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銀河戦國史 (迷走の北辺暗黒天体群域)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
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第30話 Story about ロザリオ 5-1

「天体地中都市プルシャプラが探知圏に入るのは、間もなくと推測されます」


 シップコントロールのヤックが報告する声を聞き、ロザリオは顔を紅潮させた。

 民間の交易船においてではあるが、航宙経験の豊富なシップコントロールの声は、自信に満ちていていつも安心感を与えてくれるのだが、この時ばかりはやや効果が薄かった。


 アクティブなレーダー探索で、ようやく目的の天体は補足できた。パッシブでは見つけられない。

 電磁波をはじめ、あらゆるエネルギーの放射が極めて少ないのだ。


 恒星が近くにないから、それの反射で見つけることもできない。

 天然の放射も反射もほとんどない上に、そこに住む人々も、極力放射を出さないように心がけている。見つからないということが、最大の安全対策となっているから。


 航宙民族の跋扈する宙域である銀河北辺において、恒星の無い「暗黒天体群域」と呼ばれる場所を住処とするのは、そういった事情によるのだった。


「いよいよ、初接触の時ですね、チーフ・ミハル。どんな反応を見せるでしょうか? 」

 少し上ずった声で、ロザリオは問いかけた。

 宇宙保安機構の活動域の北限から、更に北へ2か月もの旅をして、地球系人類には未踏と言える宙域に深く分け入ったのだから、無理もなかった。


 問われたキョセ・ミハルの方は、ロザリオと違って落ち着いた表情だった。

「事前に、こちらの訪問は報せてあるからね。拒絶するつもりなら、とっくに何かの反応があったはずだ」


「すんなりここまで来られたからには、コンタクトは受け入れてくれているってことだ、心配しなくていいよ、オフィサー・ロザリオ」

「心配なんかしてないさ、ヤック。楽しみだなって、思っていただけだよ」


 シップコントロール担当者の、気持ちをほぐそうとする意図を持った温かい冷やかしに、ロザリオは柔和な笑顔で強がった。

 宇宙系の彼は現地採用の武官として、キョセ・ミハルの指揮下にボドルムの操艦を受け持って久しいそうだ。


「訪問の意志をプルシャプラに伝えてくれたのは、我がトンラ族が長年付き合いのある宇宙商人だ。

 彼らが否定的な態度なら、その商人だって何か言ってくるはずだ。

 特に連絡がないところからしても、彼らは訪問を快く受け入れてくれるさ。

 美女の舞い踊る歓迎の宴まで、期待できるかどうかは分からないがな」


 いたずらっぽく片目をつぶって見せた、航宙民族出身の戦闘艇パイロットに、

「あはは、そんな期待はしてないさ、イゴル大尉」

と、ロザリオは笑いで応じた。「ガウベラ帝国の影響を聞き出すのと、できれば地球連合との友好締結に前向きな発言を引き出すのが、今回の俺たちの目的なのだから」


「真面目腐ったこと、言ってくれるんじゃないよ、オフィサー・ロザリオ。

 2か月もかけてこんな遠くまで来て、未知の天体地中都市のエキゾチックな宴くらい期待しないで、どうするんだよ。なあチーフ・ミハル」


「しょうがない奴だな、ハハハハ、大尉は。しかし、宴はともかく、先方が友好関係を望んでくれることは、期待して良いのじゃないかな。


 大尉のトンラ族から得られた情報によると、かつてかなりの繁栄を誇ったプルシャプラだが、強力な宙賊による襲撃と支配の時期を経て、今ではずいぶん衰退してしまっているというではないか。


 更には、宙賊を撃退する際に力を借りた『マラカンダ』という別の定住民族勢力に、従属的な立場を強いられているとも言っていた。


 こんな境遇から抜け出す為に、統治体制における迷走を経験した時期があったとも記されていた。

 独裁体制を志向する集団が起こしたクーデターがあって、それを鎮圧して寡頭制を維持することはできたそうだが、クーデターを実施した集団については宇宙への追放に処したという。


 住民には思い出すのも忌まわしい、黒歴史と認識されているそうだ。

 そんな迷走の結果、従属的立場を自力で脱することに行き詰まっていて、外からの協力を熱望していると予想されるから、地球連合との友好関係は魅力的なはずだ」


「遊離惑星を周回する、天然の岩石衛星に作られた都市ですよね、プルシャプラは」

 表情を引き締め、チーフに応じたロザリオ。「その遊離惑星には、他にも百以上の衛星が周回していて、かつてはその全てから資源を採集して大きな収穫を上げ、2万を超える人口を抱えていたこともあったとか。


 でも今では、半分以上の衛星がマラカンダに抑えられているし、都市の運営にも口出しされていて、逼塞を余儀なくされているって、トンラ族からの情報にはありました」


 ロザリオの言葉に、イゴル大尉も真面目な顔になって、情報を整理する。


「航宙民族による過酷な圧迫から逃れるために、仕方なくマラカンダの力を頼った結果、多くの天体における権益を手放さなくてはならなくなったのだったな。

 その上に交易に関しても、収益の多くをマラカンダに巻き上げられることになってしまった。


 繁栄を誇った頃には近隣の多くの勢力が、定住民も航宙民も含めて、プルシャプラとの関係を密にしたいと望んだものだったそうだが、今ではマラカンダの一部としてしか、認識されていないとも聞く」


