第8話 Story about ロザリオ 1-4
「解散っ! 」
スピーチとは別の声が告げると、出口に近い者からぞろぞろと、新入りたちが講堂を出て行く。
庭園とは反対側の講堂の端で、群衆が鈴なりだ。
順番が回って来るまで、ロザリオは十分余りも手持無沙汰な時間を過ごした。
ようやく外に出て見上げた青空は、解放感より重圧を覚えさせた。
これから飛び出していく場所の果てしない大きさを訴える深い青が、負った責任の重さをも表している。
「うーん・・・・・・」
と伸びをしたのは、スピーチの疲れより重圧から逃れたい一心だったかもしれない。
「よう、ロザリー! メシでも食いに行かないか? 」
重圧から解き放ってくれたのは、伸びではなく慣れ親しんだ友人の声だった。
「そうだな、サイモン」
顔も見ない内からの返答。「気の滅入る話ばかりで、疲れちゃったよ。何か食わないと、持たねえな」
ロザリオより頭2つ分は長身の旧友サイモン・ウェントスが、言葉の後半になって視界に入る。
「全くだな、ロザリー。大変な職に就いちまったもんだと、早くも後悔しかかっているぜ」
いつもは精悍な顔に、たっぷりの疲れが見えた。
平均より少し低い身長のロザリオは、サイモンの隣にいるとかなり小柄に見える。華奢でひ弱そうで頼り無気だ。
更には細くて離れ勝ちな眼をしていて、いつでもぼんやりしているような、へらへらしているような印象で、疲れた顔になると救いようも無いくらいに頼り無気だ。
そんなロザリオに向かい、角刈りの頭を左右に振って、大袈裟なお疲れアピールをサイモンは見せている。
トラペスント星系の頃から親交のある彼には、へらへらして見えるロザリオが本当に疲れているのが、ちゃんと分かっているらしい。
セシリア・ヴェールとの交友も共有していて、ロザリオには無二の親友だった。
「ようし、皆でメシ行くぞ、メシッ! 」
後ろから列をなして続いて来る、数人の学友にも声をかけ、石造りの階段を降り始めるサイモン。並んで歩くロザリオ。
頭一つは皆より高いことで、否応なくリーダー格のサイモンがメシと言えば、メシに行くのは決定したも同然だった。
3年の養成所生活で特に親交を深めた十人弱のグループが、木造の大講堂から伸びる長い階段を下り、丘のふもとの街へと連れ立つ。
四角い5・6階建てのビルが3割ほどを占める以外は、三角屋根の木造平屋家屋がひしめく街が、階段からは一望できる。
ところどころには、緑の塊りが見える。公園や林が適度に配置され、清々しい景観が創り上げられている。
移住者たちのノスタルジーが生んだ、心地よい街並みだ。
平和を絵にかいたような街並みの上の、どこまでも果てしなく青い空を、旧知の2人が並んで見上げる。
間に透明素材のドーム隔壁をはさんでいるなど、誰も意識しない青空だ。
「こんなに爽快な空の下で、なんでこんなに気が滅入ってるんだろ、俺たち」
「この空の広さこそが、俺たちの責任の大きさそのものなんだぜ、サイモン。
見れば見るほど、気が滅入るのも当然ってものさ」
「空の無い故郷の海底都市からここに着いた時には、この青空にあんなにも感動したのに」
「まあな。頭上にあるのが海じゃなくて空だなんて、ショッキングだったよな。
カルチャーショックかネイチャーショックか知らねえけど」
1段降りるごとに、街並みを隠すようにせりあがる手前の家々を目で追いながら、若者2人が感慨にふける。
この街並みが示す平和を、青空の奥に潜む脅威から守る。幼いころからあこがれ、青春時代の熱い恋心をねじ伏せてまで一心に追い求めた責務に、今はただ気を滅入らせるばかりの彼らだ。
「なんだよ、シケたツラして、サイモインもロザリーも」
背中に、ショーン・ブランケットの声が降って来た。十人弱のグループの一員だ。
赤みがかったもじゃもじゃ頭が、2人の間に突き込まれる。
ロザリオと比べても小柄なショーンが前傾姿勢になっているので、彼の頭は長身のサイモンのお腹のあたりから突き出る。
「お前は、気が滅入らないのか? とんでもない責任を、俺たちは背負ったんだぜ」
やや唇をとがらせた、サイモンの問いかけに、
「望むところじゃないか。宇宙の平和を一身に背負って、暴れ回ってやるぜ、俺は! 」
と、勢い込んでこぶしを突き上げる学友を、ロザリオは苦笑しながら窘める。
「戦闘艇パイロットを志望しているお前は、より危険も大きいんだぜ。分かってるか? 」
「どんとこいだぜ、そんなもの。
俺は絶対に1-1-1戦闘艇団に入って、地球連合の敵を滅多打ちにしてやるぜ」
「まだ、できるかどうかも分からない、構想段階の部隊だぜ、それ。
あの厳しい戦闘艇パイロット養成科目を修了したのは、さすがだと思うけどさ、もうちょっと現実的な目標を持ったらどうだ、ショーン」
「できるさ。機構軍の中でも選りすぐりのエリートを集めた最強の戦闘艇団は、これからの保安機構に絶対必要なのだから」
