6.魔法の勉強と友達とヒロインとあの子
1段で習う生活魔法は、コップに水を入れたり、ゴミに火をつけて燃やしたり。
2つを組み合わせてお風呂にお湯を沸かしたりとかを実技の時間に練習して、出来たら先生に合格をもらい次の魔法を練習する。
個人によって進み方が違うけれど、教科書にある生活魔法を全部合格したら2段に進級するか、卒業するか自分で選択できる。
1段は魔力さえあれば最悪に遅くとも1年以内にはマスターできるそうだ。
私はお風呂が面倒くさいタイプなので、クリーンとかあれば嬉しかったけど思ってた感じのは無いらしい...
浄化魔法は傷の消毒とかスライムを倒す時とか使うようだ。マキロンとかオキシドールの魔法版ぽい。
がっかりだ。
「入浴を嫌がるなんてマキは女の子としてどうかと思うよ」
穴開けの日に自己紹介してからドミニクとはすっかり仲良くなり、実習ではいつもペアを組んでいる。
「毎日毎日、風呂の繰り返しで飽きるんだよ。もうさ、生まれてから何千回も入ってるんだから」
「僕そんな風に思ったことないからわかんない」
「ドミニクはさ、侯爵家のお坊ちゃま君だからなあ。侍女のお姉さんに洗ってもらってんでしょ?それじゃ私の気持ちはわかんないよ!」
「なっ!!そんなわけあるか!僕は1人で入ってるぞ!」
真っ赤になって否定するドミニク。ははは!ついついからかってしまうのだ。
「あ、でもさ真面目な話マキは知恵の塔の魔法使いを目指そうかなってこの間言ってただろう」
「うん。魔法おもしろいし」
「本当にあそこまで行ければ新しい魔法の構成とか出来るようになってるんだろうから、いつか出来るかもしれないな。風呂魔法」
「なるほど。無いものは自分で作ればいいんだ。そっか......凄いね。ワクワクするねえ。」
「だなあ。楽しいよなそういうのって」
魔法の作り方なんて、生活魔法を習い始めたばかりの私にはまだ全然現実味がない妄想だけど、頑張れば手に届くのだと思うと気分が上がるなぁ。
**********
魔法は楽しく、友達もいて学園生活は最高なはずである。が、しかし、テンションが一気に下がる最悪なこともある。
「あっ」
「きゃっ!」
ドンッ
ガシャーーーーン!!
「やだぁ。くすん....酷いよ...」
床に座り込みきらめく瞳に涙を浮かべるピンクのフワフワヘアの可愛い少女。
乙女ゲーム転生ヒロイン疑惑の彼女はマリア嬢といいます。
平民育ちで母を亡くして実父現れての男爵家養女。
今、何がおこったかというと...
食堂で私とドミニクはランチプレートを取りに行ったのです。今日は何定がいいかのぉ。わしゃあ魚にするかのぉ。なんて言いながら列に並んでいたのですよ。
そこにマリア嬢が現れましてドミニクの方に走って来たわけですよ。その時に、ランチプレートをもった生徒にぶつかっちゃったのです。そしてプレートは落下。
まず、食堂で走るやつとか普通いないからね。マリア嬢の過失割合100%だと私は思う。当然。
そう。この学園で最悪なことというのがこれ。乙女ゲーム。
そしておそらくドミニクは攻略対象者。
ドミニクと距離を置くにはもう仲良くなりすぎてしまっていて無理。大事な友達なんだ。いい子だし。
というか、ドミニクってまだ12歳。背とかもまだ小さいし。見た目は小学生なんだよ子供なの!
ショタ枠なんだろうか...
私の中では彼女は弟を狙う変態である。
「ちょっとあなた!床に座り込むだなんて。令嬢としてありえないわ!」
はい!でましたー。チョチョリーナ姫様来たよー。もはや定番の登場である。
「そっ!そんな酷い!ルキウス様ぁ~」
「えっ?僕?なに?えっ?」
チョチョリーナ姫の後ろで全く興味なさげな顔をしてよそ見というか、今日のランチメニューをみていた第3王子の生徒会長ルキウス殿下がいきなり話をふられてビックリしている。
王族は特別室で私達とは別のメニューの料理を食べる。
そしてルキウス殿下が何気にいつも食堂のランチを興味津々にガン見していることを私は知っている。
「もうっ。取りあえず立ちなさい!」
「うぇぇぇぇん」
あ、マリア嬢が泣きながら走ってどっか行きました。
「ほんとにあの子なんなのかしら。目障りだわ」
「まあまあ。いろんな人がいるんだよ。行こうチョチョ」
去っていく二人。
残されたのはぶつかられてランチプレートをひっくり返されて制服ベショベショになってしまった男子生徒と床に散らばる彼のお昼ごはん。
誰も彼に声をかけないし、どうしても放っておけないような気がして声をかけた。
「あの、大丈夫ですか?制服...汚れてしまったけど。あの、着替えはありますか?あの、私が服を綺麗にするクリーンが出来たらいいのだけど。できなくて。あの。あ、でも服に使えるクリーンはまだ完成させてないから駄目ですね。あ、まず知恵の塔に行って研究してから言えって感じですよね。その。すいません。」
「......」
挙動不審な言動の私。恥ずかしい。
その時、あらまぁ~。と言いながら掃除のおばちゃん登場。ドミニクが連れてきてくれたみたいだ。
静かだと思ったら隣に居なかったのだね。気づかなかったよ。
「......」
マリア嬢の被害者の彼は何も言わずに食堂を出て行った。
下を向いて。すごい猫背で。何も見てないみたいな真っ暗い目をしていて。
ほんの少し前までの、この世界に来る前までの、私のようだと思った。
周りの椅子を動かしたりしておばちゃんを少し手伝っていたドミニクがこっちに戻ってきた。
「大丈夫?早く食べよう。時間ない」
「あ、うん。あのさ、さっきの人...」
「うん?ゼフナート・ドドン。ドドン伯爵家の次男だよ。不気味だったろ。ドドン伯爵家はあまりいい噂を聞かないから近づかないほうがいい」
ドミニクは私にかかわらせたくないから言いたがらなかったけど、聞き出しました。気になったから。
「ゼフナート・ドドン。16歳 魔法学園2段
ドドン伯爵は魔法の人体実験をしているとか、麻薬の製造、人身売買の噂もあり言動も不穏なことも多く、危険視されていてまともな貴族ならまず近づかない」
それからは彼を見かけるたびに目で追ってしまう日々が続いた。
ゼフナートはいつも気持ち悪くて、皆に嫌われて、陰で笑われて、馬鹿にされていた。
この気持ちは何なのだろうか。もしもこれが同情なのなら私は最低だな。
どうしても目が離せなくて、泣きたい気持ちになる。
「そんなもん同情だろ。偽善者め」
ドミニクに言われた。




