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銀河戦國史 (迷走の北辺暗黒天体群域)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
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第46話 Story about ロザリオ 8-3

「私は、宇宙保安機構調査部4課2班のチーフ、キョセ・ミハルと言います」

 感情を煽るような相手に対し、淡々と事務的に彼は話した。「ご尊顔を拝見できて、光栄です、閣下。


 実は参加希望では御座いませんで、何とも恐縮なのですが、現在我らが取り組んでいる課題において行き詰まっておりまして、お力添えが頂けないかと思いまして」


「わはは、そうでしょう。

 保安機構のごとき軟弱な方針では、行き詰まる課題が山積みでしょう。

 何なりとご相談ください。できる限りのことはしましょう。

 そしてその後には、我が事業への参加を、検討して頂けると幸いですな」


「有難う御座います。早速ですが、アガデ星系において失踪した女性で、プルシャプラという天体地中都市に滞在していたことも確認された、セシリア・ヴェールという女性のことで、深刻な困難に行き当たっているのです。


 閣下が弱腰とおっしゃる保安機構の方針の為に、手が打てずにいます。

 この状況を打破できるのは閣下しかおられないと判断し、こうして相談させて頂いております」


「なるほど、セシリア・ヴェール・・・・・・プルシャプラにいた」

 手元のコンソールで、確認している様子のターロックだ。「そうですな、宙賊に拉致された女性の救出となると、保安機構には手に余るでしょうな。

 武力は極力使わず、友好関係の樹立を期するなどと言っているようでは、拉致された女性を救えるわけがない。


 お任せください、このターロック・マクロクリンが、数日内にプルシャプラとバーラーブを結ぶ宙域に大戦力を派遣し、拉致した宙賊を見つけ出し、壊滅させましょう」


「おお、さすがは閣下。プルシャプラやバーラーブなどという、地球系では知る者も滅多にいない宇宙系定住民のことも、よくご存じのような口ぶりですな」


「もちろんです。宙賊征伐の事業に乗り出して以来、北辺暗黒天体群域の宇宙系人類には、広範な人脈を築いております。プルシャプラやバーラーブの宇宙商人ともね」


「素晴らしい。そんなあなただから、アガデ星系の孤児院に勤めていた女性を、嘘で騙してプルシャプラに向かわせるなんてことが、できたのですね。

 更にプルシャプラからバーラーブに向かわせるようにも仕向け、宙賊に拉致させるなんてこともできた」


「・・・・・・は? な・・・・・・何の、話ですかな」


「とぼけても無駄です。あなたと秘書との通信記録から、あなたがミス・セシリアを騙して、プルシャプラ経由でバーラーブに向かわせ、宙賊に拉致されるように仕組んだことは、裏付けが取れています。

 ついさっき機構本部から、連絡が来ました。」


「な・・・・・・何を言っている? 何の話だ。そんなことは知らん。誰だ、セシリアとは。何だ、拉致とは。そんなこと」


 キツネにつままれたような、とはまさに、こんな顔だろう。

 口角は上がったまま、ニンマリとさせた状態のまま、目だけを点にしたターロックがしどろもどろに応じた。


「はて? 今ご自身の口で、おっしゃったことですぞ。この通信も記録が残ることを、心に留めてください。


 その上で伺いますが、なぜ、ミス・セシリアが宙賊に拉致されたと、分かったのですかな?

 私は、ミス・セシリアのことで行き詰まっていると申し上げただけで、拉致されたとも、その相手が宙賊だとも、一言も申し上げていなかったのに。


 宙賊に拉致されたということは、我々がここにきて初めて知り得た事実であり、未だ本部に報告も上げていない情報です。

 それをなぜ、あなたがご存知で?