「できたとしてもさ」
サイモンに加勢してロザリオも、否定的見解を口にする。「宇宙系人類が中心の隊になるのだろ? それも、航宙型の血を引くヤツがメインだ。
宇宙の中でも過酷な環境に、生まれつき適応した頑丈な体を持っているヤツが、選ばれると聞いたぜ」
「関係ないぜ、そんなの。強化手術を受ければ、誰だって頑丈な体は持てるのだ。地球系でも気合一つで、1-1-1パイロットの称号は手に入れられるはずだ」
「そうなのか?」
童顔なくせに目つきだけは鋭い学友に、じろりと睨まれながら断言されると、疑問符を胸中に残しながらも、否定しきれなくなるロザリオだった
階段を降り切ったのを機に、ショーンは後ろの一団へと戻って行く。
苦笑のまま視線を交わしたロザリオとサイモンは、もう一度青い空を見上げた。
家々の屋根に隠されてずいぶん狭くなってしまったが、青の深さはさっきと変わらない。
でも、さっきまでの憂鬱は無くなっていた。
理解も納得もできないショーンの決意表明だったが、なぜだか彼らの憂鬱を掻き消す働きはあった。
今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2022/10/8 です。
ここ数回に渡って、脇道に逸れるような話ばかりが続いています。
いずれメインのストーリーに関わってくるものも沢山ありますが、あまり関係ないことも含まれています。
こういう脇道に逸れた話に、どれくらいの紙幅を割くかというのも、悩ましい所です。
物語の縦軸と横軸とも言われるところで、メインのストーリーが縦軸、脇道に逸れた話が横軸となります。
プロの小説家さんの作品を読むと、横軸にたっぷりとボリュームがあり、それが作品に彩や奥深さを与えていると実感させられます。
一方で、横軸にたっぷりと紙幅を費やしても読み続けてもらえるくらいに、縦軸が強力であることも、思い知らされます。
縦軸に十分な吸引力が有り、読者に「続きが知りたい」「この後どうなるか早く見たい」と思わせているから、たっぷりとした横軸にもちゃんと目を通してもらえるのだと思います。
縦軸が推進力となって、読者を横軸に駆り立てる、それがプロの技なのだと思います。
そして、縦軸の「続きが知りたい」思いで横軸を読んで行くうちに、そちらにおいても先が気になったり詳しく知りたくなったりして来ると、もう物語世界の虜になってしまっているわけです。
縦軸の続きを知りたいけど、その為には横軸も読まない訳にはいかない。
全部ではないだろうけど、横軸のいくつかは縦軸を理解する上で必要になるだろうから、読み飛ばすわけにはいかない。
こんな思いにさせるには、まず何よりも、縦軸に十分なパワーが無ければ、こんなことは不可能でしょう。何としても続きを知らずにはいられない、というくらいに。
どれだけたっぷりと横軸に紙幅を費やしても、決して見失われないくらいに。
この作品も、一応はそれを目指したつもりです、作者なりに。
で、この作品の縦軸は何だったでしょうか?
この問いに、読者様に応えて頂けないようなら、作者はまだまだ力が足りなさ過ぎです。
縦軸への思いでイライラして、「そんなこといいから、あれの続きを読ませろ!」「あの人があの後どうなったかを、さっさと書け!」と読者様たちに内心で叫んで頂けていなければ、文字通り話になっていません。
そしてこんなことを、後書きで言及するなどという行為に至っては、完全に反則になるわけですが、まだ修行の身だからという言い訳で強引に正当化して、補足説明してしまいます。
培養奴隷C-683という男に、一人の女性が拉致されてしまったことを、ご記憶頂けていますでしょうか?
「そう言えばそんなことあったな」、くらいにしか思って頂けていないなら、横軸を読ませる推進力になど、決して成り得ないくらい縦軸が貧弱、ということになってしまいます。
更にこんなことをお願いしてしまっては、救いようもないほど反則を犯すことになりそうですが、是非、拉致された女性の身を案じてあげてください。
「誰かが助けてあげなくちゃ!」という気持ちになって、その誰かを探すくらいのつもりで、読み進めてください。
そうすれば、ここ数回の脇道だらけの話にも、それなりに関心は持てるはずです。
もちろん、縦軸に直接的にかかわって来ない内容もありますが、横軸のどれかは、縦軸を理解する上で必要な情報を含んでいます。
当たり前のことを言っているようですが、縦軸への自信の無さが、こんなことを言わずにいられない気持ちにしています。
強力な縦軸を用意したつもりでしたし、自信を持っていた時期もあるのですが、いざ投稿し公開する段階になると、どうも自信が失せてしまいます。
こんな気持ちをお汲み取り頂き、縦軸への興味を無理矢理にでも掻き立てた上でお読み頂けるならば、有難き幸せに存じます。




