7 追い詰められた絶対無敗
「どうして……ここが……」
近藤は動揺を隠せない。
目の前にいるグラットニーが幻のように思える。
いや……そうであってくれ!
「探せば簡単に見つかるんだよ。
今は便利な世の中になったよなぁ」
ニヤニヤとマスクから露出させた口元をゆがませるグラットニー。
「俺になんの用だ?」
「決まってるだろ、対戦を申し込みに来たんだ」
「断ると言ったはずだが?」
「じゃぁ、仕方ねぇな。帰ることにするわ」
やけにあっさりと引き下がるグラットニー。
なにか変だなと思ったら、彼は去り際にこんなことを言う。
「実はもう、特設ステージの設営が終わってんだわ。
今日から大々的に宣伝も始める」
「は? 何を……」
「お前が故郷に逃げ帰ることくらい、こっちはお見通しなんだよ。
だから少し前から準備をしていたのさ。
もう街の人間にも話は通してある」
「だから……何を……」
「すぐにわかる」
彼はそう言って去って行った。
家の前に停めてある自分の姿をプリントした痛車に乗り込み、さっそうと去って行った。
「なんで……」
近藤は一人呟く。
「なんで軽トラなんだよ……」
グラットニーの愛車は軽トラだった。
グラットニーの宣言した通り、その日のうちから町中に変化が起き始めた。
街のいたるところで街宣車がグラットニーVSグレイトアッシュ対戦の宣伝をし、あちこちにアドバルーンが昇り、駅前にはたくさんののぼり旗。
対戦場所は市民球場の特設ステージ。
見に来た人には粗品(ク〇カード)をプレゼント。
全ての費用をグラットニーが持つらしく、市民は無料で観戦できるという。
「やっ……やりすぎだろ……」
あまりの宣伝ぶりにビビる近藤。
これで逃げたりしたら……。
「大丈夫なの、四郎?」
不安そうに母が尋ねてくる。
安心してくれとだけ答えて床に就いた。
どうせ俺は昔のヒーローだ。
忘れられてしまったも同然なのだから、逃げても誰も責めないはず。
そう思っているはずなのに……何故かとても怖かった。
翌日。
母親が青い顔をして部屋に駆け込んでくる。
「こっ……これを見て!」
彼女の手には一枚のカラー広告。
グラットニーとグレイトアッシュの対戦を告知するものだ。
「これ……町中に配られてるみたい!」
「そうか……」
逃げたら母はさぞ恥ずかしい思いをするだろうな。
そう思うと気が滅入る。
「ねっ……ねぇ、どうするの?
まさか本当に戦ったりしないわよね⁉
こんなバカな相手と……まさか本当に……」
「…………」
どうやら母は近藤の勝利を期待していないようだった。
いや……行くよ。
安心してくれ、俺の二つ名を忘れたか?
絶対無敗の名は伊達じゃないってところを見せてやるよ。
そう言いたかった近藤だが、言葉は出て来なかった。
翌日。
近藤は単車にまたがり家を出た。
さっさと逃げ出すことにしたのだ。