8 逃げ道を断たれる
近藤が単車に乗ってインターチェンジへと向かっていると、警察が検問をしていた。
……まさか。
少しだけ嫌な予感がした。
「失礼します、お顔を拝見させていただけますか?」
検問所で警察官に言われたので、素直にフルフェイスのヘルメットを外す。
「これでいいですか?」
「あの……近藤さんですよね?」
「ええっと……」
警察官は白けた顔で近藤を見やる。
「あの……通してもらえますか?
何も問題は無いと思うのですが」
「これは独り言なんですけどね」
「……?」
「インターチェンジの入り口には報道陣が待ち構えています。
全国ネットであなたが逃げ出す姿が放送されてしまいますよ」
報道陣?
まさかグラットニーが?
そんなに俺と戦いたいのか。
ストーカーじゃないか。
近藤は頭を抱える。
「あの……どこか別の道は……」
「申し訳ありませんが、公務中なので」
「…………」
警察官はそれ以上何も教えてくれなかった。
このまま先へ進んでも仕方がないと思った近藤は、来た道を引き返して別のルートをスマホで検索する。
すると何故か幹線道路は全て渋滞表示になっていた。
これもまさかあいつが?
単車なので、間をすり抜けることくらいは可能だ。
だが……もしかしたら誰かが街を脱出しようとする彼の姿を隠し撮りして、グラットニーに密告するかもしれない。
ううむ……どうしたものか。
どこへ逃げても奴に見つかりそうで怖い。
この様子だと、電車や飛行機などの移動手段も無理そう。
いっそのこと、実家に引きこもって……。
近藤はあれこれと考えながら、コンビニの駐車場でコーヒーを飲みながら煙草をふかす。
そうしていると……。
「あの、グレイトアッシュさんですよね?」
「……え?」
見知らぬ若者に声をかけられた。
「どうして俺がグレイトアッシュだと?」
「いまネットで話題になってるんですよ!
良かったら握手してもらえませんか?」
「え? まぁ……いいよ」
断る理由がなかったので、悪手に応じる。
すると彼と一緒にいた若者が断りもなくその様子をスマホで撮影する。
「ちょ……何を……」
「今、アッシュさんと握手した写真をSNSに上げると、
グラットニーが所属している事務所のヒーロー全員が、
アカウントをフォローしてくれるんです」
「へっ……へぇ……」
なぜそんなことを?
疑問に思っていると……。
「あれ、グレイトアッシュじゃね?」
「いたいた! ようやく見つけた!」
「さっさと写真撮ろうぜ!」
次から次へと若者たちが押し寄せてくる。
コンビニの駐車場はさながら握手会場のようになってしまった。
彼らは取った写真をSNSに投稿すると満足して、嵐のように去っていく。
いったい何が起こっているのか。
試しにスマホでグラットニーのアカウントを確認してみた。
すると……。
『○○町でグレイトアッシュと握手!
SNSに写真を投稿して彼を応援しよう!
どこで会ったのかも位置情報で教えてね!』
コイツ……。
グラットニーは何が何でも近藤と戦うつもりのようだ。
どうして奴がここまで固執するのか、その理由が分からないが……。
「これはいよいよダメかもしれないぞ……」
追い詰められた近藤はため息をついた。
対戦の日はすぐそこまで迫っている。