2.エストレナム領
~ マウルカナム王国 エストレナム領 ~
その日、王都でエストレナム領の端の名もない湖に異邦人有るという神託があり、
すぐさま王からエストレナム辺境伯にその確認をせよと伝令が向かった。
異邦人、異世界人と呼ばれる者の自然転移はこの100年はだいたい5~10年間隔でおこる。
人数は最小一人で、多いときは54人がいっぺんに現れたこともあった。
それは人には限らず、犬や鳥などの他にもサイやゴリラという異世界特有の珍しい動物なこともある。
転生の場合は前世記憶がおぼろげなことも多く、さらに本人が秘匿することも多いので数は不明だが3~5年に一人は確実にいるのではないかと言われている。
なぜそのようなことがおこるのか。
研究も盛んにおこなわれているが、今のところ魔法の使用による世界の理の歪みが原因ではないかというのが最有力説とされている。
そして世界は終焉に向っていると言われている。
マウセル・トマ・エストレナム辺境伯は城に帰還し、自らの執務室に向かった。
そこには留守を任せていた副官でもある弟ののシュヴァルツェと秘書のマルコが日々の書類仕事をしながら彼の帰りを待っていた。
「おう兄上。はやかったな」
「ああ。聞き取りと調書はまだだがたぶん転移者だ。それより湖にガザナの兵士と魔法使いがいた。」
「「はっ?」」
「隣国の?」
「ああ。着いた時、湖の中にガザナの魔法使いがいて、周りを兵士が囲んでなにかをしていた。何をしているのか確かめようとしたが、いきなり真っ白い霧が湖を覆い尽くし、その霧が晴れた時そいつら皆死んでいた」
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「ごめんなぁ。一応取り調べ終わるまで拘束しとかないといけなくてなあ」
そんな風に謝られながら手足を縛られたまま兵士のお兄さんに抱っこされてお城に入って、縛られたまま見張られながら侍女のお姉さんに体を軽く拭いてもらい汚れた服を着替えさせてもらう。
凄く丁寧だし優しく扱ってくれているのを感じて素直に従う。
また抱っこされて私達は辺境伯さま?の所へ運ばれた。
辺境伯さまは湖で会った赤い鎧の大きい人だたぶん。鎧姿だと覇気凄くてちょっと怖かったけど、脱ぐと優しそうなお兄さんである。
拘束を解いてもらい自己紹介を終えて、湖で弓を放ったことの謝罪を受けた。
なんでも湖に着いたら隣国の魔法使いと兵士が無断で入国し何事かおこなっており、これは交戦になるかもというところで濃霧からの隣国兵の全滅そして謎の怪鳥の接近ときたので攻撃してしまったということらしい。
本気で怖かったけどまあ当たらなかったしね。問題ない。
ちなみに謎の怪鳥というのは私達の乗っていたスワンボートのことである。
そして公園池から気づいたらさっきの湖にいたことを彼らに説明し、もとの世界のことをいくつか質問を受けた。
「やっぱり異世界転移なのですね!」
千太郎くん、やっぱりな!!というどや顔。
「今、話を聞いた感じだと間違いなさそうだね。この世界だと時々あるんだ。そして、なぜそんなことが起こるのか解明されていないし残念だが帰ることは無理だと思う。帰った人間の前例がない。」
辺境伯の弟さんのシュヴァルツェさんが千太郎くんに答える。
「......」
見た目がチャラいのでちょっと苦手だなと思ってしまい無口になる私。
「......」
ぽこたんは異世界転移とか異世界転生物を読んだことがないので全く意味がわからんと言ってたのでノーコメントである。
イケメン兄弟だなぁ強そうだしなんというかフェロモンとか色気が一般日本人の千倍位あるんじゃないかなとか考えながら眺めていたら
その横で私達のことを書類にまとめていたオーラ無し平凡THEおとうさんみたいな秘書のマルコさんと目が合う。
ニコッとされる。
安心感がある。普通がいい。
どうやらこの国では転移者を民として受け入れてくれるらしい。
それと、世界に慣れて自立できるように数年間は最低限の生活が出来る程度の年金も出してもらえるそうだ。
いい国である。
スキルがないから追放とかそういうのだったらハードすぎるし生きていく自信がない。
何もない空っぽマンな私はそこからのザマァや無双は無理なのです。
とりあえず私達は王都で王様と面談して、異世界特殊技能や知識の有無の申告、スキル判定と魔力検査と転移者登録、国民登録をすることになる。
色々不安だな。疲れたな。なぜか突如泣きたくなってくる。
様子がおかしかったのか私の顔を見たマウセルさまが近づいてきて腰を屈め顔を覗きこんできた。
「不安だな。大丈夫だ。王都の民として登録してもいいが、うちの領民になってもいいし仕事がなかったらこの城で働いてここに住んだらいい。自分の家だと思え。大丈夫だ。守ってやるからな」
物凄い優しく笑い頭の上に手を置かれた。何なのでしょうか。惚れてまう。これは.....どうしたら...
人生初であり最大級の胸キュンイベントである。
ヤバい。
私はイケメンとかもて男が嫌いなのだ!好きになりたくないのだ!
勘違い女だと、いたい女だと笑われる。そんな未来が見える。泣きそうである。
隣にいるぽこたんにすがる目をしてしまうが、ぽこたんはソファーに静かに座っているように見せかけて寝ていた。
この人、大物過ぎない?普通寝れる?なんなの?嘘でしょ?
いや、まず50代で16歳のイケメン彼氏がいる時点で私の常識や価値観は通用しないのか。
涙目であたふたする私に優しい目を向けてくるイケメン兄弟と千太郎、平凡マルコ。
こういう時に今までの人生のコミュニケーションスキルを発揮しなければならぬのだが私は物心つく前から人生孤独人間だからそのスキル0で困ってしまう。
なんて答えていいかわからない。
「とりあえず、マキさんと千太郎くんは王都に行ったら学校に行ってみるのもありですね。ぽこたんさんは年齢的に学校はあれですが...
無理にとは言いませんが、学校に行けばこの国のことも学べますし友達も出来ると思いますよ。
寮に入ってもいいですしエストレナム家のタウンハウスもありますからそこから通ってもいいですしね」
「ああ、そうだな。魔力があるようなら魔法学校に行った方が伸びるし、無くても普通学校で色々学べる。まあそんなもん行かないでこの領で暮らしてもいい」
「困ったらうちの兄上に助けを求めたらいいからね。あんまり考え込まないでゆっくりいこう」
「では王都に送る調書はこれで。マウセル様ここにサインを」
マルコさんが出来上がった書類を摘まみそのまま上にほうり投げると紙の書類が燕のような小鳥に変わり窓をすり抜け飛んでいってしまった。
「「魔法!」」
ニコッと笑うマルコさん。
凄い感激。
魔法があると聞いてはいたけれど実際に見ると衝撃である。
感動する。
もしも私にも魔力があればどんなことができるんだろう。
さっきまですごく不安でしかなかったけれど、王都に行くのがなんだか楽しみになってきた。




