10.新しい友達
学園に入学してからはや2ヶ月。
なんと、今日から2段に飛び級する。
1段で覚える生活魔法は特に練習もしてないけどすぐ出来るようになったのだ。
魔力が多いのもあるけれど、転移者は大抵魔力操作が上手な事が多いらしい。
結果的に、いつもコンビを組んでいたドミニクも一緒に飛び級することになった。
2段は1クラス30人ほどで20クラス。各々が自分で希望するクラスを選ぶ。
将来の職業で選択するので、騎士や農業に、漁業、職人、医療系や服飾関係など、様々にクラスが別れる。
私は今のところとりあえず魔術師志望クラス。
ドミニクは騎士クラスに入ったので私とは別れてしまった。仕方がないことなのだがこれはかなり寂しい。
そして、ドミニクの入ったクラスはルキウス殿下が在席していた。
私の方はというと、ドミニクに近づくなと釘を刺されていたドドン伯爵家次男の、ゼフナート・ドドンくんと一緒のクラスだった。
魔術師クラス2段は初級と中級の攻撃魔法・防御魔法・魔方陣・錬金術と学ぶことができる。
3段になったら上級魔法を学ぶ。
私はとりあえず4段の知識の塔を目標にしてるのだけれど、
知識の塔は生涯を魔法に捧げる研究者達だけで形成され、国も身分も年齢も種族も関係なくガチで真理を追い求める変人の行く所らしい。
魔法は面白いけれど、人生にそれしか要らないという魔法への熱い情熱が自分には足りないので、今はあくまでとりあえずの候補である。
さて、初日の実技の時間にクラスメイト達の前でポケットからオニギリという名のリアル目玉を落としてしまい大変気味悪がられた私。
その後の休み時間に、人の居ない裏庭の暗がりで
「勝手にポケットから飛び出すな!」と、オニギリに厳しめの指導をしていたのをなぜかクラスメイトから目撃される。
初日から、人殺しと名付けられ影でヒソヒソされ、気味悪がられるという安定のボッチ生活に突入した。
噂の伝達は早い。
飛び級2日目の昼休みに、ルキウス殿下とドミニクから呼び出され、
私が母親を殺して目玉を食った食人鬼説が流れているがどういう事なのか?と、深刻な顔で心配された。
オニギリがポケットから落ちた話をすると、ドミニクはなんとも言えない泣きそうな顔をした。
「なんか、変に言い訳するのも面倒だし。食人鬼のままでいい。飛び級がんばるから」
「でもそれだと友達もできないだろう!」
「私が皆に話をしようか?私の話ならきっと皆聞いてくれるだろう」
「いいんです。オニギリもいるし一人じゃないので。友達はドミニクとルキウス殿下がいますから」
ほぼ初対面で私の事など何も知らない癖に勝手にヒソヒソするクラスメイト達に自分から歩み寄るのはなんだか嫌だった。
「はい合格。この調子なら今年中には3段にいけそうだな。期待してるぞ!」
実技の時間に先生に魔法を見せて合格をもらう。まぁ楽勝。
普通はペアを組んで行う攻防魔法を1人2役でやるのはなかなか空しいものがあるのだが、ゼフナート・ドドンくんも一人でやってる。
私だけではないので心強い。
一緒に組もうと誘う勇気は、ない。
昼休みは人が多くなる前の食堂へ早足で向かい、ランチを速攻で掻き込む。
その後は、人の居ない裏庭の暗がりでオニギリと遊ぶ。
「オニギリ、こんにちは。こんにちはって言ってごらん」
「ギャオォオォワ!」
口がない目玉状態なのに声どっから出てんですかね?
「こんにちは!」
「ギャオォオォワ!」
「よしよし。言えるようになってきたね」
「ギャギャギャ!」
「うん。そうだね。オニギリはすごい!」
「ギャアー!」
「ひひひ!照れてんの?」
「......あの。あの、ちょっと。...それ、何?」
ヒッ!だっ誰っ?!
ぎょっとして振り向くとなんとゼフナート・ドドンくんだった。
「ギャギャギャ!!ギャー!」
「あ、あのですね。“お前こそ誰だ!!”と言っております」
「へぇ。言葉わかるんだ...」
「ギャーー!」
「今のは?なんて?」
「いや、今のはただギャー!って言っただけで意味ないです」
「えっ。そうなの?...ふふ」
あ、笑った。笑う骸骨みたいだね。
「なに?」
「いえ。クラスメイトとはじめて話したな。と、思って」
「......」
「ギャッギャッ」
「あ、“俺はオニギリだ”と、言ってます」
「オニギリ。そう。オニギリ...素敵な名前だね」
「...」
そこ私はノーコメントです。
「ギャーギャ」
「今のは?」
「“まあな”だそうです」
「ああ。ちょっとわかるかも」
「ですよね。なんとなく喋れるようになってきているんですよ」
オニギリを褒められるとやはり私も嬉しいですねぇ。
「それで、それ何なの?そんな魔物どんな本にも載ってないんだけど」
「あっ、そうですね。気になりますよね。マニアックに可愛いですし。これは私の召喚獣であります。サイクロプスのオニギリと言います!」
「は?僕にはぬらぬらした声出す目玉に見えるんだけど」
「体が大きくて邪魔なので私の側に居るために小さく変化しています。
あと、言わせてもらいますけど、ぬらぬらして見えますが、触るとツルツルですから」
「サイクロプス。変化。でもサイクロプスは魔法は使えないはずでは?」
「使えませんね。自分でもわからないけど一緒に居たかったので頑張ったら小さくなったみたいですよ」
「ギャーギャッギャッ」
「今のは?」
「意味ないです。ただギャーギャー言ってるだけで」
「そうなんだ」
なんだ。全然普通の子じゃないか。
いつも下向いてて猫背で、感情のみえない真っ黒い瞳。その見た目とか、家の事情で疎外されてるだけで。
ちゃんと話をしてくれるし。笑うと骸骨みたいで恐いけど。
影から覗いて悪口言う人達よりずっといい。
ゼフナート・ドドンくんは、魔獣とか魔物が好きなんだそうな。
それで、珍しい目玉の魔物と話している私を見かけ、声をかけてしまったようだ。
もしもいつか機会があったらサイクロプスの本性を見せてほしいと頼まれた。
もちろん快諾。
今でもいいよ!と言ったら、今ここでサイクロプスが現れたら絶対パニックになるからまた今度人に見つからない広い場所でお願いしたいと言われた。
確かに。パニックになるかもね。
オニギリは初対面の時の大暴れがめちゃくちゃで物凄かったからヤバイ奴だと最初は思ってたんだけど、
なんか良い子だった。
魔術師長が言うには、私に拒否られて絶望してあんな風になったんだろうと。
それを聞いた時、ドミニクは私が酷いとか言って怒りだすし、
ルキウス殿下には、もっと思いやりを持った方がいいとか説教されるしひどい目に遭ったよ
千太郎くんだけが、俺もオニギリ出たら拒否ったわ。と言ってたけど。
そのオニギリ召喚の時の大騒ぎの話をしたらゼフナート・ドドンくんは、
クスクス笑ったり驚いたりしながら聞いてくれた。
どこかオニギリをゼフナート・ドドンくんに会わせれる場所無いかなぁ。