表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀河戦國史 (迷走の北辺暗黒天体群域)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
2/91

プロローグー2

 宇宙保安機構は、単に武力集団であったわけではない。

 文官がいて、宇宙系諸勢力との友好関係樹立を目的に、武力に寄らない活動を展開した。


 侵略の直前には、帝国と地球連合に、友好ムードが高まった時期もあったそうだ。民間交流や相互移住も進んだ。


 そんな折に、帝国内で反乱がおきたのだが、地球連合の一部の人たちが、陰で扇動したり支援したりした結果であると、史料によって裏付けられた。

 挑発行為であったと現代においても認識できると、父は教えてくれた。


 帝国としては、黙っていられなかったはずだ。

「そして戦争が起こり、皇帝に置き去りにされた勇将は座上艦と命運を共にし、培養奴隷のパイロットも勇将と同じ岩石天体で断末魔を迎えた」


 見開かれた骸の眼を見る。悲しんでいるようにも見える。

 父の言葉を思い出す少年。


「培養奴隷はこの時代、帝国以外でも使われていたことが知られている。

 一部の航宙型が最も多く使役していたし、地球系による使役すらあったらしいんだよな」


 資料館提供の説明文を読み進めた先にも、それを示す記事があった。

 展示されている遺体は、航宙型に使役されていた培養奴隷だったと。

 航宙型の1つの集団が、帝国に戦力拠出を要求され、おそらくは渋々という感じで培養奴隷を差し出したのだろうと。


 帝国は、直轄の軍に加えて、領域内外の定住型も航宙型も含んだ諸勢力に、威をもって協力を強制することで、大規模な侵攻部隊を仕立てたそうだ。


「こんな行為が、今でも問題視されている帝国だけど、地球系による挑発があったのなら、一方的な悪者呼ばわりはいけないな。

 皇帝が、勇将を置き去りに逃げたとされる件だって、実は・・・・・・ 」


 これも、父から教わった最新の歴史的知見だ。「皇帝は、最後まで戦場に踏みとどまろうとしたらしいのだよな。

 側近たちが、睡眠薬を使ってまでして強引に祖国へ連れて帰ったことを示唆する史料があるって、父さんが言っていた。

 皇帝にそんなことをした側近たちが、死刑になったことも示されているって。


 側近たちだってきっと、死刑になることを承知で、皇帝に睡眠薬を盛ったのだろう。祖国は、皇帝が死んじゃったらすぐに、バラバラになってしまうと思って。

 自分の命を犠牲にしてでも、祖国を守ろうとしたんだ。


 皇帝だって、権威が落ちて国が衰退するのを避けるために、戦争に打って出た。科学技術ではずっと進んでいる地球連合への侵攻が危険なことを知りつつ、命懸けで国を守ろうとした。

 よこしまな心だけでやったことじゃ、無かったのだと思う」


 他にも、ガウベラ帝国を悪とする定説を否定する発見が相次いでいることを、少年は父から聞き及んでいた。


 進軍途中の各都市で、贅を尽くした饗宴を催して国の財政を疲弊させたと言われているが、都市と都市の間の旅路では、質素な生活だった。

 質素どころか、この時代の宇宙での進軍は、大変な苦難を伴うものだった。


 威信保持の為に衆目の集まるところでは華美に飾ったが、それ以外では苦しいばかりの旅を耐え、命懸けの戦いに皇帝は出征した。


 旅の途中で何度も、地球連合に対して挑発を止めて友好維持に努めるようにとの親書を発し、戦争回避に努力したことも明らかになった。

 地球系の一部の人たちが、その親書の送付を妨害し、戦争回避の可能性を捻り潰したことも。


「宇宙保安機構は地球連合を守る為に、皇帝は帝国を守る為に戦った。両方が何かを守る為に、守りたいなら戦争なんかしない方が良いはずなのに、それでも戦った。

 地球系の一部の人たちの陰での策動が、戦争を避けられないものにしたから。


 なのに現代の多くの人は、正義の宇宙保安機構が悪のガウベラ帝国を倒した戦いだったって、思っちゃってる。

 独裁国家と民主的勢力だからかな? 」


 目の前の骸の眼差しを、少年は見つめ続けている。

 さっきは怒りに見えた眼差し。そうだとしたら、何に対して怒っているのか。

 悲しみにも見えた眼差し。何を悲しんでいるのか。


 せっかく生みだされた友好ムードや戦争回避への努力が、水の泡になってしまったことへの怒りや悲しみなのでは。


「戦闘艇のパイロットが、そんなことまで考えないかな? それも、培養奴隷だった人が。

 でも、培養奴隷という不幸な人生にすら破滅をもたらした何かに対して、それが何か分からないままでも、怒りや悲しみを感じたかもしれない」


 こんな考えの末に少年は、彼を殺した戦争以上に、友好ムードの創出や戦争回避の努力へと関心を引かれた。

 実らなかった努力・・・・・・いや、この時代には実らなかったが、3千年以上を経てようやく実った努力。そうとも言えるはずだ。


 地球での全面核戦争から約1万年後の未来に、エリス少年が生まれた時から見れば2百年前の過去に、人類は第3次銀河連邦を創設し、それ以降国家規模の戦争は起こっていない。