 しかも、大規模戦力の派遣までをも二つ返事で申し出て下さった。


 自分が拉致されるように仕向けた女性を、自分が救出して見せて手柄とする、というところまでが、あらかじめ計画されていなければ、このような反応は有り得ないと思いますが」


 ターロックの顔が、見る見る青ざめて行く。

「いや、それは・・・・・・その、知らんぞ。何のことだ。私は何も・・・・・・」


「弁明は、惑星国家パータリプトラの行政当局に願います。


 市民を拉致させるという非道は、かの国の法でも認められていますまい。

 孤児の救済を願う気持ちにつけ込み、自分の野望の為に無辜の民を危機に晒すなどは、どこの国でも言語道断の犯罪行為です。


 更に、ガウベラ帝国と密かに通じていた証拠も見つかったそうです。

 これなども、地球系のどんな国にも裏切りと見なされるでしょう。


 それらの決定的証拠が、今頃は、機構本部からパータリプトラ行政府に送信されている頃です。


 私どもも、たった今の閣下のお言葉を、証拠としてパータリプトラ行政府や保安機構本部に、提出するつもりです。

 あなたが、ミス・セシリアが航宙民族に拉致されたのを知っていたことや、それを知るや否や大戦力の派遣を言明なさったことを、動かぬ証拠と言える映像資料として、提供させて頂きます」


「ま・・・・・・待て、待ってくれ。違う。誤解だ。いや・・・・・・何が欲しい? 何が条件だ? お前たちの目的は、何だ? 」


「我々のことは、お構い頂かなくて結構です。

 近々、惑星国家パータリプトラの行政府から連絡があると思いますので、閣下はそちらに、注力されるべきでしょう。

 然るべき連絡が来るのを、お待ちくださ・・・・・・あ」


 言葉を切ったチーフ・ミハル。絶句しているマクロクリン。「私としたことが、大事な言葉をつけ忘れていました。ターロック閣下、然るべき連絡を、首を洗って、お待ちください」


 黙ったままのターロックを睨みながら、チーフ・ミハルはコンソールを叩いた。

 通信は閉じられた。

 今の出来事を飲み込むのに、ロザリオには数分の沈思黙考が必要だった。


「これは・・・・・・ターロック・マクロクリンの失脚は、決定的ですか? 」

「そうなるだろうな。あんな犯罪行為が明るみに出ては、失脚どころかパータリプトラを追放される可能性が高いな。


 あの小隊がパータリプトラに到着する前に、ターロックは失脚しているだろう。

 私は、私の同僚や君の学友を、路頭に迷わせることをしたのかもしれない」


 ターロック・マクロクリンをやり込めたことに、僅かの喜びも感じていない様子のチーフ・ミハルが、さっきまでと変わらない沈んだ声で、淡々と話した。


「でも、チーフが何もしなかったとしても、ターロック・マクロクリンの失脚は、変わらなかったのでは? 」


「そうだな、ロザリー。捜索チームの仕事に、横やりを入れてしまった格好だ。

 感情的になって、余計なことに首を突っ込むとは、後で捜査チームから、苦情を言われるかもしれないな。

 それに、オーエンたちが合流する前に、彼らの新天地を奪ってしまうなんて」


「合流した後の方が、もっと最悪なタイミングでしょう」

 考える目のロザリオが言った。「合流してしまえば、最悪、オーエン大佐やショーンたちも、ターロックの共犯ってことになってしまったかもしれない。


 突如行き先が無くなって戸惑うかもしれないけど、それはターロックの本性を見抜けなかった彼らの、自業自得でもある、なあシェリング」


「あ・・・・・・ああ。ヤツの本性を見抜けなかったのは、俺も同じだけどな・・・・・・はは」


 彼らの言葉が、チーフ・ミハルを僅かにも元気づけていないのを見て取ると、彼らも沈黙するしかなかった。

 また、気まずい静寂の時を、ロザリオは過ごすことになった。


 自室に戻り1人になったロザリオは、ターロック・マクロクリンが失脚するであろうということに、自分自身も全く喜べていないのに気づく。

 ショーンたちの身を案じる気持ちもその理由の1つだろうが、もっと大きな理由があるようだ。


(セシーをプルシャプラに向かわせたのは、ターロック・マクロクリンなんかじゃない。

 その責任は、もしかしたら、俺にこそあるのかもしれない)

