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その令嬢は転生じゃなく転移です  作者: 夏目登


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3.空飛ぶ馬


辺境伯領から王都までは陸路だと2ヶ月かかるらしい。すごく遠い。というかこの国とても大きいのではないだろうか。




今回の王都までの旅は空路で行くそうだ。


なんと空飛ぶ馬である。それだと1日で着くのだそうだ。

どんだけ速いのか...




「陸路2ヶ月を1日で行くって凄いね。

空気抵抗とかは魔法でなんとかするのだろうなと推測してるけど、実は私は飛行機も乗ったことがないんだ。飛行機みたいなかんじなのかな」


「ペガサスとは違うのね。さっき聞いたら、軍馬というか戦闘用のめちゃくちゃ気性が荒い生き物だから訓練を受けていない私達は絶対に一人で近づかないようにって言われたわ。

自分より弱い生き物は問答無用で殺しにくるらしいから気を付けないと」


「俺はワクワクが止まらない」


三人で馬を見ながらああだこうだ喋りながら出発を待つ。



私達は荷物がないので用意とか準備はいらないのである。


転移する前に持っていたバックやスマホ全部転移後は消えていた。


もとの世界の公園池に浮いているのだろうか。


「スワンボートは一緒に転移したのに持ち物はダメだったのは不思議だよね」


「話変わりますけど、ぽこたんさん名前何て言うんですか?何て呼んだらいいかわからなくて」


「私は名前も年齢も非公開のただのぽこたんだし、呼ぶ時にさんとかつけないでいいから」


なんてことを喋っていたら馬が来た。


見た目は真っ黒い道産子で大きさが私の知ってる馬の三倍位あった。


王都へのメンバーはマルセルさまと私達三人と護衛の騎士が三人。馬は四頭。


マルセルさまと騎士二人が一頭ずつに乗り、私達三人と騎士一人が一頭に乗る。

四人乗っても余裕で、馬はとても大きい。


私達と一緒に乗ってくれる騎士はペイヤンというレトロ日本な名前の人だ。


60歳くらいで引退間近ではあるがこの人が馬使いが騎士随一上手い人なんだって。


「ペイヤンでーす!」


「ペイヤンさんよろしくお願いします!千太郎です」


「ぽこたんです」


「マキです。あの、馬の名前は何て言うんですか?」


「馬」


「え?」


「名前とか無いの」


そのわりに皆が馬を可愛がってるのがわかるし、馬も懐いていてじゃれたり甘えたりしてるみたい。


「馬は名前の概念がなくてどうやっても名前を覚えないんだよね」


「「「ヘェー」」」


「名前がなくても馬は自分に話しかけてるのか、他のやつに話しかけてるのかわかる。魔物だからね。頭も凄くいいし。俺達の言うことを聞いてくれるのも気に入った相手への好意というかほぼ趣味というか気まぐれでやってるような感じだと思う。

なんかよくわからないからそこら辺は考えないで置いておくのがいいよー」


「「「ほぉー」」」


不思議がいっぱいです。


「ささ、乗って乗って!」


私とぽこたんは一人では乗れなくてペイヤンに乗せてもらい、千太郎くんは男の子のプライドかなにかよくわからないものの関係で自力で馬によじ登った。


全員が騎乗しマルセルさまの号令で一気に空へ!


凄く高い!


「人がゴミのようだ!」

下を見た千太郎くんが本気の目で叫び、私は声を出して笑ってしまう。


目が回りそうに景色が流れる。速い!


魔法で馬が乗せている人を守ってくれていて、バリアのような風も通さない安全な空間の中に私達はいる。


「わぁーー!!」

「こえーー!!」


馬が楽しげに鳴いて急降下するとお腹がフワッとなり驚く。

ぽこたんいわくそれが楽しいのだって!



