第34話 Story about ロザリオ 5-5
「3日前に出航した船など、十隻以上ある。決めつけるのは早いぞ。だが、確かめてみよう。
スペースポートに設置された監視カメラの映像で、確認できる」
言いながらゲオルグが補佐官の一人を見ると、その者が直ちに自分の端末を操作した。
「数分で、映像がこちらに転送されます。あ、そして、襲われた交易船に関する追加情報も来ました。
どうやら、何者かが船の通信システムを勝手に操作して、宙賊をおびき寄せる電波を出したらしいです。
それで、あのような位置で、見つかってしまったと」
「何だとっ! 馬鹿なマネを。自ら宙賊を・・・・・・。自殺行為ではないか」
ゲオルグは、罪のあるわけでない補佐官に、掴みかかる勢いだ。
「電波を発した直後に、その何者かは、小型艇で交易船から脱出したらしいです。
交易船が襲撃されるように仕向けた上で、自分たちは安全な間に逃げた、と言うことでしょう」
「何のために? 何者だ、そいつらは? 」
「もしかしたら」
青ざめたままのシェリングが、更に声まで震わせている。「帝国の密使じゃないかな。
あいつらが消息を絶ったタイミングからすると、3日前の交易船に乗った可能性は高い。
俺たちの船を宙賊に襲わせることで、宙賊への危機感を煽っておいて、帝国と組んで宙賊を撃退しようって気運が盛り上がるように、あの密使たちは企んだのかもしれない」
それらのことが、送られてきたスペースポートの監視カメラ映像で、確かめられた。
襲われた船に導く搭乗ゲートをくぐる人の中に、誰かに連行されている様子のアナスタシアと、シェリングが顔を覚えている帝国の密使2人が、発見されたのだ。
そのことに一同が憂慮を深めている時、チーフ・ミハルは自分の端末を、こちらも憂慮が露な顔で覗き込んでいた。
チーフを横目に監視カメラの映像を眺め続けていたロザリオも、突如として大きな声を上げて驚きをあらわした。
「セシー!」
「えっ? 」
ロザリオに集まった視線は、どれも怪訝な色を含んでいる。
皆が知るところとなっていた名前だが、今ここで出て来る理由の分からない名前でもあった。
ロザリオは、帝国の密使が映った場面で止まっている画面を、見つめている。
「セシーだ。セシーが映っている」
「いや、ロザリー、映っているのは帝国の密使だけ・・・・・・」
「違う、後ろの群集。その右端の辺りを拡大してくれ」
搭乗ゲートをくぐる人の後ろには、同じ船への搭乗を待つ人々が映っている。その人々は、顔の識別どころか、1人1人の境界すら判然としない。
だが、ロザリオは身を乗り出して画面の右端の一点を指さし、そこの拡大を視線で懇願している。
乞われた通りに、補佐官は画面を拡大する。
ロザリオやチーフ・ミハルの席からは正面で、補佐官たちの席からは背後にある大画面の中で、映像がどんどん拡大する。
数倍も拡大して、ようやく人の顔であることがはっきりする。
十倍以上にまで拡大して、どうにか顔かたちの識別も可能となる。
可能となってみると、明らかにプルシャプラの人間ではなく、地球系に間違いないと分かる顔があった。
熟れすぎたバナナに線だけで目鼻を描いたような、とロザリオが感じた顔が並んでいる中に、ふっくら丸みを帯びた愛らしい輪郭。そしてロザリオには、たまらなく懐かしい顔。
「セシーだ。間違いない。なぜこんなところに?
襲撃された船に乗っていたとしたら、拉致された可能性も出て来るじゃないか。こんなこと、あり得ない」
「それだがな」
チーフ・ミハルが、沈んだ声を滑り込ませた。「いま機構本部からの情報が、ポドルムを経由して届いたのだがな、それによるとミス・セシリアが、ある宇宙系の天体都市に担当孤児の親類がいるという理由で、行ってみたいと言っていたらしい。
その都市の名は分からないそうだが、地球連合が認知していない宇宙系の民族が築いた天体都市であることは間違いないとも」
「それが、プルシャプラだったってことですか? 」
「いや、プルシャプラはあくまで、目的の天体都市への中継場所のようだな。
彼女がよく利用していた飲食店の従業員から、そんな証言を得たと、捜索チームから報告があがったそうだ。
ターロック・マクロクリンの秘書とかいう男と、その飲食店で、何度かそういう話をしていたのを、従業員は目撃していたらしい」
「ターロック・マクロクリンですって⁉ 惑星国家パータリプトラでの独裁的権力の確立を狙っている男が? この2人に、何の接点が? 」
「地球連合を出し抜いて宇宙系に人脈を広げていた男だから、ここに人を送り込む手段を持っていることには、特に驚かないが、ミス・セシリアに接触を図り、彼女がここに来るように仕向けたなどと言うのは、ほんとに訳の分からない話だな。
担当孤児の親族がここにいるなどと言うのは、あまりに見えすいた嘘としか思えないし」
チーフ・ミハルは腕を組み、考え込んでしまった。
「ターロック・マクロクリンという名の男なら、我々もある程度接触を持ちましたよ」
ゲオルグが口を開く。「直接会ったことは有りませんが、幾つかの宇宙商人を経由する形で、メッセージを受け取ったことが有ります。
宙賊の撃退に、手を貸そうとの申し出です。
特定の航宙民部族の根絶やしも、請け負うとさえ言ってくれました。
ですが、今一番の課題であるマラカンダへの反抗には、頼りにならないと判断し、返事はしなかったのですが」
「ターロック・マクロクリンか。俺も聞いたことがあるぞ。宙賊への強硬姿勢なら、一番の人物だってな。
奴らを根絶やしにできるのなら、手を組むのも悪くはない」
シェリングの、低いつぶやきだ。
「いや、あいつはただのインチキ野郎だ。関わらない方が良いぞ」
ロザリオはたしなめる。だが、
「じゃあ、宇宙保安機構が、宙賊を根絶やしにしてくれるのか?
