1.何が何だかわからない
ある朝起きたら家に誰もいなくて、いつもの事だと気にもとめずにいたのだが、3日たっても帰ってこなかった。
自分がなぜか家族に疎まれていることは知っていたし、電話も嫌がると思っていたけれどさすがに心配になり母の携帯に電話すると、
3人で2か月間のクルーズ旅行に出ていると聞かされた。
面倒くさそうに、何でもないようなことを言うような口調に今更ながら傷付く。
1か月後、途中の寄港地で両親と兄は、よくわからないが隕石の衝突に巻き込まれ事故で亡くなった。
政府関係者と名乗る人たちに説明をうけたのだが機密事項が多いとかで繊細はあまりよくわからなかった。
遺体は帰ってこなかった。汚染があるとかなんかまたよくわからない説明をうけた。
もともと独りぼっちだったがそれからは物理的にも1人きりで、ただ生きていた。
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葬式の時に初めて会った父方の伯父が手配してくれた家族の三回忌の法要を終え家に帰りベットにゴロンと倒れこむ。
毛布に顔をうずめギュッと目を閉じる。
孤独とやるせなさに胸が苦しくなり、このまま気が狂うのではないかと怖くなる。
生まれてこなければよかった......
気持ちを変えるために散歩に出て、
公園をぶらつき、池の貸しボート乗り場に向かう。
気が滅入るのでいつもならしないことをしようと考えたからだ。
私はアヒルボートに憧れていた。
子供の頃から乗ってみたかったのだ。
1人なのでなんか照れてしまう。
誰も私の事なんか気にしていないとわかっているけれど、受付でのやりとりの時に顔が熱くなった。
乗り場のおじさんに乗せてもらって、アヒルボートに乗り込み激しくペダルをこぐ。
ギコギコギコギコギコギコギコ。
憧れていたけど普通だな。と、思いながら池の中央部付近で周りを見渡すと少し離れた所に止まっているアヒルボートにのっているカップルがムチューーッという感じのどぎついキスをしていた。
50代くらいの女の人と、制服を着た高校生の男の子のカップルで、
なんだかすごいもん見ちゃったよ!!と、少し興奮というかドキドキしてしまった。
どういう関係の二人なのだろうか。
偏見は持ちたくないと思ってはいるが個性強すぎる組み合わせである。
そしてその二人に気を取られていてちょっとボーっとしてしまっていて
向こう側から濃霧のような真っ白いものが漂ってきているのに気が付くのがおくれてしまった。
気が付いたら視界が真っ白。
何も見えない。
怖い。
「センくんあたし怖いーー!」ブチュッ!
あきらかに頑張って作っている可愛いちゃん声のおばちゃんの声がする。最後のリップ音にイラっとして怖さが吹き飛んでパニック寸前だった気持ちが落ち着いた。
濃霧?かな......少しジッとしておこう。
長く感じたけれどたぶん5分かそこらで霧が薄くなり、わりと近くにおばちゃん達のアヒルボートが目視できるようになってきて、だんだん向こう岸もなんとなく見え始めた。
キョロキョロしているとカップルの高校生男子と目が合ったので取りあえず会釈。彼も会釈を返してくれる。イケメンだった。
おばちゃんはなぜか目をつむって彼に寄りかかっている...デリケートで繊細さアピールかな。なぜかちょっとおばちゃんが可愛く思えてきたので私も冷静ではなくなってるようだ。
「ぽこたん、霧がはれてきたから一回戻ろう」
おばちゃんの名前がぽこたんなことが判明。
私も彼らの後から岸に向おうと漕ぎだしてすぐにおかしいと気づく。
ボート小屋ないし、まず景色が違う。公園じゃない。岸辺の方にたくさんのものが浮いているのが見える。
私にはそれが死体に見えて全身に鳥肌がたつ。
20?30?かなりの数だ。血のムワッとする臭いが襲ってきて思わず鼻をおさえる。
その時、前方にいたボートに何か飛んできて刺さったのが見えた。
矢だ!!
私のボートにも次々刺さる。やばい!これは死ぬよ。死んでしまうよ!
岸辺にいつの間にか中世の騎士みたいな格好の人たちが沢山いてその人たちに攻撃されているようだ。
心拍数がやばい。心臓が破裂するんじゃないかというくらいバクバクする。
「待て!攻撃やめ!」
矢が止まり、その中の1人だけ赤い鎧をつけた大きな体のとても目立つ騎士が前に進み出て叫んだ。
「おい!そこのやつら!おとなしくこっちへ進め!手は上げたままだ!」
涙と鼻水と冷や汗で顔も体もぐちゃぐちゃになりながら死体の浮く池をアヒルボートで岸に向かう。
凄い怖い。意味わかんないし。
しかしここでパニックを起こしたら間違いなく殺される気がする。
自分を無理やり励ましながら必死にペダルをこいで岸にたどり着いて、
騎士?兵士?謎の戦闘集団に囲まれアヒルボートを降り拘束され、おばちゃんと高校生と3人で荷物用なのか座席の無い箱型馬車に乗せられた。
手足は拘束されているがとりあえず生きている。
馬車がこんなに揺れるものとは知らなかった。というか舌を嚙むので喋るのは危険であった。
高校生と少し話したかったのだがそんな訳でほとんど話せず、加えてお互いすぐ酷い乗り物酔いに襲われてしまった。
お互いの自己紹介と、嘘みたいだがこれは異世界転移なのではないかということだけ話せた。
彼は千太郎君という高2の16歳で私の家と駅を挟んだ反対側のマンションに住んでいる人らしい。
おばちゃんは矢が飛んできた時に気絶したとかで話はできないのだが彼女だそうだ。
しかし異世界転移なんて本当にあるんだね。流行っていたので私も多少は嗜んでいた。タダだし。
読むたびに自分以外の人間の現実逃避願望や自分だけチート願望やハーレム願望に対して、
ほの暗い同情と同感とかまああまり健全ではない気持ちを抱いて、自分だけじゃなく皆病んでるなあと妙な安心感を持ったりしていた。
はあ......どうなるんだろこれから。いっぱい死体あったしめっちゃ不穏だよ。
怖いんだが。死んでもいいけど寝てる間にひっそり楽に逝きたいのよ私は。助けてくれ。神様よおぉぉぉ。
なんてごちゃごちゃ考えていたら乗り物酔いが悪化して吐いてしまい、千太郎君が臭いでもらいゲロして馬車が臭さで地獄と化した。
馬車が停まって目が覚める。どうやら気絶に近く意識を失っていたみたいだ。。
出入り口に張ってある幕がめくられ男の人が顔を出した
「くさっ!!」
めちゃくちゃ嫌そう。すいませんね!