初めての事ばかりで昨日から楽しい。


今まで生きていて、楽しいと思ったことがあったのか無かったのかもあまり覚えていないし、

私は自分が幸せではないことを知っていた。


だけどこれから変わるのかもしれないと唐突に思えた。


今、幸せだと強烈に感じた。





空の旅はそんな風にとても最高な時間だった。 




**********



王都に着いたのは夕方で、空が夕日で真っ赤。


下に見える街は大きかった。辺境伯領の街も大きいと思ったけれどそんなもんじゃなく、見渡す限り街だ。


「ぽこたん夕日が凄いよ」


「ほんと。こんなの初めて見たわ。ちょっと泣けてくるね」


千太郎くんとぽこたんは寄り添い手を繋いで、僕らの体も夕日で真っ赤だ。なんて言いながら夕日と赤く染まる街を見ていた。


この二人は本当に仲が良くて、最初の公園で感じた痛いカップルというイメージはすっかり無くなってしまった。




「おい。あれ、親子じゃなかったの?マジか...」


二人の様子を見てぎょっとしたペイヤンが物凄い顔でこそっと私に言ってくる。


ビックリしすぎたのかペイヤンの目が飛び出そうだよ。なんだろう。目玉をさわりたくなりますね。



「はい。二人は恋人同士ですね。私も最初は引きましたけど、今はすっかり温かく見守る立ち位置です」


「おまえ...」


あきらかに引いたペイヤンは、人生いろいろか...なんて遠い目をして呟いていた。


夕日と哀愁を背負うペイヤン。



その後、王都のマルセルさまの屋敷の庭に着陸。


その屋敷も学校かな?というくらい大きかった。




私達は明日に備えて軽く食事をしてお風呂に入り早寝。

マルセルさまは王城に顔を出してくると出掛けていった。


ちなみに、食事は転生者や転移者が多いだけあってもとの世界とあまり変わらないし、お風呂も普通に湯船がありシャワーもある。定番の魔石利用。


もとの世界の異世界物って何なのだろうか。


予備知識を持ってこれたことはありがたい。




**********



翌日は王城に。

マルセルさまが一緒なので安心だ。


王宮はまさにファンタジーのお城できらびやか、豪勢、ゴージャス、キラキラ。言葉で表しきれないけれど、

芸術とか疎い私でも魅せられるというかほんと凄かった。


基本的にとても富んでいる国なのだと思う。


王様の執務の合間に面会をしていただくということだったが、手が空くまでちょっと待ち時間があり応接室でマルセルさまと私達三人で待つ。


待ってる間に、非常に美しい侍女のお姉さんから煎れてもらったお茶は、人生史上一番香り高くバカ旨かった。ケーキもでた。


「俺、甘いものそんな好きじゃなかったけどこのケーキなら5個は食えるな」


「私はこのお茶にびっくりした。美味しいね」


「こっちのクッキーも美味しいわよ」


「よかったな」


マルセルさまはニコニコ嬉しそう。


そうこうしてるうちに王様の登場。


「待たせたな」


「いえ。お前たち、この方がマウルカナム王国王のジークフェルム・マウルカナム王だ。それとケイトス皇太子殿下だ」


「ジークフェルムだ。顔を上げよ。そんなかしこまらなくていいぞ」


王様は50歳くらいのナイスミドルである。フレンドリーだけど雰囲気で有能な人なんだろうなとわかる。

覇気があり周りがキラキラ光ってるのだけどオーラなのかな。


皇太子殿下もキラキラしてる。なんだこれ。王族のオーラなのだろうか。


「三上千太郎です」


「先崎マキです」


「ぽこたんです」


ぽこたんのぶれなさよ。


「うん。話は調査とマルセルから聞いてる。いきなり異界に来てしまい戸惑っているだろう。大変だったな。

だが、まあ、来てしまったのはどうしようもないしな。これからはこっちで頑張れ」


王様は軽かった。


「それと、転移のときに隣国のガザナの者がいた件なんだが。

国境近い場所だから転移の神託がガザナにもあったんだ。死んでいた魔法使いは転移の渦に乗って君達の世界に行こうとしたらしい」


皇太子殿下があのとき死んでいた人達について教えてくれた。


「そんなこと可能なのですか?!」


「マルセル、落ち着け。うちの魔術長が言うにはまず不可能だろうと。実際に失敗してるしな」


もしかしたら帰れるのかと思ったが、どうやら帰れないようだ。全然いいけどね。


「ガザナの国の意思ではなくて、あの魔法使いの独断と暴走らしい。魔法の無い世界で無双する妄想を拗らせていた男だったようだ。

伯爵位を持っていたようだが、勝手な行動に激怒したガザナ王によってその伯爵家の取り潰しと一族郎党平民落ちになったみたいだな」


「まぁ、妥当か。私欲で動くものは貴族でいる資格はない」



マルセルさま真面目です。


しかしその異世界無双願望は私のもとの世界では非常に馴染みのあるもので。

他人事とは思えない親近感を持ってしまう。死んじゃった人だけど。

私も想像したことあるし...


