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その令嬢は転生じゃなく転移です  作者: 夏目登


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16/20

16.緑葉祭

ついに緑葉祭の日がやってきた。


いい天気である。早朝から街は騒がしく多くの人で賑わっている。


たくさんの屋台に、広場では大道芸。ベストカップルコンテストなんてのもあるみたい。


そしてメインは昼は王様のパレード。夜は花火大会だ。


私も行きたかったけど1度街に出たら人ごみで花火の準備の時間までに戻れないということで今回はお預けである。


だが、今日は王城も一部解放され様々なイベントが行われる予定だ。



大庭園、中庭園、その他の小さな庭園ではお茶会の用意がされているし、生け垣の巨大迷路もある。


大ホールでは楽団が演奏会をひらき、他のホールでも劇団を招いてのオペラや演劇やバレエを観られる。


剣術大会に、魔術大会、魔道具コンテスト、功績のある人達の表彰式、


そしてマルセルさま率いるエストレナム領の馬の航空ショーなんてのもある。


他にも奥様コーラス隊の発表会のようなものから、スライムの三色団子ショーとかいう意味不明なものまでいろいろある。


一日で全部見るのは不可能なので候補を絞って効率よくまわらないと。


とはいうものの、今日は普段城に入ることのない街の住人も沢山来ているので人が多い。


人ごみを避ける性質のある私は人の居ない方へ居ない方へと進んでしまい、いつのまにか知恵の塔の隠者の魔術談義ショーの会場に来てしまった。


ガラガラだった。


ステージに隠者のお爺さんが五人ほど座って五人で何か魔術の事を話しているのだけれども、客席には10歳くらいの男の子が一人ポツンと座っているだけなのだ。


なんだこれ?迷子の子?もしくはただ休んでるだけとかかな。

だって、隠者達、自分たちの話に夢中になっていて客席まで声が届いていない。


ショーとか忘れてるんだと思う。客席を全然見てないし。


私、進路希望が知恵の塔なんだよね。

不安だな。変人ばっかなんだろうな...


迷子だったら大変だと思い男の子に声をかけてみる。

「こんにちは。あの、話聞こえないけど大丈夫?迷子とかじゃないよね?」


「こんにちは。いえ、隠者様のお話を聞きに来たのですがなかなか声を聴きとれず...頑張って耳に全神経を集中していたのですが中々難しいです」


恥ずかしそうにテレッとする。これは...可愛いよ!


「そ、そうか。でも私にも聞き取れないからね。これは話に夢中になって聞き手を忘れている隠者様たちに非があります」


実は面倒臭そうな部屋に来ちゃったから、爺さん達に見つかる前に部屋を出ようかと思ったんだけど仕方がない。この子の為に貴重な時間をここで少し使いますかねぇ。


どっこいしょっと男の子の隣に座り、大きく息を吸って声を張り上げる。


「聞こえませーーん」


人見知りで、人間恐い病である私であるが何か使命感さえあれば勇気ある行動をとることが可能なのである。この場合、隣の可愛らしい彼を助けたいという気持ちがなかったら出来なかった。


客が私一人であったならばおそらく彼のように静かに頑張って自分の耳を研ぎ澄ませていただろう。


おや?と、こちらに視線をよこす隠者達。


「おお!お前さんか!よく来たのぉ!」


なんと、私の魔力の穴開けをしてくれたお爺さんであった。横向いてるからわからなかったよ。


「あっ!あの時はありがとうございます!おかげで快適にやっています!」


横の男の子に「私の穴開けしてくれた人だった!」とヒソッと教える。


「ほれ、この前の学園の穴開けで塔に誘った娘がいるといったじゃろう。あの子じゃ!」

他の隠者に私の事を教えているようだ。


横の男の子に「隠者様に誘われるなんて凄い人だったんですね!」と目をキラキラさせながらヒソッと言われる。


「椅子を持っておいで!話をしようぞ!そのとなりの子もおいで!」


呼ばれてしまった。困ったね。なんか嫌な予感。長くなりそうな...