 走り去る背中を思い出すと、ロザリオは自責を止められない。


 彼女が駆けて行った、トラペスント星系にある公設スクールの廊下が、そのままプルシャプラへと繋がっていた。

 荒唐無稽ともいえるそんなイメージが、ロザリオの中で固着しつつあった。


(傷つけたセシーから離れて、俺は今、バーラーブなんて遠い場所に・・・・・・でも)

 ロザリオは、別の可能性もあったことを思い出した。(そうだ、セシーはもしかしたら、培養奴隷の実態を突き止めるために、ターロックの秘書の言葉など嘘だと見抜きつつ、危険を覚悟でプルシャプラやバーラーブを目指したのかもしれないのだった)


 こんな考えと、バーラーブを目指して艦が加速したことによる重力が、ロザリオの気持ちを少し前向きにしてくれた。


(とにかく今は、情報を集めるしかない。バーラーブで、それをしっかりやろう)

 遠ざかる宿場天体ハミをモニター上の模式図で確認しながら、ロザリオは、自分のやるべきことに専念する決意を新たにした。

 今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は 2023/7/1  です。


「惑星国家」という言葉が当たり前のように出て来ていますが、この物語では「星団帝国」とか「星系国家」とかといった、様々な形態の国家を登場させています。


 現実世界にも、「都市国家」や「島国国家」や「大陸国家」や日の沈まぬ「世界国家」など、様々な国家が歴史上に登場し、現在も実存しています。


「惑星国家」は、国家としての最小単位くらいのイメージで、歴史上の都市国家と同じようなものに考えて頂いて良いかもしれません。

「都市国家」は数千人くらいで、住民のほとんどが国家元首の顔を肉眼で見たことがある、くらいの規模をイメージすれば良いのではないでしょうか?


「惑星国家」のネーミングからは、惑星が丸ごと一つの国家という意味も見出され、地球上が一つの国家にまとまった状態をイメージしてしまうかもしれず、そうなるととんでもない巨大国家ということになってしまいます。

 ですが、物語の中に登場する地球以外の惑星は、地球みたいに惑星全域に数十億の人が住んでいる状態ではなく、惑星の一部に、せいぜい数百万人程度が住んでいる、といったイメージで考えて頂けると幸いです。


 現実の歴史の中にある「都市国家」より人数が多いのは、未来のことだから当然と受け止めて頂きたいです。

 住民のほとんどが肉眼で元首の顔を見たことがあるくらいの規模、という意味では「都市国家」と同質のイメージにもなるかもしれません。


 惑星の一部に人が住みつくというのも、いろんな形が考えられ、物語世界の中でも多くの形態が存在するという設定を、作者は考えています。

 最初の頃に出てきたミナブ星系第3惑星は、地表にいくつかの巨大ドーム都市が建設された状態でした。


 ロザリオとセシリアの故郷である地底都市は、トラペスント第2惑星を周回する衛星に創り込まれていました。

 惑星自体には人が住んでいるのかとか、他の衛星にも都市は作られているのかなどの言及は無かったかと思いますが(記憶がやや曖昧ですが)、惑星単位での政治的まとまりに所属している可能性はあります。


 ミナブ星系第3惑星にしろ、トラペスント第2惑星の衛星にしろ、どいう国家に所属する都市なのかは、明言しないままです。

 星団丸ごと一つを領域とする国家に属しているかもしれませんし、星団内に複数が乱立する中の一つの国家かもしれません。


 星団に属さない遊離星系が星系国家を形成していることもあれば、幾つかの遊離星系が連合して一つの国家を標榜している場合も、物語世界ではあり得ます。

 現実の歴史を下敷きにして作り上げた、未来の宇宙のこんなイメージを、どうにか一人でも多くの方に共有して頂きたいと、作者としては願わずにいられません。

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