何の能力を欲しいか悩んだりしていたよ。ううう...


千太郎くんをチラッと見ると変な顔をしていた。おそらく私も今、同じ顔をしているんだろう。


「とりあえずそういう事なのでガザナの件は心配いらないので安心してほしい」


何か困ったら遠慮なく言いなさいね。と、王様に言われ面談は終わった。



この後はスキルとか魔力とか検査して、その結果を記録した異世界転移人登録なるものをしてもらうことになる。

あと、国民登録。民籍はマルセルさまのエストレナム辺境伯領の領民にしてもらうことにした。


「王様がいい人だった」


「それ不敬なんじゃ?」


「そういう礼儀とか決まり事に馴染みがないから難しいわね。怒るやつとかもいるのかもしれないし」


「うむ。貴族だとそういうことに厳しい者はたしかにいるな。そこら辺は少しずつ覚えて行けばいい。それに平民籍だからあまり難しく考えなくてもいいだろう」


「ん?もし、」


話しながら歩いていると、すれ違った人が声をかけてきた。


見ると猛禽類の顔で二足歩行の体形ガチムチである。こ、こ、これは...獣人の方ですか?!


モフモフとかフワフワとか大嘘か!!


めちゃんこ見た目怖いんですけど!強そうすぎますけど!!?


本能的な恐怖を感じトイレに行きたくなってきましたよ!!


「おお!これはガゼではないか!久しいな。今日はなぜここに?」


「ああ。弟の事でな。この国にいるようなので王にちと話をしに来た。お前のその連れは?変わった気配だが」


その獣人、ガゼさんはなぜかぽこたんだけををジッと見ていた。


「ああ。うちの者だ。それより時間があればうちにも顔を出せ。あの子のことは俺だって気にしてるのだ」


「わかった。では後で」


もう一度ぽこたんに視線を流した後、去っていくガぜさん。


「あの人めっちゃぽこたん見てましたよね。嫌だな。なんか嫌だ俺」


「うむ。気に入られたかもしれん...だが、ガゼは無理やりどうこうしようとする男ではないからな、大丈夫だろう」


「ぽこたんは浮気とか嫌いだからね。そんな顔しなくてもいいよ」


「あ、あのマルセルさん。あの人は獣人ですか?」


「いや。見た目はそうなんだが、獣人というくくりではないな。あれは光の民といわれている。空に浮かぶ国の民で光の眷属だ」


「はあ。なんだか難しいです。獣人とは違うんですか?」


「ああ。獣人は俺たち人族と同じくくりだ。生物というやつだな。動物、魔獣、獣人、人に魔族、虫とか簡単に言うと体がある生き物だ。それに対して光の眷属や闇の眷属は元の体が無い。彼らは意思のある魔力だ。」


「体が無い?」


「無いといっても触れるぞ。魔力で体を作っているんだ。そして魔力が枯れない限り永遠に生きる。そして生物と結婚することもある。そして子供は必ず生物になる。光の眷属は光から生まれるからな」


「へえ。光の眷属は親から生まれるのではないのですね」


「あれ?でもさっき弟って言ってなかった?」


「ガゼの場合は少し特殊なのだ。彼らが生まれるとき光の塊が破裂してそこから現れるのだが、ガゼの時は弾けた光の欠片からもう一人小さな男児が生まれた。

それがガゼの弟のマリウスだ。

人と比べたら十分に強いのだが彼らの基準では弱いらしくて少し過保護に育てられてなあ。

我が儘で何度も癇癪をおこして家出するのを繰り返して皆を心配させていたんだが。

そのマリウスが最後に家出してから帰らずもう6~7年たつ」


「なるほど」


「見つかればいいですね」


「ちなみにうちの国の王族は光の眷属の子孫だぞ。というかガゼの子孫だ。何百年か前の女王とガゼは結婚していたからな」


「えー!!」


本当驚きである。



**********


その後うけたスキル鑑定と魔力測定の結果はというと、


先崎マキ  【スキル】 なし

      【 魔力 】 上


三上千太郎 【スキル】 なし

      【 魔力 】 特上


ぽこたん  【スキル】棒術―神域

      【 魔力 】 上



という結果であった。転移者は魔力は必ず上以上らしいので自分の結果にしょんぼりだよ。

やっぱりね...