 その兆候も見当たらず、恒久平和が実現したと考えられている。


「この平和は、突然に生まれたわけじゃなく、1万年間ずっと、平和への努力がなされ続けたからなのだろうなあ。

 ガウベラ帝国との友好ムードを創出したのも、今の平和に、きっと繋がっている。

 この時代には実らなかっただけに、僕たちは知っておかないと」


 戦争における善悪の色分けよりも、少年にはそっちの方が大事だった。そしてそっちの方についても、歴史学者の父は教えてくれた。

 チェルチェン近郊の会戦の少し前になされた、友好ムード創出への経緯が、最新の歴史研究の成果として明らかにされたと。


 それを聞いたから、彼はここを訪れたくなった。

 自宅のあるエウロパ星系の第3惑星から、3種類の超光速移動を駆使して、6万光年もの旅をしてまで。


 質量虚数の素粒子を利用して光速の数千倍で宇宙を走る、タキオントンネル航法。

 スペースコームと呼ばれる、銀河にいくつも細長い筋状に散在する時空の歪みを利用して空間を跳躍する、スペースコームジャンプ航法。

 そして、2つのブラックホールを改造して空間を繋ぐワームホールジャンプ航法。


 これら3種類の組み合わせが、少年の時代においては、6万光年もの移動をお手軽な家族旅行たらしめていた。


 そうやって辿り着いたここで、エリスは培養奴隷の骸に、息吹を注がれた。

 父にもらった知識を、物語へと昇華する息吹だった。


 2系統の史料から、紐解かれた史実だった。


 1つは地球連合に起源を持ち、第1次の銀河連邦から第2次を経て、第3次のそれにまで受け継がれた史料から。

 もう1つは、銀河帝国と呼ばれた諸勢力の、1つの廃墟から掘り出された史料から。


 それぞれが膨大な量になるが、綴られた記述を丹念に付き合わせた結果、1つの史実が詳細に浮かび上がった。

 それを記憶に刻んだエリス少年が、古代の骸に息吹を注がれたことで、史実はあざやかな歴史物語へと花開く。




≪違うっ! 俺は、人間だ! ≫

 今度は、はっきり聞こえた。


 この骸が叫んだかどうかは分からないが、3千年以上前に生きた培養奴隷が発した言葉だと、確信した。


 歴史への好奇心と知識をたっぷり身にまとった少年には、遠い日の誰かの渾身の叫びを、時空を超えて聞き届ける能力が備わったのだろうか。

 今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2022/8/13  です。


 本シリーズに登場する超光速移動について、これまでの作品をいつくか読んで頂いている読者様には、ある程度ご記憶頂けていることを、作者としては期待したいところです。


 ワームホールジャンプは、本編ではあまり登場しません。割と新しい技術で、ほとんどの本編の物語は、ワームホールジャンプが発明される以前のエピソードなので。

 スペースコームジャンプはちょくちょく出てきますが、銀河の中の限られた場所でしか使えないことから、登場しない物語もあります。


 タキオントンネル航法が、最も登場頻度が高いと思います。どこでも使える設定なので。

 その分、古代では光の千倍程度のスピードです。時代が下るともっと速くなりますが。


 光の千倍というとものすごく速いように思えますが、直径十万光年の銀河系を横断するのに、百年以上かかってしまいます。

 局所的な移動手段にしかならないことを、ご理解頂けるのではないかと思います。


 これら3つの、条件の異なる超光速移動を登場させたことも、本シリーズを特色づけていると作者は独りよがりに思い込んでおり、何とか読者様の頭に刻みつけたいところなのです。


 スペースコームが、現実の地球における海や川のように、天然に存在し移動や運搬を助けてくれる存在であると設定されています。

 海や川があることで、世界史が一体のものとして展開したように、スペースコームがあるから、銀河系にも歴史と呼び得る物語が生じ得た、という発想です。


 この3つの超光速移動においては、時間の遅れなどは生じないものと設定しております。

 超光速移動自体が荒唐無稽な創作物なので、それらの設定も作者の思うがままということは、是非ご了承ください。


 超光速以外の移動だと、時間の遅れは生じ得るのですが、光速の60%くらいで、1.25倍ほど移動体の中の時間が遅れるみたいです(手元の書籍によると)。

 これくらいなら誤差の範囲ということで、作中でいちいち言及するには及ばないでしょう。多分…。ちなみに、光速の99,9999%では700倍。


 そんなわけで、今回の作品においては、数百光年もの距離を行ったり来たりする展開にはなりますが、時間の遅れに言及する場面はありません。

 超光速以外では光速の60%を大きく下回る速度で移動していて、誤差程度の遅れしか生じないし、超光速移動では遅れは生じないからです。


 今後の作品では、もしかしたら時間の遅れに言及することもあるかもしれませんが、移動が沢山出て来る作品でそのたびにいちいち時間の遅れに言及するのは、書く方も読むほうも面倒臭いと思うので、基本的には無視します。


 宇宙SFの醍醐味の一つとして、時間の遅れという要素を取り込んだ展開というのを期待されている読者様も、もしかしたらおられるかもしれません。

 作者としてもそういう作品を書いてみたい気持ちはあり、今後については可能性もあるのですが、今回は、移動が大変多いということもあり、時間の遅れが生じることがリアルであると承知しつつ、それへの言及は割愛するということを、ご理解頂きたいと思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