「そうなると、マラカンダという集団にも」

 キョセ・ミハルも、思慮に沈んだ眼になっている。「接触を試みる必要が出て来るのだが、大尉のトンラ族は、そちらの詳細情報は持っていないのだったな? 」


「ああ、チーフ。プルシャプラを様々に束縛しているっていうのが、唯一の情報だ。

 プルシャプラと友好的なコンタクトを果たせれば、そちらの情報も得られるかな? 」


 繁栄を誇った頃のプルシャプラは、近隣勢力の中の盟主的な存在で、緩やかな部族連合を形成していたそうだ。

 その盟主の座を、今ではマラカンダが奪った形だ。


 こんなことを話し込んでいる内に、彼らの戦闘艦はずいぶん進んでいた。

 シップコントロールが再び声を上げて報告する。


「教えられた座標に、教えられたとおりの天体が観測されました、チーフ・ミハル」

 円環形式で着座している彼らの中心に、該当する天体群が立体の模式図として投影されている。


 直径約20万㎞に及ぶ巨大なガスの塊の周りを、岩石の塊が百余りも公転している。

 岩石の塊の差渡しは、大きいものは1万㎞近くある。

 事前情報と観測結果が、総合された模式図がそれを示す。


 模式図の表示形式については、チーフのコンソールに優先操作権がある。

 彼が手元のコンソールを叩くと、1つの衛星が拡大され、それ以外はフレームアウトした。


「この衛星の地中に、プルシャプラが作り込まれているわけだ」

 衛星自体もその地中にある都市も「プルシャプラ」と呼ぶらしい。


 そして、衛星プルシャプラの周囲に細かい天体が周回している様も、立体模式図には示されていた。

 衛星を公転しているから、孫衛星と呼ぶことになる。


「これらの孫衛星は、当艦の観測に基づくものだな、サーベイランス」

「ええ、チーフ。トンラ族からの事前情報には無かったものです。

 我々にとって初めての知見となるのが、これらの孫惑星です。

 天然のものと人工のものが、あるようですね」


 サーベイランス担当のコフトが、淡々と答える。

 ロザリオと同じ、養成所出身の生え抜き職員だが、武官だ。


「観測結果からすると、天然のものにも人工のものにも、武装が施してあるものが見受けられるようだな」

 キョセ・ミハルが、いち早く判断した。


 レーダーが捕らえた形状や熱源の分布から、経験豊富なチーフにはひと目で分かるらしい。

 ロザリオにはまだない技能だった。


「だが、その武装の中に、こちらに反応しているものはない。

 どれも稼働中の熱源パターンを示していないし、迎撃に合理的な配置をとってもいない」

 歴戦の戦闘艇パイロットであるイゴルは、更に深い判断を見せた。


「通してくれるってわけだな、あの衛士たちは。では、通るとするぜ」

 シップコントロールのヤックが、接近軌道に導くためのコンソール操作を実施した。

 今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2023/3/11  です。


 プルシャプラの歴史や立地条件など、複雑多岐な情報がドバドバと出てきて、読者様にはさぞかし面倒臭い思いをさせてしまったことと拝察いたします。

 ここに出て来たことは、今後のストーリー展開を理解するうえで重要で、抑えておいてもらいたい情報なのですが、重要だからこそ今後も繰り返して述べられるので、今ここで覚えきる必要はありません。


 読者様に置かれては、歴史と立地条件が細々と説明されていたという事実だけ、ここでは踏まえて頂ければいいのではないかと思います。

 ルール違反かもしれない後書きでの補足説明という作者の悪癖も、今のところは控えておきます。今後どこかでやるかもしれません。


 ここでは、恒星が近くに無い「暗黒の宙域」を選んで暮らしている人々、という設定を強調しておきます。

 従来の未来宇宙の予測や宇宙SFなどでは、人間が住むことになるのは恒星が近くにある惑星と、当たり前のように決めつけられて来たのではないでしょうか?


 この既成概念を根底からひっくり返す発想を、作者としてはアピールしておきたいのです。

 航宙民族という野蛮で暴力的な連中から、隠れ潜むことで安全を確保しようとする人々は、恒星が近くに無いという環境をわざわざ自分から選ぶことになる、という合理的根拠を伴った未来設定です。


 恒星が近くに無いことが、見つからないことの保証になるのか? と思われた読者様もおられるかもしれませんが、太陽系に含まれる惑星は、太陽の反射が無ければ人類に見つかることは無かったのではないかと、作者は思っています。


 こちらからレーダー波等を照射してその反射を見るというやり方は、出力に限界があるし、そもそもそこに何かあることに気付かない人は、見つけようとする努力すらしないだろうから、太陽光の反射は人類が惑星を発見する上に置いては、必須のものだったと思います。


 同じく、恒星による反射が無い天体は、まあまず見つからない、少なくとも猛烈に見つけにくい、とは言えると思います。

 ですから、サラセン海賊が頻出していた時代の地中海沿岸の街が、見つかりにくい崖の上とかに造られたように、恒星の無い暗黒の宙域を多くの人が選んで住み着くという現象は、未来宇宙に置いて論理的に起こり得るという新発想が成立するわけです。


 興味の無い方には、どうでもいいことに思えるかもしれませんが、こういう新発想を提案するというのも、作者にとっては重大な執筆動機となっているので、どうにかお付き合い頂きたいと切望しています。

 そして未来宇宙を予想することを、楽しいと感じてくださる方が増えてくれると、作者はとても嬉しいです。

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