「はいっ!!!」

男の子が凄い嬉しそうに返事をして小さい体で一生懸命自分の椅子をステージに運ぶ姿を見ると、もうこれは私だけ逃げるとか無理だなと諦める。


席について改めて自己紹介。

「アジーじゃ」

「イジーじゃ」

「ウジーじゃ」

「エジーじゃ」

「オジーじゃ」


あ、なるほど。覚えやすい。


「マキです。よろしくお願いします」


「ぼっ、ぼくはトマです!魔法が大好きで隠者様に憧れていて今日お話を聞けるのをとても楽しみにして来ました!」


「ほぅほぅ。可愛いのぉ」

「昔のワシを見るようじゃのぉ」

「いや、昔のワシじゃな」

「魔法が大好きとは気が合うのぉ」

「うんうん。トマはいくつになるかの?」


「はいっ!10歳です!」


「そうか。ではあと2年で学園に入るのか」

「頑張るのだぞ。知恵の塔で待ってるからのぅ」


「あっ。いえ、あの、ぼ、僕は学園にはいけないのです。」


「...それはなぜじゃ?」


「あの。...一月後に婿入りが決まっているのです。それで王都で過ごせるのもあと少しで。

ずっと魔法に憧れていたので、せめて最後に隠者様たちのお話を聞けたらとここへ。

本当はいけないのですが一緒に城に来た家族の隙をついてきてしまいました。今頃探していると思うので本当はもう戻らないと...」


「は?」

なにそれ?結婚?


「ちょっと待て、10歳で結婚など出来んだろう」

「そうだ。成人する16まではいくら愛し合っていても無理だぞ」

「それに王都でなくとも学園の分校がある。そっちに通えばよかろう」


あれ?口調が変わったよ。「~じゃ」とかさっきまで言ってたのに。もしかしてキャラ作ってたの?


「あ、あのごめんなさいっ」


隠者たちが急に口調が変わって雰囲気変えてくるからトマくんが怯えている。


「い、いやっ!責めてないじょ!」

「そうだじょ!」

「し、心配しただけだじょ!」


ちょっと口調!子供の涙目に動揺して語尾が変になってますよ。


しかも、お前どうにかしろ。という目線を送ってくるのを止めてほしい。


「トマ結婚するの?相手どんな人?美人系?可愛い系?いいな。トマみたいな子と婚約して一緒に大人になって結婚できるなんて幸せだろうなぁ」


「いえ。あの、まだ会ったことはありません。僕の姿見だけ先方が受け取っています。それと、相手の方は60代の男性の方なので...篤志家の方なので世間体もありますし僕は婚姻後は家から出ることは出来ないのです」


「「「「......」」」」


「この世界の法律ってどうなってるんですか?私、異世界人なのでこちらの常識に疎いんですが...」


「そんなもんダメじゃろ」

「アウトじゃ」

「同性婚はOKじゃが、婚姻は16歳からじゃ」

「篤志家...」

「お前さん異世界人だったの?」


「...それでトマはその人と結婚したいの?」


「えっ!」


「あのね。きっと今日ここで出会った事は最後のチャンスだよ。もしもトマが助けてほしいのなら、きっとこの隠者様たちが助けてくれる。ここにいるのは高名で力のある魔術師の方々だから」