というか、期待してないつもりだったが内心では期待してたんだろうな私。そういう奴なんですよね私という人間はさ...


「マキ、どうした?魔力が上なのは誇るべきことだぞ。宮廷魔術師や天才と称される錬金術師、知恵の塔の研究者達のような常人では到達できない才なのだ」


「そうなのですか?わたしは千太郎くんのように特上でもなく、ぽこたんのようにスキルも無かったので少し落ち込んでしまいました」


「なんだ。そうか、俺の説明不足だったな。すまん。

魔力は下から、  無し→魔力あり→中→上→特上 と分類される。

大抵の人間は魔力は魔力ありだ、無しも稀にいるが大概スキル持ちだ。中は十人検査して一人か二人程度だ。上は稀。千太郎の特上は俺は初めて会った」


「え!俺そんな感じなんですか?!うっわ!すげ!やった!」


千太郎くん大興奮ですね。わかるよ。うんうん。目をキラキラさせちゃってまぁ。


しかしマルセルさまは難しい顔をしている。


「千太郎。そう簡単ではないのだ。相当努力がいるぞ。大きな力は制御することがとても大変なのだ。一つ間違えると暴走し自分の命も失う可能性がかなり高い。そうなれば周りの人間の命も巻き込むだろう。上レベルでさえ制御はかなり苦労するし危険を伴う」


「そ、そんなぁ」


天高く上がったところをどん底まで落とされたもよう。


ぽこたんががくりと項垂れる千太郎くんの背中を優しくさすってあげている。



しかし魔力は諸刃の剣である。怖いです。上でよかった...


「マルセルさま、私のスキルの棒術―神域とは?」


「おお!ぽこたんのスキルは凄いぞ!」


いきなり興奮しペラペラ喋りだすマルセルさま。


「棒術とは相手を突き、払い、打つ格闘技だ。俺も趣味で嗜んでいるのだがな!剣や槍とは異なり相手の命を極力奪うことなく無力化することができる!!」


「奥が深いのだ!!どうしても刃物だと切るたびに切れ味が鈍る。そのため実は多数を打ち倒すのに不向きなのだ。戦っているうちに折れることもある。それがだな!俺の持論では棒術を極めれば体力の続く限り敵をせん滅し続け無双できるのではないかと!」


マルセルさま...早口過ぎ。


**********



王城での用事が終わり、帰りの馬車でこれからの事をマルセルさまに話す。


「あの、私、魔法学校に行ってみたいです」


「俺も!」


「うん。そうだな。それがいいだろう。寮ではなく俺の屋敷から通え。心配だからな」


「私は子供たちに交じってっていうのは無理だわ」


「ぽこたんは俺と一緒にエストレナム領へ帰ればいいだろう。棒術を共に極めねばな!」


「ダメです!絶対ダメ!!いくらマルセルさまでもぽこたんは渡しませんよ!」


千太郎くん攻撃態勢である。


「う。し、しかしだな。棒術が...」


「ダメです!!」


「私もいきなり離れるとか考えられないので千くんと一緒にいます。それで棒術なんですが、格闘技に興味はないのだけど、才能があるならやってみたいです。お屋敷に教えてくれる人を雇ってもらうことはできますか?魔法の先生も。かかったお金は必ず働いてかえしますので」


「金は要らん。ぽこたんも千太郎もマキもだ。暮らしにかかるものはすべて俺が用意する。この世界に来たばかりなのだ。甘えろ。国から出る金も口座に入れておくがそれはいつか独立する時まで手を付けないこと。これは絶対だ」


うわー!惚れてまう。漢ですよ。こんな人、好きにならずにいられようか。


棒術の件で若干マルセルさまにひいていたのだがもうねそんなとこも素敵なんだな。


「うう...なんなんだよ。かっこよすぎだろ。くそぅ。負けねえぞぉ...」


隣から千太郎くんのぼそっとした声が聞こえた。




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