俺は、父親も宙賊に殺されているから、あいつらを根絶やしにしてくれそうな勢力は、何だって支持するぜ 」
「父親を、か。それは、恨むのも無理はない。だが我々は、いかなる勢力も根絶やしなどはしない。友好関係を結ぶことを、第一の目的とする」
チーフ・ミハルがきっぱりと言い切る。
「そんな。野蛮な宙賊を相手に、友好なんて求めてどうする」
吐き捨てるような。シェリングの言葉だ。
「根絶やしなんて、できないさ、ターロックにも宇宙保安機構にも。だけど」
諭すようなロザリオの声に、ここから一転して力がこもる。「3日前に襲撃して来た宙賊の捜索なら、今すぐ俺たちでやれる。そうでしょ、チーフ・ミハル」
「そうだな。まずはそれだな。
ミス・セシリアが拉致された可能性があるからには、我らは何を差し置いても、まずはその宙賊を探さねばならん。
それに、アナスタシアというお嬢さんをはじめ、拉致されたプルシャプラの人々がいるなら、その人たちの救出にも全力を挙げる義務がある。
こうして、プルシャプラとの友好関係を結ぼうとしているからには」
「そうだ。ターロック・マクロクリンがどんな奴で、どうかかわっているのかなんて、後回しだ。
まずは、セシーたちを襲った宙賊の捜索だ。行きましょう、チーフ・ミハル! 」
マラカンダ行きのことも3級市民との会談も、とりあえずは忘れ去られてしまった。
チーフ・ミハルもロザリオも、襲撃した宙賊を見つけることで頭がいっぱいだ。
「うむ、大至急ボドルムに帰還して、拉致された人々を追うぞ。
ゲオルグ殿、そちらの船が襲撃を受けた場所の、座標を教えて頂けますかな」
「ええ、ただいま」
「俺も連れて行ってくれ! 何もできないけど、じっと待っているなんて嫌だ」
シェリングがロザリオを、懇願の眼差しで見つめる。だが、彼に決定権はない。
ロザリオはキョセ・ミハルに視線を転じた。
「いいだろう。ボドルムへの同乗を許可する。
アナスタシア嬢たちを追跡して見つけるのに、君の助言が必要になるかも知れないからな。」
言う間に、チーフは座標データの受信を端末上に確認した。「ではロザリー、シェリング君もつれて、ここから更に新たな座標へ向けて、転進だ」
今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2023/4/8 です。
物語が一気に収束しました。
セシリア、ターロック・マクロクリン、ガウベラ帝国といった、別々だと思われていた事象が、プルシャプラという一点に関連付けられました。
忘れかけていたようなことまでもがいきなり一点に集まって来て、混乱されている読者様もおられるでしょうか?
セシリア・ヴェールが実はプルシャプラに来ていて、そうなるように仕向けたのはターロック・マクロクリンだったのです。
航宙民族に対して強硬姿勢の惑星国家を、もっと強硬にして航宙民族を殲滅してやろうと息巻き、独裁的権力を手中にしようとしているターロックが、なぜかセシリアをプルシャプラに連れて来た。
そのプルシャプラでは帝国が、マラカンダに搾取されているという弱みに付け込むことで、影響力を浸透させようと画策している。
少しややこしいかもしれませんが、これくらいのことを認識して頂いていれば、今後のストーリーにはついて行けるのではないかと思います。
あと、ロザリオはなぜ、セシリアが画面の中に映っていることに気が付けたのか(顔の見分けどころか人と人の境界さえ識別できないような映像なのに)、についても、頭の片隅にクエスチョンマークと共に置いておいていただけると嬉しいです。
こんなこと後書きで描くのは、本当にもう反則でしかないかもしれないが、回収される伏線であることを吐露しておきます。
伏せておいてこその伏線をバラすとは…でも、完全に忘れ去られてしまっても成立しないし…後書きで描いても本編では伏せられてるから伏線は成立しているという苦しい言い訳を、ここでは押し通しておくとします。
色んなことを覚えてもらわないと物語は描けないけど、読者の頭の中の記憶は作者には確認できない。
小説を書くって、本当に難しいなあと実感しています。