黙って下を向くトマ。目がだんだん潤んできて泣き出してしまった。


その後、トマを落ち着かせ皆で話を聞く。


トマの両親は彼が赤ちゃんの時に家に入った泥棒に殺されたらしい。

父方の叔父の家に引き取られ、家の仕事を手伝う代わりに住まわせてもらっている。

今回の話は叔母の兄が持ってきたもので、もう手付金も貰いその金で新しい家を建設中なので自分が嫌がったら家族に迷惑をかけてしまうのだとさ。



物凄くよくある話ですね...そういうのって、泥棒の犯人が叔父か、叔母の兄っていうのがテンプレだよね。まあ、現実ではどうなのかしらないけど。


なんだか私も最近ずいぶんと考え方がすさんできたな。ペイヤンみたい能天気に生きたいよ。


「トマはもうわしらの子になれ」

「家には戻らんでいいぞ」

「大事なものがあれば後でわしらが取りに行ってやるでな」

「魔法も教えてやろうな」

「そうじゃ、穴あけをしてやろう」


なんかあれよあれよという間に解決しそう。

トマ可愛いものね。助けたくなるよね。


その後、トマの穴開けをしたら中々大きな穴が開いたらしく皆大喜びで、魔力検査もしたことが無いとい

うトマに検査してあげるとか言って連れて行ってしまった。


すっかり孫バカみたいになっている。


もう魔術談義ショーはどうでもいいのであろうか。


いつの間にか時間が過ぎていて花火の準備の集合時間までにご飯を食べるくらいの時間しか残っていなかった。


馬の航空ショー見れなかったのが痛い。ペイヤンに、新しい技を見せるから来てね。としつこく言われていたのだ。


まあ、いいか。過ぎたことだ。



軽食コーナーでサンドイッチやミートパイにキッシュと焼き菓子を持ち帰り用に包んでもらう。


花火の準備の控室で食べよう。ここは落ち着かないからね。


さっき、マリア嬢見ちゃったし。会いたくないから。




控え室に一番乗り。


椅子に座って遅い昼食をモソモソと食ていると、


ルキウス殿下とドミニクが入ってきた。


「マキ、早いね。それは?昼食?」


「はい。ちょっと食べるの遅くなってしまって」


「色々見た?」


「いえ。何も。実は、こんなことがありまして...」


トマと隠者達とのやり取りを話す。


「マキは、よく色んな事に巻き込まれるね。でもそのトマの話は良くないな。その篤志家というのも怪しいし。こっちからも調べさせておくよ」


「よろしくお願いします」


「ねえ、そのミートパイ僕にちょうだい。お腹減っちゃって」


「いいよ。どうぞ」


「ありがとう」


「ルキウス殿下もどうですか?」


「いいの?じゃあ、サンドイッチ少しくれる?」


「はい。いいですよ。他のもどうぞ」


三人で遅い昼食。誰か食べたがると思って多目にもらってきて正解だった。





そしてとうとう花火本番である。


第3の皆と各自の割り当ての花火を手分けしながら打ち上げていく。


滝のようなものや、旋回するもの、無数の隕石のようなもの、しだれ、大玉、小さいの連発、色とりどりの沢山の花火。


そして私の番が来た。花火で作ったサイクロプスがパラパラ漫画のようにコマ送りでダンスする。残像を素早く魔法で消すのに苦労したよ。


踊らせるダンスは実は、志村けんの変なおじさんなんだけど第3の皆にはかなり好評で隊内でちょっと流行っている。


ドミニクは雪の結晶と雪ウサギを空からふらせる。


ラストはルキウス殿下の大花火だ。これは皆で一斉に2000発打ち上げるド派手なもの。



結果、最高でした。


大盛り上がり。王城も、城下からも興奮する声が聞こえてくるってすごい!


