第62話 Story about ロザリオ 14-3
チーフ・ミハルの長い演説の後には、もっと長い沈黙が訪れた。
ガウベラ帝国の戦闘艦からは、なかなか返事が来なかった。だが、
「修繕も見送りも不要だ。我らは自力で帰還できる。
そしてお前たち宇宙保安機構のくだらない理想論など記憶する価値もないので、早晩忘却するであろう。
お前たちこそ覚えておけ。我がガウベラ帝国は、いつか必ず宇宙保安機構を打倒する。
周辺諸勢力も支配し続け、巨大帝国であり続ける。
対等の関係など有り得ぬ。
我らガウベラ帝国の民は、生まれながらに貴様らや周辺諸勢力に優越した存在なのだ」
こんな言葉を置いて、帝国艦は帰途に就いた。
モニター上にそれを確認するキョセ・ミハルの顔は、受けた言葉と裏腹に、明るいものだった。
「あんな無礼なこと言われたのだから、プロトンレーザーの一発でもぶち込んで、痛い目にあわせてやればよかったんじゃないのか? 」
シェリングは口ではそう言ったが、その眼を覗き込んでみると、チーフ・ミハルの長い演説に、思うところがあったようだとロザリオには見受けられた。
「全面否定、完全拒否って感じでしたね、ガウベラ帝国の態度は」
ロザリオの方は、素直に残念な気持ちを口にした。
「口で言ったことが、必ずしも本心とは限らないのが人間だ。
特に相手は、一国の軍の司令官の地位にある者だ。部下たちの目もあるのだから、自分たちを打ちのめした相手の口車に乗るなんて様を、見せるわけにはいかないだろう。
だがもしかしたら、彼の心の底に、何かが響いたかもしれない。
今すぐは受け入れられなくても、後の人生で様々な経験をする中で、今の言葉を思い出すかもしれない。
あの演説を聞いたのが、敵の司令官だけであるわけもない。
聞いた者の全てが、完全拒否をし続けるということも、無いかもしれない。
いつか誰かが、何かしら肯定的な受け止め方をしてくれるかもしれない。
今一兵卒に過ぎない誰かが、将来然るべき地位についた時、あの言葉に意味を与える行動を起こしてくれるかもしれない。
あの司令官がガウベラ帝国の皇帝テメノスに、私の言葉を伝えてくれるかどうかは分からないが、記録に残っていない訳もないから、祖国の誰の耳にも入らないということは無いはずだ。
その誰かががいつか、皇帝の耳に私の言葉を届けてくれるかもしれない。
だから、完全拒否されたといっても、無駄だったと決めつけることは無いのだ。
私はこうやって、無駄かもしれない説得をこつこつと粘り強く繰り返していくことでしか、平和というのは創造できないと思っている。
安易に力に頼ってはいけない。武力はもちろんのこと、経済力でも発言力でもいかなる種類の権力でも、力での効果は、時間的空間的に限定されたものにしかならない。
それは、何かを壊す機能はあっても育む機能はない。
平和は、育むものだ。
力を振るってしまっては、何かを壊し、誰かを傷つけてしまう。
怒りや恨みが、必ず生じてしまう。
それらは、平和創造を阻害せずには置かないだろう。
だから平和創造には、無駄としか思えないような地道な説得を、命と声が続く限り繰り返して行くしかないのだと私は思う。
一時の感情に流されて力を振るったのでは、決して手に入らないのが平和だ。
馬鹿げた理想論だとガウベラの司令官は、私の言葉を評した。
私自身、何と青臭い理屈だろうかと思う。
それでも、間違ってはいないと信じている。
人間というものの真実の、少なくとも一端くらいは含んでいたはずだ。
そういう言葉を、声の届く範囲の相手に、繰り返し伝える。
私は、そんな活動を続けて行くつもりなのだ」
首を大きく縦に振りながら聞くロザリオの隣で、シェリングの方はピクリとも動かずにいたが、心は、彼の方が大きく揺さぶられていたかもしれない。
「チーフ」
サーベイランスのトクマクが、その時大きな声を上げた。「正体不明の飛翔体が複数、こちらに接近してきます。
航宙民族のものとは思われますが、識別は不能。
保安機構の知らない部族の可能性がたか・・・・・・」
「チーフ」
コミュニケートのマニエラも、トクマクにかぶせるように報告。「接近中の飛翔体から着信、アールパード族と名乗っています。
ニーシャプールの防衛に助太刀すべく駆け付けたそうで、現状の説明を求めています」
「なんと、アールバード族とは。会えてうれしいが、間の悪い、という印象もあるな」
チーフ・ミハルは苦笑した。
バーラーブとアールパード族の会談に立ち会うという予定を、少し前に立てた彼らだから、バーラーブの者がいないときにアールバード族と出会うのは、間の悪い話に違いなかった。
帝国との戦いの経緯や経過を説明したのに続いて、チーフ・ミハルは、ニーシャプールの防衛部隊の修繕を手伝った上で、ホームである天体都市に送り届けるつもりだと告げた。
「ずいぶん感謝されていますわ」
マニエラが、アールパード族の反応を伝える。「命懸けの戦いを避けることができたことにも、ニーシャプールに人的被害が出なかったことにも、修理や護送に対しても。
でも、何か見返りを求めてのことか、なんて言葉も付いていますけど」
「ははは・・・・・・、そう思うのも無理はないか。
見返りなど求めないが、1つお願いができるとしたら、今回帝国に従った諸勢力については、恨まないでやって欲しいということかな。
怒るより、非難するより、立場を理解して同情してやって欲しい。
そして、今後どうするのが皆にとって良いのかを、共に考えようと呼びかけてやって欲しい」
マニエラがその通りの言葉を通信で送り出した十数秒後。
「直接の対話を、先方が求めてきましたわ、チーフ」
「うむ、出よう」
「了解・・・・・・では、どうぞ」
マニエラに促されたチーフ・ミハルが声を出すより先に、通信機から声が聞こえた。
「私はアールパード族の長、ロカレーンだ。
宇宙保安機構のチーフ・ミハル殿、あなたとは、とことん語り合ってみたい」
「望むところです、アールパード族長ロカレーン殿。
じっくりと話をしましょう」
今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2023/10/21 です。
自動修繕ロボなるものが、言葉だけは出てきて実物は出てきませんでした。
人型のロボットを想像された方もおられるかもしれませんが、作者は宇宙船の修繕をするロボットが人間の形をしている必要があるとは思っていません。
数千年もの未来を描いたSFなのだから、もっと人型のロボットがあちこちに登場しても良いのではとの意見もあるかもしれませんが、作者自身がロボットに人の形をさせることの意味が分かっていないので、登場していません。
物語世界のどこかに人型のロボットは居る設定になっていますが、登場人物たちの視界には入って来ないのだと認識して頂きたい、ということは以前にも書いたかと思います。
現代では、人型のロボットを作ろうとする試みは、多く成されていると作者は認識しています。
ですが、技術が完成し、ほぼ人と見分けのつかないくらいのロボットができた時には、ロボットに人の形をさせてもしょうがなかったと多くの人が気付き、その技術は使われなくなる、というのが作者の予想です。
まだ人型のロボットが無い時には、人の形のロボットにして欲しいことがあれこれと思いつくかもしれませんが、人型ロボットができてしまえば、やはりそれらは本物の人がやらないと意味がない、ってことになるのではないかと思うのです。
SF小説書いているくせに夢がない奴、と思われるかもしれませんが、リアリティーを追求した未来を夢に描きたい奴なのだとご認識頂きたいと思います。




