこまるなって、タルマシリン」
族長とは打って変わり、ドラヴァレットはいつも通りの明るい口調。「マゼーパ族じゃ誰だって族長と、砕けた調子で話すんだからよ。
ま、と言っても、肝心な時にはきちっと命令に従ってもらうけどな」
「それは、もちろんだ。スパルタクス殿の配下として、マゼーパ族の為に精一杯働かせてもらう」
かつて上官だった者を部下に持つのは、気持ちの落ち着かないものだとの意をこめて、スパルタクスはドラヴァレットに肩をすくめて見せた。
マゼーパ族に不正を暴かれた上に、逃亡の濡れ衣も解消し切れず、バイルク族はバクトラ王国内での序列を大幅に引き下げられた。
その上に、罰として幾つもの武装船や軍事施設を接収されてしまった。
そこへ、バイルクへの積年の恨みを燃やすカルルク族などが、この機を逃すまじと徒党を組んだ意趣返しの攻撃を仕掛けた。
結果としてバイルク族は、長をはじめ主要な幹部をことごとく殺害され、存続をも危ぶまれる状態に陥った。
残った中で最も立場の高かったタルマシリンが、臨時の族長代行に就任したが、彼の名望や実績では一族の結束を維持できそうになかった。
そこでタルマシリンは、マゼーパ族の傘下に入ることを選んだ。
アールパード族との同盟やそれを中核にした巨大連合国家構想の件も耳にしていたタルマシリンは、長いものに巻かれる道を選び、ポフダンにそのことを申し入れた。
バクトラ王国の変革を志す部族の会合があると聞きつけ、その場に自身で乗りつけ、会談を終えた直後のポフダンに直談判したのだった。
「マゼーパの側から見れば、吸収合併した形だな。
それにしても、かつてコマンダーとして従った男が部下とは。それも、優秀なコマンダーとは思えなかった男がな」
「そう言ってくれるな、スパルタクス殿。
コマンダーとしての能力が低い分は、フットワークの軽さでカバーして見せるさ。
何でも言いつけてくれ。スパルタクス殿の為なら、わが命も顧みない大車輪の働きを見せると約束する」
「本当にいいのだな?
我がマゼーパ族は、お前たちの族長を殺したカルルク族とも、手を組むのだぞ。
あの一族も、バクトラの変革に賛同しているからな。
今回の会談には参加していなかったが、マゼーパ族がアールパード族と同盟したことを遅ればせながら知ったのに加え、会談の直前にもたらされたアールバード族と帝国の和解の報なども聞きつけ、マゼーパに付いた方が得だと彼らは計算したようだ」
「カルルク族を恨む気持ちなんぞ、俺には全くないぜ、スパルタクス殿。
そもそも、バイルクの前族長が欲に目をくらませて、カルルクの恨みを買うようなことを散々やって来たのだ。
殺されたところで、自業自得というもんだ」
自分もカルルク族からの搾取で私腹を肥やしただろうに、調子のいい奴だとスパルタクスは思ったが、その件はとりあえず水に流そうと話題を切り替えた。
「定住民は略奪の対象という、バイルク族も賛同していた考えも、捨ててもらうぞ。
アールバード族が中核の連合国家では、航宙民族も定住民族も、対等の立場で意思決定に参画する。
その中で我らマゼーパ族は、1つの地方政権を担う予定だ。
現在バクトラ王国とされている領域を管轄域とした、新国家の中でも巨大な構成部類に属するものになるであろうが、あくまで1つの地方政権に過ぎない。
それの幹部の1人の部下という立場だから、以前のような優越感や役得は、望めないと覚悟しておけ」
この言葉に対するタルマシリンの頷きは、大袈裟すぎる分胡散臭く感じられたが、黙って彼の言葉を聞くことにした。
「ああ、それはもう、承知の上さ。
アールバード族やマゼーパ族の色に、綺麗に染まってみせるよ。
バイルク族の頃の考え方とも生活水準とも、きれいさっぱり手を切ることにするさ」
今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2024/1/6 です。
またまた久しぶりの名前が出てきました。
タルマシリンですが、この名前は、特に憶えて頂かなくても、今後に余り影響ないかもしれません。
一応説明しておくと、バクトラ王国に属していたバイルク族の幹部で、セシリアを拉致した時の略奪戦においてスパルタクスの上官だった男です。
バイルク族はバクトラ王国内では新参者であるにもかかわらず、めきめきと力を着けて序列を上げ、カルルク族を始めとしたバクトラの他部族を圧迫してもいました。
マゼーパに不正を暴露されたのを機に、弱体化してしまったということです。
出る杭が弱みを見せれば打たれるのが当然ということで、カルルク族に族長を殺される痛手を負わされ、崩壊寸前だったわけです。
スパルタクスたちがニーシャプールの件に首を突っ込んでいる間に、遠く離れたバクトラ王国でそんな事件が起こっていたのだとご理解ください。
バクトラの構成部族が少しずつ、スパルタクスたちの側に寝返って来ることを描くための象徴的な存在として再登場させましたが、コイツはちょい役に過ぎません。
こういうのも後書きで書くようなことではないような気もしますが、読者様の負担を最小限に抑えようとの試みだと受け取って頂けるとありがたいです。