やりきった感がとんでもなく大きい。


第3の皆と、ドミニクは泣いちゃってたよ。


ルキウス殿も嬉しそう。


「皆!本当にありがとう!君達は私の誇りだ!」


みんな感動してさらに泣いてしまって大変だった。



お礼を言い合って握手して笑顔で終わった。大変だったけれどとても充実した時間を過ごせて感謝の気持ちで心が満たされる。




ルキウス殿下の私室で休憩と遅い夕食を取ろうということになり、

三人で部屋の外に出ると、すぐに花火を見た人たちに囲まれてしまう。


お礼を言いながら抜け出して、あっちに行っても囲まれ、こっちに行っても囲まれて、なかなか進めなかった。


庭に出て、人目を避けながら人の居ない方を通ってルキウス殿下の私室のある宮へ向かう。


いきなり人が誰もいなくなって、違和感に立ち止まる。


「まずい。暗くて間違えて立ち入り禁止の母上の離宮に入ってしまったようだ」


「見つかる前に戻りましょう」


こっそり立ち去ろうとすると、


声が聞こえてきた。


「何なんですか?!こんなところに連れてきて!離して!」


女性の声だ。


顔を見合わせ、ルキウス殿下が口許に人指し指を持ってきてシッと合図。


うなずいて、三人で声が聞こえてきた方へこっそりと向かう。


生け垣に隠れ、何が起こっているのか覗くと、マリア嬢を押さえつけている二人の侍女と、チョチョリーナ姫、王妃と王妃の護衛騎士がいた。


「静かにしなさい!」


チョチョリーナ姫が持っていた扇子をマリア嬢の右目に突き刺す。


「ギャアッ!」


「煩いわね。黙らせて!」


護衛騎士がマリア嬢の喉の何処かを掴み、ボグッっと音がしてマリア嬢はヒョーヒョーと音を出す。


喉の骨?声帯?何をしたのかわからない。


思わず隣にいたルキウス殿下の手をギュッと握ってしまう。ルキウス殿下も強く握り返してくる。


体が震える。


「許せない。ロベルトをあんなにして」


鼻を削ぎ、耳を切り取り、服を剥ぎ取って乳房を切り刻む。


それをチョチョリーナ姫が自らやっているのだ。


この間会った時は、たしかに酷く意地悪だったけど、ここまでではなかった。

取り巻きに髪を切らせて、取り巻きにオニギリを踏ませようとしていた。それだけだ。

いつの間にこんな風に変わってしまったのだろうか。


ロベルトを愛していたのだろうか。こんな風になってしまうくらいに。


マリア嬢の残った目玉が酷く飛び出ている。恐怖と痛みとショックで気が狂いそうなのが伝わる。


「嫌だ!この人漏らしたわ!お母様のお庭を汚すなんて!」

髪の毛を掴んで引き倒し、舐めて綺麗にしろと、食べて片付けろと叫ぶ。頭を何度も踏みつける。


マリア嬢は小さくヒューヒュー言うだけでもう目も虚ろだ。


「チョチョ。それ以上したら死んでしまう」


王妃がチョチョリーナ姫を止め、マリア嬢に近付く。


「立ち上がらせて」


侍女2人が両脇から支えマリア嬢を立ち上がらせる。


しげしげとマリア嬢を首をかしげて観察する王妃。


扇子で顎を持ち上げる。


「お前、魔力がそこそこ高いな。貰うぞ」


王妃の首から下がる黒い宝石から黒いモヤが湧き出してきてマリア嬢の目、鼻の穴、耳の穴、口から入っていく。


「アガ、アガァ、アゴゴ、アガガァ」

ブルブル震えてビクビク痙攣して気味の悪い声を立てながら、マリア嬢の体が痩せてしわしわになっていく。


マリア嬢の体から黒いモヤが出てきて王妃の宝石に戻る。

「ふん。死んだか...手を離していいぞ」


侍女が手を放すぐちゃっと下に落ちたそれはマリア嬢とは思えないほど変質していた。


「戻る。それは適当に始末しておけ」


自分の宮へ歩きだす王妃と護衛騎士。

王妃のもとへ続く一瞬前、騎士の視線が私達を見つめた。


「お母様!待って!」


マリア嬢だったものを何度も踏みつけていたチョチョリーナ姫が、王妃のもとへ駆けよっていく。


後に残った侍女2人は、慣れた様子で死体を運んでいった。



震える手を更に強く握られ、隣をみると真っ青な顔で口を片手で押さえたルキウス殿下。


「あれは、あれはなんだ...今のはいったい」


「今は早くここを離れましょう」

吐きそうな顔をしたドミニクが言う。


どのくらい時間がたっていたのか、王妃の宮を抜けるといつの間にか祭りの喧騒は無くて私達は見回りの騎士以外と会うこともなくルキウス殿下の私室に着くことが出来た。


殿下部屋付きの侍女にお茶を頼みソファに崩れるように座る。


三人とも真っ青で、私は体の震えも止まらなかった。


「あの騎士、こちらに気づいていましたね」

ドミニクが白い顔で言う。

「王妃様に...私達が見ていたことを言うのでは...」


「...たぶんそれはない。おそらく今の状況が本意ではないのだろう。幼いころから私もよく知っている男だ。王家に忠誠を誓っているため王妃に逆らうことはないが...あんなもの、王の意向ではない」



無言でお茶を飲む。少し落ち着いてきた。


「二人とも、しばらくこのことは胸にしまっておいてくれないか。まず、兄上に相談してみる。そして父上にも...決してうやむやにはしないと誓うから」


「わかりました。ルキウス殿下もくれぐれも気を付けてください」


「わかった」



王城に部屋をもらっているドミニクは残り、私は殿下の手配してくれた馬車で邸に戻る。


ひどく疲れてしまった。


王妃のあの黒い宝石...

ゼフの事を想う。ゼフは日常的に魔力を吸われている。変質して息絶えたマリア嬢とゼフが重なり恐怖する。


早く会いたい。もう二人で逃げてしまおうと腕を掴んで揺さぶりたい。


王妃も敵だ。


私の周りの優しい大事な人たち、彼らを巻き込みたくない。




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